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15 : それは可能性の一つ。





 あとから駆けつけられても事後処理が面倒になるから、という理由で、ノルジスはフェリトワの友人兼護衛という名目で魔の討伐に借り出された。レヴンとセヴンはいい顔をしなかったが、噂の魔王の説明をしたらとりあえず理解はしたようだった。


「眠くなったら、教えてよ? この前みたいに、戦場でいきなり眠ったりしなければそれでいいから」


 というセヴンの言葉に「うん」と頷く。


「ラダさんから離れないで、王子のところにいてよ? 帰りたくなったらそれでもいいから、そのときは教えてね」


 というレヴンの言葉にも「うん」と頷く。


 息子たちを送りだしてから、ノルジスはフェリトワとその竜騎士たちと、少し遅れて出発した。


「守備は?」

「魔王討伐に関しての全権は委譲された。やはり陛下は諸手を上げたし、姉上は今こそとばかりに目を輝かせておられたよ」

「王サマはともかく、きみのお姉さんはかなりきみに期待しているね」

「姉上はわたしを立たせようとしてくださる」

「有難迷惑だけど?」

「まあ……複雑ではある」


 王子として国の期待に応えるつもりはあるけれども、フェリトワには英雄になる気がない。魔王討伐で英雄扱いされるのは勇者だろうが、その勇者の後見としてフェリトワが立ったわけであるから、重臣や上位貴族はフェリトワに対しての態度を改めることになる。今まで蔑ろにしていた第二王子が凱旋したら都合の悪い者たちもいるのだ。フェリトワにその気がなくとも、担ぎ出す者もいるだろう。


「きみのお姉さんは、きみをどうしたいのだろうね」

「愛してくださっているのはわかるが……まあ、文句は言えないな」

「王族は大変だ」

「理解している」


 面倒ではあるが、今は眼前の問題を片づけなければならない。あとあとのことは、そのときになったら考えればいいと、フェリトワは半ば諦めているようだ。


「ところで、その……訊いておきたいことがあるのだが、いいか?」

「僕に答えられるものなら、どうぞ」

「銀竜はわたしが嫌いなのか?」


 意外な質問だった。


「ラダさんは……」


 ノルジスは、その背に乗せてくれている銀竜に視線を落とし、美しい銀の鱗を撫でる。今日も上機嫌にノルジスを乗せてくれる銀竜は、とても自由気質な竜だ。白竜という夫がいても、常に一緒にいることは拒む。娘の黒竜のことでさえ、半ば放置状態だ。


「もともと単体でいることを好む習性があるから、べつに王子が嫌いなわけではないよ」

「そう、なのか?」

「人に懐く種類の竜ではないって、王子が言ったんでしょ」


 白竜や銀竜を初めて見たときから、フェリトワはずっと、触りたそうにしていた。もともと竜とは相性というものが必要になるので、最初に触れることを拒まれてしまったフェリトワは、どうしたって銀竜に触れることができない。ノルジスのように竜と会話できれば、フェリトワにも銀竜に触れる機会ができたかもしれないが、今のところは望めないだろう。


「そもそも僕、懐かれた憶えはないんだけどね」

「? 銀竜だけでなく、ほかの竜たちも、あなたには深い興味を抱いている様子だが」

「そりゃあ言葉が通じるんだから、仕方ないよ」

「竜の言葉がわかるのか」

「きみたちだって、はっきりとはわからなくても、なんとなくわかるでしょ」

「まあ、そうだが」

「僕の場合は、言語としてそれを認識できるだけ。結果的に懐かれることになったのだとは思うけれど……なんでだろうね」


 自分を最初に愛してくれたのは竜だった。ノルジスをノルジスとして最初に認めてくれたのはフランシェドールだったけれども、彼女はノルジスを、愛してはくれなかったのだ。いや、愛されてはいたけれども、竜たちのような愛情ではなかった。


「僕が最初に出逢ったのはドールだった。ドールにいろいろなことを教わって、僕は僕になった。けれど、僕だって寂しいときや悲しいときがあるのに、ドールはそれを理解してくれなくてね。まあ、僕もドールにはそんなこと期待してなかったけど……竜たちが、気づいてくれてねぇ」


