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11 : 語らせてはいけない。





 さようなら、という声が聞こえる。

 その声を聞きたくなくて、両手で耳を塞いだ。


「……起きたね、ノルジス」


 暗闇から逃れるように瞼を開けると、すぐにレヴンもセヴンも気づいて、顔を覗きこませてくる。息子たちの長い髪が頬を擽ったので、そろそろ切ってあげようかな、と暢気に思う。


「髪、切ろうか」

「うん、ノルジスもね」

「僕も? そんなに長く……なってるね」


 身体を起こすと、さらりと自分の黒髪が流れる。いつのまにか前髪がいくらか長くなっていた。目にかかるかかからないか、という長さを保っていたのに、気づけば頬より下に前髪が長い。襟足も肩より下に長くなっていた。


「……だいぶ眠ったね、僕」

「起きないかと思った」


 するりと首に、息子たちが懐いてくる。声に力がないと思ったら、どうやら心配をかけたせいらしい。


「どれくらい眠ってたのかな」

「半年」

「……。え」


 吃驚した。自分でも、驚いた。


「そんなに眠ったのか……久しぶりに長かったなぁ」

「うん。いつもなら一週間くらいなのに、すごく……すごく、長かった」


 怖かったよ、とセヴンが、寂しかったよ、とレヴンが、小動物のように小さく震えながらしがみついてくる。このときばかりは素直に息子たちが可愛かった。いや、起きがけのときは、いつも息子たちが可愛く見える。眠ったノルジスが、今度はいつ目覚めてくれるのかと不安になるから、目覚めたときはとにかく安心するらしい。

 ふだんより何倍もおとなしい息子たちは、一頻り懐いたあとは、ノルジスに食事を用意した。たらふく食べさせられて、また眠気が襲ってきそうだったが、欠伸が出たくらいで本格的な眠気はこなかった。長く眠ったぶん、今回はしばらく起きていられそうだ。


「ここは?」

「砦の奥にある王子の城。城っていうか、邸だね」

「家をもらわなかったの?」

「もらったよ。でも、この砦の中。つまりこの部屋と、おれたちの部屋」

「ああ、なるほど。上手いなぁ、あの王子サマ」


 家をちょうだい、と言ったセヴンに、フェリトワも考えたものだ。ノルジスと一緒にいられるなら、という息子たちに、ならここに住めばいいとでも言ったのだろう。自由にしていいと言われれば、この邸の住み心地はいいから、まあ問題はない。それに、息子たちを魔術師として優遇するなら、自分の近くに置いていたほうがなにかと都合もいいはずだ。


