表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/22

【20】 休日②

〈カケル視点〉

 

「――んんん、こくううううな、てん、っしいの、てえっーぜえっ!」


 そして、正午過ぎには。


 駅前にある、カラオケ店の一室で。


 僕は力の限り、往年の名曲アニソンを、熱唱していた。


 ちなみに。

 

 採点機能を入れてはいるけど。


 点数にはあまり、拘らないタイプの人間である。


 もしそれで、高得点が出たら嬉しいし。


 低かったら、次回の改善へと繋げられる。


 その程度の、心持ち(スタンス)であり。


 大事なのは、どれだけ自分が。


 気持ちよく歌えるか。


 歌に熱を込めかれるか、否かであった。


「……」


 当然ながら。


 そんな自分勝手なカラオケスタイルに、嫌気を覚える人だって、いるだろうし。


 そういう時は、僕だって。


 ちゃんと空気を読んで、自重するけれど。


 幸いなことに、今日、こうして。


 僕のカラオケに、付き合ってくれているのは……


「……っ♪」

 

 凍りついたような、無表情のまま。


 それでも、楽しげに。


 曲に合わせて、身体を左右に揺らしている。


 気の置けない仲である、四半混血クオーターの美少女……アリスであった。


「――ねええ、んよっ、し、ん、わ、に、なあれっっっ!」


「……っ!」


 僕が曲を、歌い切るなり。


 毎回律儀に、パチパチと。


 拍手を贈ってくれる観客リスナーは、最高だ。


 そりゃ歌に、熱も入るってもんよ。


「……ん、85点か。まあまあだね」


 この採点が、高いのか、低いのか。


 人によるだろうけれど。


 少なくとも、自分の想いのままに、歌い切った僕としては。


 満足のいく、点数であった。


「お、アリス。次はあの曲歌うんだ」


「……前に、カケルさんが、歌っていたので」


 なんて、謙遜しつつ。


 可愛らしく、両手でマイクを握りしめたアリスの、か細い喉から放たれる。


 耳に染み込むような、澄んだ美声が。


 流れ始めたイントロに、合わせて。


 狭い個室内に、響き渡った。


(相変わらず、上っ手あ……っ!)


 声質なのか。


 肺活量なのか。


 音程の、取り方なのだろうか。


 とにかくアリスは、どんな曲を歌っても、メチャクチャに上手い。


 それもただ、上手いだけじゃなくて。


 なんていうか、歌詞に想いを、載せているっていうのかな。


 とにかく聴いていて、心地いい。


 心が震える。


 それなのに、彼女が歌う曲の、ほとんどは。


 以前に僕がカラオケで歌ったものを、後日、覚えて歌っているパターンであり。


 叩き出される点数は、毎回、僕のそれを軽くぶっちぎっている。


 このあたりも。


 本人に、絶対言うつもりはないけれど。


 採点の多寡に、僕がいちいち動じない悟りを開いた、一因だったりするんだよね。


 さておき。


「ヒューっ! アリス、サイコーっ!」


「……ふう」


 僕の大雑把な口笛と、歓声に。


 アリスは、ペコリ。


 サラサラの金髪を、肩から流すようにして。


 綺麗なお辞儀を、披露してくる。


 ちなみに得点は、97点。


 これくらいの点数を当たり前のよう(コンスタント)に出されるたら、そりゃ、張り合う気も失せるってもんよ。


 開き直って、聞き役に徹していられる。


「……ん」


 そして、曲を歌い終わってから。


 喉が渇いたのか、チュルチュルと。


 飲み放題用のドリンクバーグラスに注がれたオレンジジュースを、小動物のように、ストローで啜っていた。


 反則的なほどに、可愛い。


 とっても目に優しい光景だ。

 

(順番的に、次の選曲は僕の番なんだけど……)


