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【07】 ルール説明 

〈カケル視点〉


「うん、じゃあキララちゃん。いま目の前に、ジュリアちゃんがデッキのカードを並べてくれたんだけど……これ、ある法則に従ってカードを仕分けてくれているんだ。それが何か、わかるかな?」


 長机を挟んだ、僕の視点だと。


 デッキを構成する、計60枚のカードたちが。


 基本土地を除いて、最大4枚ずつ。


 一塊となって。


 全体で見ると、片側に寄った凸型になるように。


 長机の上に、配置されていた。


 逆側にいるキララちゃんから見れば歪な『▽』という、逆三角形の並びになるだろう。


 そうしたカードを、一瞥して……


「……う〜ん……なんか、半分から右には……キモ――カワな、生き物? みたいなのが、いっぱい寄せられてて、反対側の左にはなんか、そういうのじゃない、いろんな絵のカードが並べられている……みたいな?」


「うん、正解。キララちゃんから見た逆三角形の、右半分に並んでいるのがスリヴァリンっていう名前のクリーチャーたちで、その反対側に並んでいるのがインスタントやソーサリー、アーティファクトやエンチャントみたいな、それ以外のカードたち。これ以外にもウォーカーっていうカードタイプもあるんだけど、このデッキには予算的に組み込めなかったから、勘弁してね」


「???」


「うん、いっぺんに言われても、何が何やらだよね。だから一つずつ、説明していくよ」


 首を傾げた『?』顔のキララちゃんに、苦笑しつつ。


 僕は僕なりに、わかりやすく。


 机上のカードたちを、説明していく。


「まず……キララちゃん。このMTGっていうカードゲームで、対戦ができることは知っているみたいけど、それって、どうやって勝敗をつけるかは、知っているのかい?」


「強いカードで、ボコボコにするう!」


「具体的には?」


「え? えっと……その、相手を、攻撃する? みたいな?」


「そうそう。初期値の20点から、自分のライフを守りつつ、相手のライフを削り切って0点にすることが、基本的な勝利条件だね」


 なかには、そういった基本を無視した『特殊勝利』を可能とする、カードや戦法なんかもあるんだけど。


 説明がややこしくなっちゃうから。


 ここでは割愛。


「で、そのうえで、相手のライフを削るのには、どんなカードを使うと思う?」


「あ、それはさっきから言ってる、クリーチャー? ってやつでしょ? あと魔法とか!」


「おっ、そのイメージで合ってるよ。キララちゃん、呑み込み早いねー」


「えへへへ〜。そんなこと、ないですよ〜。これくらいフツウですって〜えっ♡」


 とはいえ、承認欲求を満たされると、嬉しいのか。


 わさわさ、と。

 

 上機嫌にツインテールを弄り出す、キララちゃんである。


 じつに分かりやすい。


(アリスもこれくらい内心が表に出るタイプだったら、もっと親しまれて、それこそいろんな人たちが、放っておかないんだろうけどなあ……)


 まあ、個性なんて人それぞれだ。


 逸れかけた思考を、引き戻す。


「……それじゃあ、ネクストクエッション。キララちゃんのイメージする生物と魔法は、MTGでは召喚生物クリーテャーと、瞬間魔法インスタント詠唱魔法ソーサリーって定義されているんだけど、そのどちらが、相手のライフを削るのに適していると思う?」


「ん? それって、相手を、生き物で攻撃するか、魔法で攻撃するかって、ことですかーあ?」


「そうそう、そんな感じで」


「んー……だったらあ、魔法のほうが、なんか強そう! カッコいいし!」


「お、半分正解で半分外れ。惜しいっ!」


 というか、ぶっちゃけ。


 この問いに、明確な答えなんてないんだけど。


 初めはまず、自分なりに答えを考えてもらって。


 それをできるだけ、納得のいくかたちで呑み込んでもらうことが、大事なわけで。


「確かに瞬間火力でいえば、火力魔法バーンみたいな対戦相手プレイヤーに直接ダメージを与えられる魔法のほうが、効率的なんだ。でも継戦能力でいえば、一度きりの火力よりも、除去されない限り戦場に残り続けるクリーチャーたちの方に、軍配が上がるんだよね」