「憶えてるんだね」

「ん?」

「眠る前になにがあったか。大抵は忘れちゃうのに」

「ああ……強烈だったからね」


 フェリトワやツヴァイの印象が、ルインという執事の印象が、とりあえず記憶に残るくらいには強くある。

 あとは、意識を手放す前に抱きこんだ、魔の感情。


「きみたちが楽しそうにするから、魔も楽しそうにしちゃって……取り込むことになる僕の身にもなって欲しいね」

「ノルジスが来るなんて聞いてなかった」


 むう、としかめっ面をしたセヴンは、かなりご立腹だ。レヴンも、表情はないが同じような空気を身にまとっている。


「ノルジス。なんでおれとセヴンに任せてくれなかったの?」

「きみたちが遊んでいたからでしょ。声がうるさくて気になって仕方なかったんだよ」

「遊んでいたわけじゃない」

「そうそう、きみたちは怒っていたね。誰だっけ? 魔術師のひとりに、絡まれたらしいけど」

「まだ絡んでくる。あれ、殺してもいい?」

「やめなさい。せっかくのお給料が消えるよ」


 むう、とレヴンも漸く表情が出る。

 息子たちに心配をかけ過ぎたっぽいな、とノルジスは肩を竦めた。


「あれからどれくらい、魔を狩ったの?」

「そんなには。面倒だから、もうとにかく消しまくった」

「消しまくったって……」

「だってノルジス起きないし」

「あー……それは不測の事態。僕もまさか、半年も眠るとは……うん、久しぶりだ」


 寝台から出られない脚に、情けなさで顔が引き攣る。立って歩くには、少し時間がかかりそうだ。


「だいじょぶ?」

「身体に異常はないよ。いつも通り、足が萎えてるってことくらいかな」

「そう……よかった」


 歩く練習しないとね、と言う息子たちの言葉に、そうだねと頷く。とりあえず空腹感も癒え、眠気ともおさらばしたので、休憩したら歩く練習をしなければならない。感覚を取り戻せば回復は早いので、明日中には歩けるようになるだろう。こういうところは人間っぽいなぁと思う。


「魔は、そんなにたくさんいたのかい?」

「たくさんというか……レヴン、どう思う?」


 魔の増加について、セヴンは判断をレヴンに委ねたが、セヴンがそうするくらいにはレヴンも判断に困っていた。


「間隔を置かずに現われては、いた、かな」

「毎日ってわけではないんだよね」

「ああ。でも、だからといって数日置くこともなかった。それくらいの頻度で現われて、話が通じそうなくらい格のある魔も、それほどいなかったね」


 息子たちの判断に、はて、とノルジスは首を傾げる。

 魔は、増えもしなければ減りもしない。常に一定の数がこの世界には存在する。

 そう、聞いたのに。


「こんな前代未聞なこと、起こって欲しくなかったなぁ……僕、もともとこの世界の住人じゃないのに……難しいことしてくれるねぇ」


 随分な無茶ぶりをしてくれる、と思ったときだった。


「この世界の、住人ではない?」


 この声は、と振り向くと、どうやら開け放したままにしていたらしい扉の前に、フェリトワがいた。数人の近衛騎士と、ツヴァイもいる。


「やあ王子、ノックもなしにしかも聞き耳を立てていたとは失礼だね」


 声をかけると一瞬だけ気まずそうな顔をしたフェリトワは、だが「扉が開いていたのだ」と開き直り、ツヴァイだけ連れて部屋に入ってくると扉を閉めた。


「入室を許した憶えはないんだけど」


 半眼した息子たちが、暗に出て行けと文句を言う。しかし、フェリトワはノルジスが呟いた言葉が随分と気になるようで、綺麗に無視していた。ノルジスが座る寝台の横までくると、勝手に椅子に座ってしまう。


「起きたのだな、ノルジス」

「おかげさまで」

「半年も眠ったままになるとは思わなかった」

「それは自分でも吃驚。まあ、森を出てから遮るものがなかったから、そのせいかな。疲れたんでしょ」

「遮る、とは?」


 目敏いな、と思いながら、とんとん、と自分の耳を指でつつく。


「声だよ。いろいろな声が聞こえるから、精神削るんだよ」

「たとえばどんな?」

「質問攻めだね……きみたちには聞こえない声だよ」

「魔?」

「だとしたら? 魔の声が僕に聞こえていたとして、なにか変わるのかい? 意味のない質問はしないほうがいい」

「己れの無知で犠牲を招くことは避けたい。だから訊く」


 より多くの知識を求める、とフェリトワの空色の瞳が雄弁に語る。


「……賢明だね」

「魔の声が聞こえるのか? 彼らはなんと言っている?」

「残念ながらごちゃごちゃ聞こえるから、一つ一つは答えられないよ。感情ならわかるけどね」

「では、彼らはどんな感情を?」

「人間と一緒だよ」

「……同じ、だと?」


 それは意外だ、というフェリトワの顔に、そうだろうなと思う。今までノルジスに、魔王に、魔のことについて訊ねてきた人間などいない。いや、過去を掘り起こせば数人はいただろうが、ノルジスは初めてだ。魔の詳細な説明など、この世界で説明できる人間はいない。


「魔だって、楽しいときや悲しいときがある。ほかの動物と変わらない営みを持ち、人間のように感情を理解し、けれども彼らは破壊衝動という本能から逃れることができない。魔は、そう作られている」

