【08】 ミラーマッチ①
〈カケル視点〉
「え、えっと……じゃあ、あんたっぷ? あっぷきーぷ、からの、どろーで……らいぶらりーから、カードを1枚、引いて……」
辿々しい、声と手つきで。
本日初めてMTGに触れたメスガキ中学生……キララちゃんが。
アップキープ処理を、行なったのちに。
メインフェイズへと移行していく。
その隣の席では。
「……」
腕を組み。
渋面を浮かべた。
金髪プリン頭の中学生……ジュリアちゃんが。
物言いたげに、口先を尖らせているものの。
彼女はあくまで、ルールがわからない場合。
あるいはルールを、間違えていたときに。
横から指摘する立場の、指導者だ。
従って、自分から口出しはせずに。
初心者のプレイングを、見守っている。
(ま、慣れないうちはどうしても、スームズにはいかないよね。仕方ない仕方ない)
ちなみに、長机を挟んだキララちゃんの対戦相手は、僕であり。
使用するのは、キララちゃんと全く同じ構成の、スリヴァリンデッキである。
いわゆる同型対戦だ。
「夢尾さん」
その隣には、イケメン中学生……リュウセイくんが、着席していて。
キララちゃんと違って、ゲーム進行に慣れきっている僕たちは。
手持ちぶたさを埋めるために、のんびりと。
お喋りをする余裕があった。
「ん? なんだい?」
「いえ、ルールを覚えるには、実際に遊ぶのが一番手っ取り早いっていうのは、わかるんですけど、だったら対戦相手役は、僕かジュリアで、夢尾さんがキララの横について、指導してあげたほうがいいんじゃないですか?」
「う〜ん……まあそれはそれで、アリなんだけど、さ」
「?」
首を傾げる、リュウセイくんから。
視線を、正面の対戦相手へ向けると。
「じゃあ、まずはセットランドをして……」
キララちゃんは、慣れない手つきで。
手札から新たな土地を、戦場に追加。
「【森】と【森】をタップして、〈緑〉を2マナ出してから、それを使って【筋肉スリヴァリン】を召喚……できますよね?」
「おう。問題ねーよ」
ジュリアちゃんに、確認をとりつつ。
不安そうに、クリーチャーを召喚して。
「ん、じゃあこれで、攻撃を――」
「――はいストップ。『召喚酔い』を、忘れてんな?」
「あっ!」
召喚したクリーチャーで、すぐに攻撃を仕掛けようとしたものの。
今度は待ったを、かけられてしまい。
「……じゃあ、ターンエンドで」
少し、気恥ずかしそうに。
ターンの終了を、宣言するのだった。
「ん、了解。じゃあ僕のターンだね」
そんな初心者の、プレイングを。
微笑ましく見守りながら。
(でもせっかく、ミラーマッチをしているんだから、さ。このデッキの制作者である僕が、ちゃんと、デッキを回すところを見てもらって、キララちゃんにはこのデッキの『正しい回し方』を、実際に体感してもらいたいんだよね)
そんな想いを、胸に抱きつつ。
僕もアンタップ、アップキープ、ドローカードの流れを。
澱みなく、済ませた後で。
ゲームの2ターン目。
メインフェイズへと移行する。
「土地を配置。2マナを使って【活性スリヴァリン】を召喚するよ」
僕が自作したこのスリヴァリンデッキは、魔力補助に優れた緑を主体としつつ、その他の色を添えた、多色デッキである。
そしてたった今、僕が召喚したクリーチャーの能力は、以下の通り。
【活性スリヴァリン 〈緑〉①
レア度……コモン
カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』
1/1
〈瞬速〉(あなたがこの呪文を、あなたがインスタントを唱えられるときならいつでも唱えてよい)
すべてのスリヴァリンは〈瞬速〉を持つ】
この能力は、ざっくり言うと『本来なら自分のターンのメインフェイズ中にしか召喚できないクリーチャー呪文を、戦闘中や、相手のターン中にもプレイできる』というもの。
なので、こうして僕のメインフェイズ中に。
2枚しかない土地を全消費して……つまりはもう手札から呪文をプレイできないという『隙』を、晒してまで。