「???」


「ということで、ちょっと具体例を挙げてみようか」


 僕はマナコスト別に分類された、カードたちの中から。


 魔法と生物を、それぞれ2枚ずつ、抜き出して。


 キララちゃんの前に置く。


 そのカードは、以下の通り……


【筋肉スリヴァリン 〈緑〉①

 レア度……コモン

 カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』

 1/1

 すべてのスリヴァリンは「+1/+1の修正」を受ける】


【炎葬 〈赤〉①

 レア度……コモン

 カードタイプ……瞬間魔法

 プレイヤーかクリーチャー1体を対象とし、それに3点のダメージを与える。これによってクリーテャーが破壊された場合、それを追放する】


 ……というもの。


「キララちゃん。このカードを見て、共通点が何かわかるかな?」


「え? だってこれ、魔法と生き物で、そもそものカードタイプ? が、違うんじゃないですかーあ?」


「おお、そこまでもう理解しているのは、凄いね! それは間違っていないよ!」


「え、えへへ……じゃあ、それでも同じところって……もしかして、この、右上の数字の数ですか? なんか①って書いてある……」


「その通り! 正確には、その隣にある〈赤〉マナや〈緑〉マナなんかも足した、マナコストの合計値なんだけどね!」


「ええ? ま、マナ? コスト? の、合計値……?」


「う〜ん、ここはちょっと混乱しちゃうかもだけど、まずは僕の話を、聞いてみて」


 混乱するキララちゃんに、微笑みかけながら。


 僕は彼女が指摘した、カードの右上に記載されている『マナコスト』について、説明を始める。


「ゲームなんかでもそうだけどさあ、キャラが魔法を使うときにMPとか魔力とか、そういうのを消費するイメージってない?」


「あ、それはある! 必殺技を使うには、ゲージがいる、みたいな!」


「格ゲーだとそうだね。っていうか、最初にその発想が出てくるとは思わなかったよ」


 普通、出てくるにしてもRPGとかだ。


 男子ならともかく、女子から格ゲー用語が出てくるのは、ちょっと珍しい。

 

「あっ……ま、前に、ちょっとだけ! やってみたことが、あるんですよ!」


 まあ、陽キャっぽいキララちゃんのことだ。


 男友達が多いとか、兄弟がいるとか、そんなところだろう。


 本人もあんまり触れてほしくはなさそうだし、この話題を広げる必要はないか。


「だとするとさあ。そのイメージが伝わるなら、MTGでは手札のカードを使うのにエネルギー……魔力マナコストって言うんだけど、それが必要なことも、理解イメージできるかな?」


「うん! 車だって、ガソリンを入れないと、走らないですもんね!」


「でしょでしょ? で、そうやってカードをプレイするのに必要なマナなんだけど、このマナには五つの『属性』があって、それぞれ平地から生み出される〈白〉、島から生み出される〈青〉、沼から生み出される〈黒〉、山から生み出される〈赤〉、森から生み出される〈緑〉って具合に、イメージカラーとして設定されているんだ。カードの背景も、記載されているマナコストと同じ色になってるでしょ?」


「あ、ホントだ! じゃあこの【筋肉スリヴァリン】ってカードは、緑のカードで、〈緑〉のマナを使ってて、こっちの【火炎葬】ってカードは、赤のカードだから〈赤〉のマナを使ってるんだ!」


「それも惜しい! っていうかこれは、僕の説明の仕方が悪いね! さっき、僕は『マナには五つの属性がある』って言ったけど、正確には、そのどれにも属さない『無色』ってのがあって、それはカードに①みたいなかたちで、記載されているんだよ」


「えっと、じゃあ……この【スリヴァリン】は、〈緑〉が1マナのカードじゃなくて、〈緑〉と①を足した、2マナのカードってことですかー?」


「そうそう、呑み込みが早いね」


 流石、若いだけあって。


 説明をスラスラと、吸収していく。


「じゃあこれで、この2枚が違う属性でカードタイプだけど、同じ2マナ域のカードであることは、理解してもらえたかな?」


「はーいっ♡」


「ん、ではその次に、中身について説明していきたいんだけど……キララちゃん。まずはザックリとこのカードたちのテキストに目を通して、言いたいこと、理解できる?」


「えー、そうですねー……なんか、【スリヴァリン】のほうは、意味フなんですけど、【火炎葬】のほうは、たぶん、3点のダメージを与えるのかな? ほら、さっきセンセが言ってた、最初は20点から始まるライフってやつに」