「……ほかの動物と変わらないというのは、なにかの本で読んだ。なぜ彼らにはその本能があるのだ?」


 フェリトワからは、無知でいたくない、という素直な思いが感じられる。自国のためといえば立派だが、それは単なる知識欲のように思えた。最初に抱いた印象のとおり、この邸にある書庫の状態からも、フェリトワは学者肌なのだと思う。


「僕がきみのところへ行って、眠ったあの日」

「……。あの日が、どうした?」

「僕は創成記の序説を読み上げたね」

「ああ……あの魔女はけっきょく、ひとりの勇者に封じられる。だから今のこの世界があるとされているな」

「魔は、彼女が創り出した悲しい生きものだよ。つまり、過去の遺物だ」


 少しだけ、ほんの僅かだけ、フェリトワは目を丸くして驚く。考えればすぐわかることだろうに、思い至らなかったのだろうか。


「魔の破壊衝動は、彼女の復讐だ。だから魔はその本能から逃れられない。魔は彼女に作られた存在だからね。そして魔にほかの動物と変わらない営みがあるのは、勇者が彼女を封じた結果によるもの。その数が増えもせず減りもしないのは、彼女と勇者の戦いの名残り。ふたりの均衡が、魔の均衡と言える」

「……では、魔の増加は」


 フェリトワがそれを言う前に、ノルジスは口を開く。


「ありえない」


 魔の増加傾向は、封じられた魔女の復活を促すものではない。それははっきりしているのだと、ノルジスはフェリトワを真っ直ぐ見やる。


「なぜ、言いきれる。可能性がないわけでは、ないだろう」

「王子、忘れていやしないかい。僕は、なぜ魔王なの?」


 問うと、フェリトワは「失念していた」とばかりに言葉を詰まっていた。


「魔を統べる王が存在するのは、なぜ?」

「……待て。そう言われると……魔王がどちらの側にいるのか、わからなくなる。魔王は魔女の? それとも勇者か? どういうことだ」


 混乱している様子のフェリトワに、ノルジスはふっと息をつくと微笑む。


「魔王は、魔女の良心だよ」

「……なんだと?」

「だから感情がわかる。声が聞こえる。だから……消滅に導くことができる」


 ふう、と肩から力を抜き、そういえばラダさんはどこに行ったのかな、とこの場には関係のないことを思って、窓から空を見上げた。眠りに入る直前にそうだったように、空は曇っている。太陽を拝みたいなぁと思った。