召喚する必要は、ないのだけれど。
今回は〈瞬速〉への、警戒心を薄めるために。
あえての隙を、晒している。
「ふむふむ……ううん? センセ、このカードって、強いんですかあ?」
「ふふっ、さあね」
「う〜ん……ま、いっか」
案の定。
見慣れないクリーチャーのテキストに目を通したキララちゃんは、一見して、現時点では戦場に影響を与えていない【活性スリヴァリン】のことを、軽視している様子だ。
「……」
もっとMTGへの理解度が深い、ジュリアちゃんなどは。
僕の不自然なプレイングから、何らかの意図を察しているようだけど……うん、やっぱりこの場は、アドバイザーに徹するつもりらしい。
何も言わずに、口を噤んでいる。
「じゃあ、ターンエンドで」
「えへへ。悪いですけどセンセ、勝負なので、容赦はしませんよーっ♡」
むしろ、今のよくわからないプレイングで。
僕のデッキが回っていないと、判じたのか。
調子に乗ったメスガキが、楽しげに。
口元から八重歯を、覗かせた。
「アンタップ、アップキープ、ドローカードして、【山】をセットランドしてからの……とりゃーっ!」
威勢よく、手札から。
戦場に叩きつけたのは……
【火跡スリヴァリン 〈火〉〈緑〉①
レア度……アンコモン
カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』
1/1
すべてのスリヴァリンは「〈速攻〉(このカードは召喚酔いに影響されない)」を持つ。
すべてのスリヴァリンは「①、これを生贄に捧げる;スリヴァリン・クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2の修正を受ける」を持つ】
……というもの。
「えへへ、ジュリリ! この子は〈速攻〉持ちですから、さっきみたいに、召喚酔いは関係ないんですよね!?」
「おう、そうだな」
他のカードゲームなんかに、触れてると。
逆に、混乱しがちなるんだけど。
MTGにおいては、クリーチャーは召喚したターンにはデフォルトで『召喚酔い』という状態に陥っているため、このままの状態だと、それは攻撃に参加したり、起動コストに〈→〉を含む能力を、使用できないのだ。
そりゃ、酔っぱらてるんだからね。
まともに動けるはずがない。
そのような理由から、先ほどは召喚したばかりの【筋力スリヴァリン】は、攻撃に参加できなかったのである。
あ、でも動けなくても。
棒立ち状態で防御には、参加できるよ?
ここ重要ね。
(だけど今度は、『召喚酔い』状態を無効化できる〈速攻〉のことを、ちゃんと理解して、プレイしているみたいだし、自然に〈赤〉と〈緑〉を使った合成マナコストのカードも、プレイできている)
ついさっき、一通りの基礎を教えてから。
今回が初めての、実践だというのに。
この呑み込みの速さは、ホント、若者の特権だなーと。
しみじみ感じ入る、僕である。
ともあれ。
「うふふっ♡ じゃあ今度こそ2体で、アタアターックっ!」
Sっ気でもあるのか。
とても嬉しそうに、ペシペシ。
カードを横倒しして、全員攻撃を仕掛けてくるキララちゃん。
「それでいいの? いちおう僕の戦場には、【活性】が1体いるんだけど?」
「えー? でもその子ってえ、1/1のザコじゃないですか〜? キララの子たちは2人とも『+1/+1修正』を受けて2/2なんですから、歯向かうんなら、ボッコボコにしてやりますよ〜っ♡」
「いやいや。僕のスリヴァリンだって、キララちゃんの【筋力】の効果で『+1/+1』を受けているんだから、ちゃんと2/2だよ?」
「え゛っ?」
「ほら、テキスト確認して見てよ。ちゃんと「あなたのコントロールする」じゃなくて「すべての」って、記載してあるでしょ?」
「うええええっ!?」
そうなのだ。
ここが同型対戦の落とし穴。
スリヴァリンたちの有する共有能力は、とっても強力なんだけど。
これ、自他ともに強化してくるんだよね。