「まさしくその通り! いやキララちゃん、理解が早くて助かるよ!」


「いえいえ、そんなことは〜あ♡ ちょっぴり、あるかもっ♡」


「うんうん。とりあえず今は、その認識でオーケーだよ。で、だとすると説明が必要なのは、やっぱりクリーチャーの方だよね。パワーとタフネスとか、起動能力と誘発能力の違いとか」


「……センセって、なんか定期的にムズい言葉を使って、キララにイジワルしてません?」


「あは、バレた」


「んもーっ!」


 とか言いつつ。


 MTGを介して、少しずつ。


 打ち解けていく、中年オジサンと女子中学生であった。


 てえてえ。


「でね、まず理解してもらいたいのがここ。クリーチャーカードの右下には、この【筋肉スリヴァリン】でいう『1/1』みたいに『パワー』と『タフネス』が記載されているんだ。格ゲーで言うとパワーが攻撃力、タフネスが体力、って感じだね」


「え? じゃあこの子、パワーが1だから、ホントによわよわじゃないですか〜っ!」


「そうだね。でも、カードのテキスト欄に【あなたのコントロールするスリヴァリンは「+1/+1の修正」を受ける】って書いてあるでしょ? これは誘発能力って言って、戦場に出たら自動的に発動し続ける能力なんだけど、今のキララちゃんならもうこの意味がわかるんじゃない?」


「……あっ! そっか、この【+1/+1の修正】っていうのが【スリヴァリン】にかかるから、1/1が2/2になるってことですねーっ!」


「その通り、大正解です!」


 パチパチと、拍手をすると。


 フフンと、満更でもない様子のキララちゃん。


 やっぱり子どもは、褒めて伸ばすに限る。


「ということで、ようやく最初の問いに戻るよ? この【筋肉スリヴァリン】と【炎葬】は、クリーテャーとインスタントで、カードタイプも色も違うけど、同じマナコストのカードです。ここまではオーケー?」


「おっけ♡」


「そしてMTGとは互いのライフを削り合うゲームであり、当然ながら、1枚のカードで少しでも大きく相手のライフを削れるほうが、好ましいよね?」


「うんうんっ♡」


「そしてさっき、キララちゃんは【炎葬】を『3点のダメージを与える』カードだって言ってたけど、じゃあ【筋肉スリヴァリン】は、敵に何点のダメージを与えられるカードだと思う?」


「えっと、それは……パワーが、2なら、ダメージも、2点、とか……?」


「それで正解。この【筋肉スリヴァリン】が対戦相手がダメージを与えた場合、与えられるダメージは2点です。となると、両者を比較した場合、より大きなダメージを与えられるのは?」


「3点ダメージの【炎葬】でーすっ♡」


「ですよねーっ!」


 よかった。


 ここまではちゃんと、理解してくれているみたいだ。


 だったら、その次。


「これが、僕がさっき言ってた『瞬間火力が高い』って言葉の意味。同じ量のマナで、同じ枚数のカードを消費したとき、1ターンの中で生じるダメージレースにおいては【炎葬】と【筋肉スリヴァリン】だと、前者に軍配が上がるんだよね」


「でもでも、センセ、さっき『けーせん能力』? ってのも、なんか言ってたよねー?」


「そうだよ。だって、使えば消えちゃう魔法と違って、生物って、除去されなければそのまま生き残るから」


「……あっ!」


 なんだかんだで。


 ここまでちゃんと、解説に付き合ってくれていた、キララちゃんも。


 ここで、僕の言いたいことを。


 察してくれたようだ。


「そっかそっか、たぶん魔法って、一回使えばそれきりだけど、クリーテャーって、何回も攻撃できるんだ!」


「そうそう。だからもし、次のターンまで生き残った【筋肉スリヴァリン】がもう一度攻撃を成功させれば、累計ダメージは2点と2点で、合計4点。この時点で3点の【炎葬】を上回ったし、それ以降は言うまでもないよね? これが、継戦能力って意味さ」


「じゃあじゃあ、魔法とクリーテャーだったら、クリーテャーの方が、強いってことですかあ〜?」


「いや、そうとも限らないんだ、これが。さっきは説明を省いたけど、プレイヤーの初期ライフ20点以外にも、MTGではクリーチャーに、各々の体力タフネスが設定されているんだよね? これ、なんでだかわかる?」