 すでに、このカラオケに入店してから。


 一時間ほども、ぶっ続けで歌い続けている。


 そろそろ休憩を挟んでも、良い頃合いだ。


「アリス、美味しいかい?」


 現在、僕たちが使用しているのは。


 少人数用のカラオケルーム。


 備え付けのTVに連動した賑やかな音楽が、無音のコマーシャルへと移行した、狭い個室の中で。


 同じ長椅子ソファーに、横並びで。


 腰掛けているアリスに、問いかけると。


「……はい。カケルさんが、入れてきて、くださったので」


 なんて。


 美しすぎる、無表情のままに。


 可愛いことを、言ってくれる。


「あはは、恐縮だなあ。アリスもそういうお世辞が、言えるようになったんだねえ」


「……」


「でもホント、ナイスタイミングだったよ。ちょうど、気分転換したかったからさ。声をかけてきてくれて、ありがとね」


「……いえ。私もちょうど、暇、でしたので」


 休憩を挟むことに、アリスも異論はないようだ。


 選曲する素振りが、見受けられないために。


 そのまま、少しグダグダと。


 取り止めもない会話を、続けてみる。


「ホントにい? 最近は習い事で、けっこう忙しいって、前に愚痴ってなかったっけ?」


「……それでも、休みくらい、作ろうと思えば作れます」


「じゃあやっぱりそんな、大事な休日を、僕なんかに付き合ってくれて、ありがとうだよ」


「……いえ……どうせ、家にいても、弟たちの、相手をしている、だけですので」


「ああ、あの双子くんはホントに、アリスのことが大好きだからねえ。大事なお姉ちゃんを付き合わせちゃったんなら、今度何か、埋め合わせをしとかないと恨まれそうだ」


「……でしたら、是非、また家に顔を出してください。マムたちも、喜びますから」


「あはは。考えとくよ」


「……」


 おっと。


 またしても、薄っぺらい逃げ腰を、見透かされちゃったかな?


 無表情のまま……じとっ、と。


 物言いたげな視線を向けてくる、アリスに。


 苦笑を浮かべてしまう。


(でも……僕はまだ、何の結果も出せていないから、やっぱりあの人たちには、顔を合わせ辛いんだよなあ)


 きっと、アリスの家族たちは。


 そんなこと気にせず、以前のように。


 温かく僕を、迎えてくれるんだろうけど。


 それじゃあ、ダメなんだ。


 ただ、あの人たちの優しさに甘えているだけでは、以前と何ら変わりない。


 彼らの優しさを振り切った、意味がない。


 僕が、何者にも成っていない。


 そんなの。


 僕が『また』、僕自身を、許せなくなってしまう。


「まあ……そうだね今度の大会で、良い結果を出せたら、ちょっと真剣に考えてみるよ」


「……約束、ですよ」


「ああ」


「……ん」


 それでも、どうにか捻り出した。


 空手形の、契約書代わりではないけれど。


 ずりずり、と。


 長椅子ソファーに並ぶ僕たちの、隙間を詰めて。


 甘えるように、頭を傾けてきた。


 妹分の、細く艶やかな金髪を。


 優しく、撫でる。


「……っ♡」


 途端に、見えない尻尾をブンブンと振って。


 全身から、上機嫌なオーラを放つアリスは。


 本日は、いつもの髪型と違う、ツインテールで。


 服装も、週末大会フライデーで見かける学校の制服ではない、彼女の私服だった。


 とはいえ、今回は。


 何故か。


 普段のアリスが、着ているような。


 いかにも深窓の令嬢じみた、白のワンピース系の、清楚な服装ではなくて。


 もっと、アクティビティな印象を受けるというか。


 いい意味で、俗っぽいというか。


 ぶっちゃけ、ギャルっぽいというか。


 薄手のシャツにブレザーを羽織り、膝上のミニスカートにニーソックスを合わせた、ちょっと派手系のファッションである。


 まあ、それはいいんだ。


 どんな服装をしようと、個人の自由だし。


 アリスなら、たとえどんな服装でも。


 西洋人形ビスクドールじみた美貌と、異国の血が成立させる長い手足で、見事に着こなしてしまうのだけれど。


 問題なのは……


「……ねえ、アリス?」


「……?」


「いやまあ、僕が熱唱しちゃって、部屋が蒸し暑くなっちゃってるのはわかるんだけどさあ……やっぱり、上着は着とかない?」


 駅前で、合流して。


 ここに来るまで、羽織っていたブレザーを。


 歌い始めて早々に、脱いでしまったことである。


 おかげで、身長は140センチに届くかどうかの、小柄な体格なのに。


 一部だけ、やけにたっぷりと実った肉体が。


 殊更に、強調されてしまっている。


 これはイケませんよ。


 そんな薄着の美少女と、冴えないオジサンが、密室で密着するだなんて。


 家族並みの信頼を得ている、僕でなければ。


 即、通報案件だ。


「……変、ですか?」


 本当に、心からの。


 信頼を、寄せてくれているのだろう。


 無表情のまま、首を傾げて。


 こちらは偶然だろうけど、ただでさえ存在感を放っている部分を、さらに見せびらかすような姿勢で。


 距離を詰めてくる、アリス。


「いやいや、似合ってる! 超似合ってるし、可愛いよ!? だけどさあ、さすがに無防備が過ぎるっていうか――」


 慌てた僕が、声音を乱しつつ。


 無垢なる暴挙を、阻止せんと。


 口上を並べ立てていた……


 その時である。


「――本性を表したな、ケダモノめえッ!」


 カラオケルームの扉が……バンッ!


