表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の翡翠玉   作者: 遊兎
17/38

奪われた幸福(しあわせ)


たしかに、相手は大魔女。

黒魔法の女王なわけだから

どんな魔法もおてのもの

ってやつだよな。


「ほんとうに、大魔女かなあ」


アシュメルはまだ疑っている。


「話が飛んだね、ごめん。

どこまで話したっけ?」


「先生のお子さんが…」


お子さん、ね。


自分で言っておいて

おかしいなと思った。


だっておれ、スティラに

育てられたんだもん。

だからおれだってスティラの

「お子さん」だもん、

少なくともおれはそう思ってるもん。


「ああそうだ。さらわれたところか」


他人事のように話す口調が

まるで悲しみを遠ざけようと

しているかのようで。

聞いていてちょっぴり、胸が痛い。


「ちょうど1人で立って歩けるように

なったくらいだったんだ。

だから、散歩に行った。小高い丘。

少し曇っていたけど…

雨が降る前にって。

いつも通りだった。本当に。

全部、なにもかもね」


でも、奪われた。

あの忌まわしい爪で。

あの呪われた火炎で。


「ドラゴンは、村を半壊状態にした。

僕の子どもをさらっただけじゃなくて、

僕の村の人々の生活も台無しにした」


それはしあわせとは程遠い

夢だったらいいのにと思う光景。

想像するだけでも、苦しい。


「先生は、ドラゴン倒せなかったの?

倒そうとしなかったの?」


アシュメルが興味津々に尋ねる。


「もちろん、倒そうとした。

僕はその頃、自分でも自分のことを

強い魔法使いだと思ってた。

そう、ちょうど君みたいにね、ナルミ」


見透かしてるよっていう

スティラの視線におれははにかんだ。

だって、校長直伝の魔法だよ?



「でも、そんなの自惚れでしかなくて、

あいつには…かなわなかった」


自惚れ…たしかに

おれも自惚れだよ。


でも、つらそうに歪んだ

スティラの顔を見ていたら、

なんだかいてもたっても

いられなくなった。

スティラの過去を聞いてしまっては

なおさらのことだ。


おれは我慢できなくなって、彼に訊いた。


「じゃあ、今は?」


「え…」


「今でも、かなわないって思う?」


今度はおれがスティラの目を

まっすぐ覗き込む番だった。

彼の目はぐらりと大きく揺れた。

文字通りに揺れた。


「…わからない…」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