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龍の翡翠玉   作者: 遊兎
22/38

封印部屋



「ボクも見たよ、今日の…ドラゴン」


「ああ…」


おれはあのときの様子をまざまざと

思い出して、何も言えなくなった。


「外で轟音が聞こえたから、

よく見ようとして真ん中の塔の

最上階に行ったの。

小窓から覗いて見たら、

もう、すぐそこに鉤爪があった」


確かに、あのドラゴンは

真ん中の塔の一番大きな旗の裏から

姿を現した。ルゥは相当近くで

ドラゴンを見たことになる。


「怖いよ…まあでも、

ボクはこれ以上死なないから

いいのかもしれないけど…。」


ルゥはくいっと顔を上げ、

必死な目でおれとアシュメルを見た。


「ねぇ、ナルミ、アシュメル、

ドラゴンを野放しにしておくつもり?

先生にそう言われた?」


「え?あ、ああ…まぁ…

先生はそう言った…かな」


アシュメルがおれをちらっとみた。

おれはふふ、とスティラみたいに

余裕で笑ってみせた。


「言われたけど守る気はないぜ」



別に。

ドラゴンを倒すことがかっこいいと

思ってるわけじゃない。

反抗することがかっこいいと

思ってるわけじゃない。


帰ってこれないかもしれないことは

よくわかっているし、もしかしたら、

ドラゴンにたどり着く前に

しんでしまうかもしれないって

ことも知ってる。


そんな危険を冒してでも

ドラゴンを退治に行きたいのは、

スティラの子どもの話を

聞いてしまったから。


だってそいつ、おれの弟

みたいなもんだろうし。


「おれたち、ドラゴン退治、行くよ。

さっきは、星占術の資料をとか

言ってたけど、あれは嘘で本当は

ドラゴンの資料を見に来たんだ」


ルゥはふぅん、と言ったきりだった。

そしてすうっと滑るように

図書館の中に入っていった。


振り向いて、言う。


「ついてきて」


そのとき、ルゥの目が厳しく光ったのを

おれは見逃さなかった。


「ルゥ…?」


「なにぐずぐずしてんの、行くよっ」


おれとアシュメルは、顔を見合わせた。

アシュメルが信じらんねぇぜという

顔をしている。ああ、おれも

同じ気持ちだよ。


「授業さぼってこんな楽しいことに

なるなんてな」


おれが言うと、アシュメルが心底嬉しそうな顔でにたぁっと笑った。


「ラシュテルゲン、ほんとに楽しいところだぜ。」



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