 蹴破るように、開かれて。


「天誅うううッ!」


 化鳥じみた、怒鳴り声をあげて。


 部屋に飛び込んできた女性の、握り締める。


 伸縮型の警棒が……ジャキジャキンッ!

 

 僕の頭を目掛けて、振りかぶられた。


「ひいいいいっ!?」


 反射的に、両腕で頭部を庇いつつ。


 悲鳴を上げてしまった、情けない中年を。

 

「――柳生っ!」


「……っ!?」


 護るようにして……むぎゅりっ!


 鋭い声音を放ったアリスが。


 長椅子ソファーの上で、膝立ちとなることで。


 僕の頭部を、その大層ご立派な胸部に。


 抱きしめてしまう。


(やわらかっ!)

 

 ほかほかで。


 もちもちで。


 ふかふかで。


 ブラ越しにでも伝わる、温度と質感と甘い匂いによって。


 まだ、殴られてもいないのに。


 クラクラと、目眩がした。

 

「……ッ!」


 そんな極楽浄土へ導かれた僕を、部屋に乱入してきたスーツ姿の女性が、般若の形相で睨みつけている。


 怖っ!


「お、お嬢様っ! 今すぐ、お離れください! 穢れてしまいますッ!」


「……柳生こそ、離れなさい」


「……し、しかし、お嬢様――」


「――交代、しますか?」


「……ッ、御意っ!」


 苦虫を、噛み潰したような顔で。


 さる剣術流派の、免許皆伝なのだという。


 烏の濡れ羽の黒髪をパッツンにした、黙っていれば美人系の女性剣士……柳生アキラさんは。


「……チッ」


 忌々しそうに、舌を鳴らして。


「……命拾いしたな。女に庇われる、クズめ」


 冷ややかに。


 路傍のゴミを見るような視線を、僕に向けてくるのだった。


 ひどい。


「お嬢様」


 そして、アリスに顔を向けるなり。


 険しい表情を、コロリと一転。


「ご命令ですので、部屋の外で待機しておりますが……何かしらのご用命あれば、そうでなくとも、身の危険を感じればすぐに、このアキラを呼んでくださいませ。直ちに駆けつけて、お嬢様に害を為す悪漢めを、即座に成敗して仕ります」


 憧れの偶像アイドルを、前にしたような。


 熱の籠った視線を、注ぐものの。


「……いいから。早く、出ていきなさい」


 残念ながら。


 機嫌を害した護衛対象アリスには、届かない。


 取り付く島もなく、ふたたび部屋の外へと。


 追い払われてしまう。


「……御意」


「……」


 飼い主に構ってもらえなかった、大型犬のように……シュンッ。


 露骨に肩を落として、トボトボと。


 背中から哀愁を、撒き散らしながら。 


 本日のアリスの護衛役である、アキラさんは。


 ようやく部屋から、退出してくれたのだった。


(ふ、ふう……危なかった……部屋の外で姿が見えなかったから、油断してた……っ!)


 きっとまた、部屋の外で。


 口元を『へ』の字に、ひん曲げながら。


 腕を組んで、仁王立ちしつつ。


 室内の会話に、聴き耳を立てているのだろう。


 ここが融通の効くカラオケ店でなければ、店員による通報待ったなしの、完全なる不審者だ。


「……申し訳、ありません。……柳生アレは、腕は、確かなのですが……」


「そ、そうだね」


 腕は立つんだよね。


 以前に手刀で、舞い落ちる木の葉を。


 目の前で、複数枚同時に斬り裂かれたときは、本気でチビりかけたもの。


「……そのぶん、頭が悪いので」


「おお、言うねえ」


 あんまり、人の悪口を言わないアリスだけど。


 彼女の暴走癖に関しては、それなりに。


 鬱憤が溜まっているようだ。 


「あ、あははは……まあ、ちょっと……あの人は、アリスのことが、好き過ぎるよねえ」


 そりゃあ、護衛を守るという点で言えば。


 とびきり、優秀なのかもしれないけど。


 アキラさんは、ちょっとばかり。


 過剰というか。


 過激というか。

 