「魔王は彼女を殺すことができる、唯一の存在でもある。良心だからね……つまり、魔をすべて消滅させることができる、というわけだ」

「では……ノルジスがその気になれば」

「僕は二度も彼女を殺すつもりはないよ」


 誰かが息を呑んだ。フェリトワだけではない。息子たちも、ノルジスの発言にひやりとしたのだと思う。


「……魔女を知って」

「王子!」


 レヴンが、セヴンが、フェリトワのその問いを遮った。遮られてフェリトワは驚いている。

 けれども、遅い。ノルジスは聞いた。


「そうだね……僕は彼女をよく知っている」


 ぴしり、とどこかが軋んだ。

 ぱきん、とどこかが割れた。

 ぐらり、と視界が揺れた。


「ノルジス、喋らなくていい!」


 レヴンの制止に、ノルジスはうっすらと微笑む。


「彼女を殺したのは僕だからね」


 ばきんっ、と眺めていた窓が割れ、壁に亀裂が入り、壊れた木枠や硝子が辺りに散らばった。

 ああ、やってしまった、と思った。起きがけは、充分に体力があるから、どうにも力加減が上手くない。


「僕が、彼女を殺した……この手で、ね」

「ノルジス!」


 喋るな、とレヴンが、セヴンが、ふたりしてしがみついてくる。

 とたんに力加減の方法を思い出した。

 可愛い息子たちに怪我をさせるかもしれない、ということに血の気が引き、また自分は大切な存在を消そうとするのかという恐怖に襲われた。


「レヴ……っ」

「わかってる。ごめんね」


 腹部に重い衝撃が走る。

 レヴンの拳が、ノルジスの意識を再び闇の中へと戻した。











 力なくレヴンの腕の中に倒れ込んだノルジスに青褪めながら、セヴンはそうなった原因に腹を立てた。


「よくもノルジスに喋らせたな!」


 怒鳴りつけ、憤りも露わにフェリトワへ噛みつく。状況を上手く呑み込めていない様子のフェリトワは、セヴンのその勢いに一瞬だがびくりと身体を震わせていた。


「な……んの、ことだ」

「ノルジスに、喋らせた! 喋らせちゃいけなかったのに!」

「魔女のことか? だがそれは、ノルジスが自分から……」

「だからいやなんだ! 魔のこともよくわかってないくせに、易々と語ってみせる人間が!」


 ぶわりと唐突に風が舞う。足許に白い陣が浮かび、セヴンの感情に同調して蠢きを見せる。


「セヴン、落ち着け」

「うるさい!」

「だいじょうぶだよ。ノルジスは消えてない」

「消えてもおかしくなかっただろ!」


 落ち着かせようとしてくるレヴンにも怒鳴った。セヴンに冷静さを求めるのは、レヴン自身も怒っているからだとその双眸が語っている。


「……なにがおまえたちを、そこまで過敏にさせている?」


 セヴンの足許に浮かんだ陣は見えているだろうに、怯みもせずフェリトワは訊いてくる。ツヴァイは剣に手をかけ、いつ攻撃されてもいいように控えているというのに、暢気な王子だ。ノルジスが割った窓の音で、部屋の扉の向こうにいる近衛騎士もいつ飛び込んでくるかわからない。


「魔女は、おまえたちにとって禁句なのか」

「おれたちじゃない。ノルジスだ。彼女のことをノルジスに喋らせるな」

「……では、おまえとレヴンに訊けばいいのだな?」


 どうせ訊きたいのはノルジスと魔女の関係だろう、と思っていたが、案の定フェリトワが訊いてきたのはそれだった。


「ノルジスと魔女の間に、なにがあった? そもそも魔女は創成記の序説に書かれるほど昔に存在した者で、建国当初の千年近い過去のものだが?」

「……そんなに訊きたいの」

「先にも言った。己れの無知で犠牲を増やしたくない」


 知識欲だ、と思う。フェリトワは、国を護るために魔術師をまとめ、竜騎士を率いているが、その求める知識はフェリトワ自身の欲だとセヴンは思う。魔獣狩りの任務に同行するたび、それはつくづく感じられたことだ。

 王子という責任が、フェリトワをそうさせているのかもしれない。

 とすれば、フェリトワは、ノルジスがそう判断したように「いい人」だ。

 だが、それを信じていいのかわからない。フェリトワの人柄は、ノルジスが眠っていた半年間でよく観察し、害にはならないと思ったのは事実だが、それでもわからない。


 セヴンが押し黙っていると、双子の兄が口を開いた。


「真実は、いつも隠されているものだよ」


 その一言は、この国、アルファンデスの創成記を覆す言葉だ。


「真実、とは?」

「たとえば勇者が、たとえば魔女が、とある交渉をしていたら、どうなると思う?」

「交渉? なにか約束を交わしたというのか」

「勇者は魔女に言った。もう一度だけ、人間を信じて欲しい。絶望しても、その望みを見失わないで欲しい。魔女は言った。では証明してみせろ」

「……そんな一文、創成記には」

「ない。だから言っただろう。真実はいつも隠されている」


 レヴンの語ったことに、フェリトワは顔色を失っていた。まさかここでアルファンデスの創成記を覆されるとは、思っていなかったのだろう。

 当然だ。これは、誰にも語られたことのない真実なのだ。


「魔女と勇者はどうなった……」

「勇者は魔女を封じなかった。封じたふりをした。それだけだよ」

「封じなかった?」

「魔女は、証明してみせろ、と勇者に言ったのだからね」


 当然の流れだろう、と小首を傾げたレヴンは、腕に抱いたノルジスをゆっくりと寝台に横たえ、セヴンの肩をとんとんと叩いてくる。少しは落ち着いたか、ということらしいが、足許の陣は消えない。