「だからキララちゃん、他のデッキタイプとの対戦なら気にしなくても良いんだけど、スリヴァリンを採用した相手との対戦だと、クリーチャーを出す順番や内容には、注意していかないとね」
「ズルいズルいっ! そんなの、知りませんよおっ! 後出しだあ〜っ! ズルう〜いっ!」
「あはは、じゃあそのお詫びじゃないけれど、今回は2体ともスルーするよ。2点と2点で合計4点、ライフを減らします。これでいいかな?」
「ん、許すうっ♡」
カリカリ、と。
側面の突起部を、回転させることで。
内部の表示部分を『0〜40』まで変更できる、長方形の板。
すなわちライフカウンターの表示を『20』から『16』へ変動させると、ニッコリ。
メスガキちゃんは、ご機嫌を回復させたようだ。
チョロい。
「……」
対照的に、その隣で戦場を俯瞰しているジュリアちゃんは。
いよいよ本格的に、不穏な気配を感じ始めているらしく。
物言いたげに、表情を顰めており。
「そうそう。キララ、テキストはちゃんと読まないとダメだよ?」
「はーいっ♡」
ニッコリと、頬笑みながら。
一見、優しげにアドバイスを送っているように見える、リュウセイくんなどは。
僕の手札が、見えているのだから。
この後の展開も、予想できているはず。
それでもイケメンスマイルを、崩さない。
なかなかの腹黒っぷりであった。
(……この子が将来、ホスト営業とかに、就きませんように)
適性がありすぎる。
キララちゃんなんか、もろに引っかかって。
貢ぐためあまりに、破産するところまで。
簡単に想像できてしまった。
「じゃ、ターンエンドっ♡」
そんな薄汚れた思惑には気づいていない様子の獲物ちゃんは、上機嫌なまま、手番を僕に回して。
「アンタップ、アップキープ、ドローカード……セットランド」
僕が新たに、戦場に土地を追加した後で。
「ターンエンド」
何もせずに、ターンを終えると。
「えっ? 攻撃もしないんですか? ざっこ♡」
この選択を、臆したと見てとったのか。
ニヤニヤと、メスガキスマイルを深めていた。
「じゃあ、つよつよのキララのターンっ♡ アンタップ、アップキープ、ドローっ……からの、土地出して、えいっ!」
召喚したのは、このカード。
【断骨スリヴァリン 〈火〉③
レア度……アンコモン
カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』
2/2
すべてのスリヴァリンは「+2/+0の修正」を獲得する】
戦場のスリヴァリンを攻撃方面に特化して押し上げる、なかなかの強カードである。
「じゃあ攻撃は……」
そこで、キララちゃんは。
一瞬、迷った様子を見せてから。
「……この子だけで、行っきまあ〜すっ♡」
ペシリ、と。
召喚したばかりの【断骨スリヴァリン】を、単騎で攻撃に参加させた。
上方修正されたタフネスが3である【断骨スリヴァリン】ならば、たとえこちらの【活性スリヴァリン】でブロックされたとしても、パワーが2しかないこちらを一方的に撲殺できるだろうという、じつにメスガキらしい、浅はかな思考が透けている。
だから、そんなものに。
わざわざ乗ってやる必要はない。
「ん、通します。【断骨】と【筋力】の修正で5/3になってるから、5点のダメージだね」
カリカリ、と。
ライフカウンターの数値を『16』から『11』に減らすと。
「あっれー? もしかしてセンセ、デッキ、ちゃんと回ってません〜? あ、もしかしてキララ、このまま勝っちゃいますか〜? え、でも初めてのバトルでいきなりセンセに勝っちゃうとか、たぶん、ビギナーズラックってやつだろうけどお〜? なんかキララ、強すぎてごめんなさあ〜いっ♡」
回る回る。
ゴキゲンなメスガキの舌が、勢いよく、ブンブンと回る。
これは、節度ある社会人として。
(しっかりと『理解らせて』あげないと、いけませんねえ……っ!)
バキッ、バキリと、音が鳴る。
戦場のスリヴァリンたちが、適応して、進化していく音であり。
戦場の敗者たちが、貪られる音だった。
――筋力スリヴァリン――