 控えめに言って、アリスに近寄る男性を問答無用で叩き伏せようとする、あの悪癖は。


 護衛を通り越して。


 狂犬と、評価せざるを得ない。


 流石、アリスに出会った初日に『貴方に生涯の忠義を捧げます……っ!』なんて、狂気を口走っただけのことはある。


 アレで、護衛としての腕が悪かったら。


 本当に、ただの狂人だ。


 いや、この場合は、なまじ常識がある分。


 より一層に、タチが悪いのかな?

 

「……はあ」


「まあまあ、今日は海ぼ――禿山さんが、お休みなんでしょ? だったら、仕方ないって」


 そんな狂犬剣士が、本日。


 アリスの護衛を担っているのは。


 普段はアリスの背後で、巌のように佇む禿頭巨漢……海坊主さんが、お休みだからである。


 なにせ、伸長が二メートル越え。


 体重は推定百二十キロ以上。

 

 全身にはち切れんばかりの筋肉を搭載した、リンゴを片手で握り潰してフレッシュジュースにできる、海坊主さんだって。


 ああ見えて、ちゃんと生きてる人間だ。


 護衛という仕事に、就いているとはいえ。


 三百六十五日。


 四六時中。


 ずっと護衛対象アリスに付きっきりというわけには、いかないだろう。


 彼には、彼の人生がある。


 休暇は必要だった。


 その代打があの『アリスお嬢様が大大大好き近づく男は絶対許さない暴力ウーマン』なのは、アリスの父親が契約しているという警備会社の人材雇用面に、不安を抱かざるを得ないけれど。


 っていうか、海坊主ターミネーターさんといい。


 狂犬剣士バーサーカーといい。


 あんな人材イロモノばかり、一体どこで。


 スカウトしてくるのかやら。


 むしろアレくらい個性アクが強くなければ、生き残れない業界なのか。


 疑問ツッコミは尽きない。


 まあ、それはさておき。


「そういえば……禿山さんって、一体、休日何をしてるんだろ?」


 一応、あの寡黙な禿頭の大男とは。


 アリスを通じて、数年来の顔見知りになるのだけれど。


 彼のプライベートを、僕は。


 ほとんど知らなかった。


「……たしか、筋トレとか、ツーリングだとか……あとは料理をしたり、最近では、手芸教室にも通っているのだと、言っていました」


「うえええっ!? 前半はイメージ通り過ぎるけど、後半は、ちょっと意外過ぎない!?」


 ほんの、軽い気持ちで口にした質問から。


 思わぬ面白情報が、飛び出してしまった。


 ウケるね。


「……先日は、たしか、キャンプに行っていたはずです」


「ああ、それは納得っ!」


 サバイバルとか、めっちゃ強そうだ。


 ナイフ一本で、クマとか倒しちゃいそう。


「っていうかアリスって、禿山さんと、普通にそういうことも話してるんだね」


「……禿山は、人見知り、ですから。……でも、こちらから話しかければ、ちゃんと、答えてくれますよ?」


「うん、知ってる」


 見た目、めっちゃ怖いけど。


 行動は結構、優しかったりするんだよなあ。


 その最たるものが、去年の末に。


 閉店後のヲタク堂にて、開催された。


 有志ぼっちーズたちによる、クリスマス会での出来事である。


 そこで悪酔いしてしまったアミさんが、アリスの護衛として参加していた海坊主さんに、ウザ絡みした上にゲロまでぶちかましたのは、参加者たちの間ではもはや語ってはいけない禁忌(ヴォルデモート)となっているのだが。


 そんなアミさんに対して。


 ぶちキレるどころか。


 泥酔した彼女を、心配して。


 前後不覚に陥っていたアミさんを、自宅までわざわざ送り届けたのだという、見事な紳士っぷりは。


 同じ男として、見習うべき美徳だろう。


 え、僕?


 当然アミさんを送り届けようとしたけれど、クロウの圧にビビって、けっきょく何もできなかった負け犬ですが何か?