 消せないでいると、双子だからできることだが、陣をレヴンに奪われた。レヴンの足許に移動した陣は、レヴンの意思で動き、修復魔術に書き換えられる。壊れた窓や亀裂が入った壁が、緩やかに時間を戻して修復された。


「……勇者はどうやって証明してみせた。封じられなかったのなら、魔女は今でも生きて……いや」

「言うな」


 フェリトワが口にしかけた言葉を、セヴンはフェリトワを睨んで遮った。だが、同じくらいの強さでフェリトワは睨んでくる。


「魔女が生きているとしたら問題だ。魔女はこの世界を恨んでいる。魔の増加は魔女が原因かもしれないのだぞ」

「それはないと、ノルジスは言っただろ」

「では魔女は? 勇者は? どこにいるのだ」


 言わせる気でいるフェリトワに、腹が立った。だが、その問いをノルジスに向けられたくなかった。


「勇者は魔女と交渉したのち、人間の生をまっとうして死んだ。国に英雄として扱われながらね」

「そこは創成記に在るとおりか……魔女は?」


 腹立ちが増す。今、とてもひどい顔をしていると思う。レヴンはしらっとしているが、双子の兄はセヴンと違って表情の動きが鈍いだけで、内側ではものすごいことになっている。その感情が伝わってきて、セヴンは拳を握った。


「死んだよ、もちろん。だからもう彼女はここに存在しない」


 セヴンの言葉に、フェリトワは明らかにほっとしていた。それがさらに、双子の腹立ちを膨らませる。

 魔女の死を喜ぶ人間が憎い。

 やはり、人間は嫌いだ。

 やはり、森から出てくるのではなかった。

 穏やかなあの生活を、護るべきだった。

 まさかこんなことを王子に語ることになるなんて、あのときは考えてもいなかった。ただ適当に、魔術師として数年を過ごせればよかった。たくさん稼いで、しばらくはなにもしないでノルジスのそばにいられるように、できればそれでよかった。手っ取り早く稼げると思ったのが、いけなかった。

 今さら後悔しても、遅いけれども。

 これはなんの運命なのだろう。


「ノルジスは、なぜ魔女を知っている?」


 これはなんの、運命の悪戯だろう。

 ずっと、ずっと、誰にもなにも、語らなかった罰だとでもいうのだろうか。


「フランシェドール」

「……なに?」


 セヴンが黙っていたら、レヴンが淡々と答えてしまった。


「フランシェドールがノルジスを遠くから呼び寄せたんだよ」

「……魔女の名?」

「そう。フランシェドール。ノルジスは、ドールって呼んでいたかな。ノルジスが前にいた世界では人形って意味になるらしくて、フランシェドールは確かに人形っぽかったからね」


 だから、とレヴンは続ける。


「おれたちもドールって呼んでいたよ」


 ねえ、と促される。セヴンも頷いた。


「愛称をつけられるのは嬉しいって、ドールが言ったからね。そもそもノルジスも、その名前はドールがつけたもので、愛称みたいなものだからね。ふたりしてそう呼び合うから、おれたちも自然とそう呼ぶようになった」


 苛立ちを抑えるように、息を吐き出しながら言葉にする。


 魔女、フランシェドールのことを口にするのは、どれくらいぶりだろう。


「おまえたちも……魔女を知っているのか?」


 なにを当たり前なことを、と思う。レヴンとセヴンは、ノルジスと同じくらい生きているのだ。知らないわけがない。いや、知っていて当然だ。


「ドールはおれたちの母親だよ」

「……なんだと」

「ノルジスの妻、おれたちの母、それが魔女フランシェドール。世界に絶望し、復讐を誓い、魔を溢れさせたひとだけどね」


 美しい魔女だった。

 そう、ツヴァイのような赤い髪と、紅色の双眸の、とても美しいひとだった。ノルジスが黒いから、フランシェドールと並んで立つと、互いに互いを際立たせてとても鮮やかだった。







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