「え? それは、体力がないと、死んじゃうとか?」


「そうだね。じゃあなんで、クリーチャーの体力って、なくなると思う?」


「それは、やっぱり……戦ったりして?」


「何と?」


「クリーチャー同士? で、バトル? みたいな?」


「そうだよ、つまりクリーチャーたちは戦うことができる、ということは、見方を変えれば『相手のクリーチャーによる攻撃』は『自分のクリーチャーを用いた防御』で『ブロック』できるんだよ」


「……っ! ああ、そういう!」


「イメージできたかな? これは、魔法とかにも言える事ではあるんだけど、それでも、とにかくその他の打点発生源ダメージソースよりも、クリーチャーってのは、対策がされやすい。だから戦場に召喚したあと、ずっとダメージを与え続けらるとは限らないんだよ」


「じゃあじゃあ! やっぱり魔法のほうが、強いじゃん!」


「というより、これは適正の問題だね。どっちが上とか下、強い弱いじゃなくて、その状況に適したカードを用意して、効率的に運用できるかっていうプレイングできたほうが、ゲームに勝つんだっていう考え方」


「……? えっと、つまり……?」


「どれだけ強いカードを詰め込んだデッキでも、正しい知識と技術がなければ、宝の持ち腐れなので、まずはちゃんとルールを覚えましょうっておハナシ」


「……うっわ。ムカつくー」


 延々と、理詰めされて。


 遠回しに、最初の『強いデッキさえあれば勝てる』的な発言を否定されていたのだと、気づいたキララちゃんが。


 ムッと、口先を尖らせるものの。


 不貞腐れて、席を立つことはなく。


 不機嫌を、ぶつけてくることもない。


 どうやらこの子は、自分の非を、ちゃんと認められる人間のようだ。


 えらい。


「……オニーサンって、キホン的には人の良さそうな態度してるけど、ときどき、いい性格してるよなー」


「はは、そりゃどうも」


 ここまで、僕の解説を。


 キララちゃんの隣で見守ってくれていたジュリアちゃんも、ジト目である。


「で、夢尾さん的に、キララは大丈夫そうですか?」


 さらに、隣の席のリュウセイくんが。


 合否判定を、問うてきたので。


「うん、ここまでの僕の話を、ちゃんと聴いて、理解してくれてるみたいだから、キララちゃんさえその気なら、きっとその他のルールも覚えてもらえるだろうけど……キララちゃんはまだ、話を聴いてくれる気があるのかな?」


 合格印は、押しつつも。


 最後の決定権は、あくまで、本人に委ねておく。


 だって本人のやる気云々が、一番重要だからね。


「……ふんっ」


 すると、キララちゃんは。


 面白くなさそうに、鼻を鳴らしつつも。

 

「ま、途中ヤメとか好きくなんで〜。いちおう最後までおハナシは、聞きますよ〜だっ」


 メスガキらしい、ふてぶてしさで。


 受講を希望するのであった。


「おいララあ! だから、態度!」


「だ、だってだってえ!」


「あはは! いいよいいよ、ジュリアちゃん。先にイジワルしちゃったの、こっちだしね。それくらいの仕返しは受けないと」


「だよねだよねっ! センセ、わかってる〜っ♡」


 隣の席から飛んだ、叱責に。


 慌てたキララちゃんは、媚びた態度を浮かべつつも。


「いやでも、ホント。キララがルール覚えてくれないと、僕たちとも、ゲームできないからさ。できるだけ早く、ルールを覚えてくれると嬉しいな」


「うんうんっ♡ ささ、早く早く、センセ! 次のルールを教えてよ〜っ♡」


 イケメンからの、応援を受けて。


 瞳には、真剣さが灯っていた。


(う〜ん、この……)


 温度差で、風邪をひきそうな。


 媚び媚びの、あざと可愛いいぷりっ子よ。


 なんか一周回って、クセになりそう。


(まあリュウセイくんたちも、なんだかんだでクセの強そうなキャラしてるから、その中に混じろうっていうんなら、これくらいの濃さで、ちょうどいいのかな?)


 なんて、益体のないことも考えつつ。


 このあとも順調に、初心者への説明を続ける、僕なのであった。



ああ、いい匂いだ。こんがり焼けたな。


 ――火炎葬――


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