(そういえば、あのあたりからアミさん、禿山さんをハゲちゃん呼びしてるんだよなあ……)


 醜態を晒して、距離を置くどころか。


 開き直って、逆に距離を詰めていくスタイル。


 到底、根が陰キャな僕には真似できないけど。

 

 嫌いじゃない。

 

(……いやむしろ、アミさんのそういう天真爛漫なところが、好っきいっ♡)


 人間って、自分の持ってないものに。


 憧れちゃうよね。

 

「……」


「……はっ!」


 気がつけば。


 停止した手のひらを、頭に乗せたまま。


 アリスが……スンッ。


 例のジト目を、僕に向けている。


(また、やってしまった……っ!)


 この、感情を隠した瞳の奥に。


 いったいどれほどの呆れを、抱いているのか。


 確認するのが怖い僕は、慌てて。


 会話の転換を試みる。


「そ、それにしても! アリスさあ、ちょっと……その、アレだよね? 今日の服装は、いつもと違う感じだよね? イメチェンかな?」


「……カケルさんは、こういうのが、お好きなのかと、思いまして」


「……?」


 え?


 なんだなんだ?


 こちらから話題を振っておいて、アレだけど。


 意味がわからないぞ?


 アリスの中で、いったい僕は。


 どういう人物像になっているんだ?


(いやその、ご立派な膨らみと、完璧過ぎる絶対領域は、確かに眼福と言わざるを得ないけどさあ!? 僕がそんな、ギャルみたいな格好が好きだんて発想が、一体どこから出て……)


 と、そこまで思考を巡らせて。


 思い至った解答が、ひとつ。


「……ねえ。もしかしてアリス、キララちゃんに、対抗している?」


「……」


 おや?


 おやおやおや?


 どうやら、正解らしいね。


 すん、と表情から感情を消しても。


 残念ながら、ほっぺたの血流までは、御しきれていないよ?


 アリスは、肌が白すぎるから。


 変化がよくわかるのだ。


「……ぷっ。ふ、ふははははっ!」


「……カケルさん。ここで笑うのは、流石にどうかと、思います」


「あ、いや、ごめんごめんって!」


 お兄さん枠の僕を、取られると、思っちゃったのかな?


 まったく、可愛い妹分だなあ!


「大丈夫大丈夫。キララちゃんとアリスは、全然、別枠だから! そんな、気にする必要ないって!」


「……」


 アリスはまだ、納得していないみたいだけれど。


 僕の中では、生徒と妹分は。


 はっきりと棲み分けが、できている。


 別にその、どちらかを軽んじているわけでは、ないけれど。


 それらを混合することは、ない。


「僕にとってアリスは……家族枠トクベツ、だからね。そう簡単に、離れていったりなんてしないよ」


「……」


「むしろアリスのほうが、僕に呆れて、そのうち距離を置こうとするんじゃないかって、こっちがハラハラしているくらいさ!」


「……そんなことは……あり得ません、が」


 そこで、ふと。


 気まぐれな、お日様の陽光を浴びた。


 冬の雪解けのように。


「……元気、出たみたいで、良かったです」


 淡く微笑んだ、アリスから。


 鈍感な僕はようやく、彼女の優しさに。


 思い至ることが、できたのだった。


(ああ……そっか。アリスは心配、してくれてたんだね)


 今日の呼び出しは、偶然などではなくて。


 昨日の敗北で、動揺しまくっていた僕を。


 気遣ってくれた上での、行為であった。


(うっわあああ……恥ずっううう……)


 ボンッ、と。


 今度はこちらが、赤面してしまう。


(いや、マジで、2回りも年下の女の子に、ここまで気を遣ってもらうとか、どんな顔で、兄貴分ヅラしてんだよって話だよ……っ!?)


 ふと、過去を振り返れば。


 呼吸するように、醜態を晒している。


 失敗ばかりを、積み重ねている。


 後悔に塗れている。


 本当に、僕は。


(成長、しないなあ……はあああ……)


 でもまあ。


 妹分に、ここまで気を遣われてしまっては。


 もはや、手遅れかもしれないけれど。


 それでも、自称兄貴分としては。


(……これ以上、逃げられないよなあ)


 仕方がない。


 覚悟を決めよう。


 敗北から、目を背けずに。


 敗因から、学びを得るのだ。


「……ねえ、アリス」


「……?」


「ヒカルくん……アリスが昨日、決勝で当たった黒髪の子は、その……強かったかい?」


 手が届かない幻にこそ、想いを馳せる、価値があります。


 さあ、皆で祈りましょう。

 命尽きる、そのときまで。

 

 ――ラノエルドの幻想家――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