 最初は銀竜だった。そして銀竜に求婚していた白竜に出逢った。仲を取り持って生まれたのが、黒竜だった。


「……あなたは、自身を人間ではないと言うが、まるで人間だ。どこに、人間ではないという違いがある?」

「言ったでしょ。誰かが言ったんだ。誰かがそう言ったのなら、それがたとえ真実でなくとも、真実になってしまう。人の想いは伝播するものだからね」

「他人に責任を押しつけるのか」

「そうとも言うかな。けれど……なら僕が人間だと言い張って、いったい誰が信じてくれるの?」


 フェリトワは「わたしが」と言いかけて、口を閉じた。安易に言えなかったのだと思う。


「僕が人間ではないと、誰かが言った。その言葉は伝播する。僕が否定して、それを信じる人は、果たしてどれだけいることだろうね」


 もはやどうでもいいと思っていることだが、フェリトワが懸命にノルジスを人間にしてくれようとしているから、つい考えてしまう。

 すべてを諦めて放り投げる前に、もう少し、もう少しと、足掻いてみればよかっただろうか。人間であることに固執し、魔王であることを否定し、そうして人々に貢献していればよかっただろうか。

 いやしかし、とノルジスは緩く首を左右に振る。


「それではドールを否定することになる……僕だけは、それをしてはならない」


 人間であることを肯定し、魔王であることを否定するのは、ノルジスが愛したフランシェドールを全否定することになる。

 けっきょくノルジスは、愛した女に振り回されているのかもしれない。


「ところで王子サマ」

「なんだ?」

「僕らは魔王討伐に立ちあがったわけだけれど、肝心の勇者サマはどこにいるのかな」

「ああ……王都から出て、まずはトーエイの森に向かっているはずだ。そこが本拠地とされているからな」

「僕の家がヤバいわけね……」


 フランシェドールと過ごした森を荒らされるのはいやだな、と思う。あの地はノルジスが生じた場所で、息子たちが生まれた場所で、フランシェドールが世界を見守っていた場所だ。


「いっそ僕が魔王だと、名乗りを上げてしまおうか……」

「そんなことをしていいのか」

「討伐されるべき魔王は僕ではないからね。それに……半年も家を空けたことがない。ちょっと心配だよ」

「あなたが住んでいたという場所まで、勇者が辿りつけるとも思えないが」

「……きみ、勇者のことまるで信じてないね」


 勇者の実力を無視したフェリトワは、ノルジスの指摘に複雑そうな顔をする。


「わたしが保管していた文献を粗末に扱っていた……あれは読む、調べる、というよりも、玩具を見つけたような顔だった」

「おや、ひどい勇者もいたものだ」

「文献には過去の勇者が用いた力の説明もある。それを求めたのだろうが……読み解くことができたかどうかは、定かではないな」

「ねえ、王子サマ」

「なんだ」

「それは本当に勇者なの?」

「……。なんだと?」


 ノルジスの問いは意外だったのか、フェリトワは目を丸くした。


「僕が知る勇者は、少なくとも賢者だったよ。もちろん頭でっかちの愚か者もいたけれど」

「……わたしは勇者に直接逢っていないのだ」

「きみのお姉さんは、勇者をなんと言っていたの?」

「稀に見る腕前の剣士であると」

「剣士……そう、今時代の勇者は、剣士か」

「なにかあるのか?」

「なぜ竜騎士ではないのかと思ってね」

「それは……」


 フェリトワが、ハッとしたような顔をする。


「勇者は竜を従えるものなのか」

「従える、のではないよ。言葉を理解できるはずだ。僕のようにね。そうすると自然、竜がそばに寄ってくる」

「あなたは勇者にもなり得たのか?」

「ドールはそう言っていたね。竜と会話できるのは、かなり特殊なことだと言っていたから」

「……では、召喚された勇者は」

「竜をそばに置いていないのなら、それは勇者ではない可能性がある」


 一つの可能性であり、それは確かなことではないのだが、考えておく必要はあるだろう。

 ノルジスがそう言うと、フェリトワは神妙に頷いた。


「ともかく今は、街を襲っているという魔獣を討伐に行こうか」

「……ああ。トーエイの森へは、そのあとに行くとしよう」

「おや、僕の家を護ってくれるのかい? きみたちが嫌う魔王の棲み処だよ?」

「人間の言う魔王は、あなたではない」

「ほう」

「あなたは魔女フランシェドールと、魔のために存在する、魔を統べし王だ」


 前を行くフェリトワが言い切ったあと、ノルジスは小さく笑って、その背に続いた。







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