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【01】 対戦

〈カケル視点〉


「じゃあ、僕の第一メインフェイズ。【大蛇】に【怨嗟】を魔力付与エンチャントするよ」


 主要な登場人物たち、各々が。


 様々な宿命や、悲願を携えて。


 大いなる魔力マナに導かれ、多次元世界を巡る、超越者ウォーカーの物語を題材とした、世界的なカードゲーム『マナライト・ザ・ギャザリング』……通称『MTG』においては。


 物語ストーリーに登場する、人物キャラ魔法スペル


 事件アクシデント事象ハプニングなどが。


 様々な『カードタイプ』という形で、表現されている。


 そのうちの一つ、魔力付与エンチャントとは。


 召喚生物クリーチャー土地ランド、あるいは戦場フィールド遊戯者プレイヤーそのものといった、様々な盤面札パーマネントに付与されることで。


 対象を強化バフ


 あるいは減衰デバフするもの。


 そしてたった今、僕が使用プレイしようとしている魔力付与エンチャントの効果は、以下の通り。


【怨嗟 〈緑〉

 レア度……コモン

 カードタイプ……魔力付与『召喚生物』

 これが付与された召喚生物は+2/+0の修正を受けるとともに、〈貫通〉を獲得する。

 これが戦場から墓地に置かれたとき、これを墓地から所有者オーナーの手札に戻す】


 本来、召喚生物クリーテャーを対象とした魔力付与エンチャントとは。


 効果が一時的な呪文スペルと異なり、効果が永続である反面で。


 魔力付与されている対象が破壊されて、戦場から墓地に置かれれば。


 一緒に、墓地送りとなるという。


 危険性デメリットを抱えていた。


 しかしこの【怨嗟】は、完全ではないものの。


 墓地を経由して『手札へと帰還する能力』によって、そのリスクを実質的に、無視できるうえに。


 召喚生物のパワーを+2も、強化パンプして。


 更には、召喚生物による戦闘の攻撃アタック防御ブロックによって発生した差異を、防御側のプレイヤーに直接与えるという〈貫通〉なる誘発能力まで、付与してくれるのだ。


 しかも、たった〈緑〉1マナで。


 強い。


 強過ぎる。


 そのうえ最低レアランクのコモンであるため、誰でも簡単に入手できる。


 このカードを公開カードリストの中に発見したとき、運営の記載ミスかと我が目を疑ったプレイヤーは、僕ひとりではなかったはずだ。


 それほどまでの、破格性能《ぶっ壊れ》なんて。


「通りますか?」


「……いいえ」


 当然のことながら。


 否認確定(マストカウンター)案件ですよね。


 はいはい。


 わかっていましたとも。


 こんな強カードが、易々と。


 否認カウンターデッキを相手に、戦場に出させてもらえる、はずがない。


 案の定、対戦相手である四半混血クオーターの美少女……アリスが、動いた。


「……対応スタックして、瞬間魔法インスタントを、使用します」


 使用されるカードは、おそらく否認呪文カウンター


 そして一度も戦場に置かれなければ、【怨嗟】の『墓地から手札に戻る』誘発能力は『条件を満たしていない』ために、発動してくれない。


 恨む相手を見つけられずに、成仏しちゃうのだ。


 残念無念。


 なむなむ。


「……【蓄積された叡智】」


 などと。


 努めて、顔には出さないように。


 内心では、観念していたものの。


(え? このタイミングで、否認呪文カウンターじゃなくて、補充呪文ドローですと?)


 おやおやおや?


 風向きが、変わってきたぞ?


「……通りますか?」


「ええ、通ります」


「……では、ドローカード」


 僕からの対応スタックがないことを、確認したうえで。

 

 アリスが使用した瞬間魔法インスタントは、否認パーミッションデッキの代名詞である否認呪文(カウンタースペル)ではなくて、もうひとつの顔である、補充呪文ドロースペルだった。


 内容は、以下の通り。


【蓄積された叡智 〈青〉①

 レア度……コモン

 カードタイプ……瞬間魔法

 あなたはすべての墓地にある【蓄積された叡智】に、+1した枚数をドローする】


 このカードの注意点は、記載が『あなたの墓地』ではなく『すべての墓地』であること。


 つまりゲームの後半になり、対戦するプレイヤーが互いに【蓄積された叡智】を使用するデッキだった場合は、たったの2マナで、下手すると5枚以上のカードを手札に呼び込む、恐るべき怪物カードへと変貌してしまうのだ。


 なんなら終盤で、カードを引き過ぎて。


 手札から、溢れるどころか。


 山札ライブラリーそのものが尽きてしまう(アウトする)可能性を、危惧しなければならないほどの、イカれ性能である。


 しかし、大器晩成型の逸材とはいえ。


 今はまだ、ゲームの序盤。


 そのうえ僕は、緑単色の速攻アグロデッキ。


 当然ながら互いの墓地には同名カードなど見当たらず、結果的に今回の【叡智】は、2マナで1ドローという、損益比率コスパの悪いカードとなってしまっている。


 そんなカードを、|僕の第一メインフェイズ《こんなタイミング》で。


 否認パーミッション遣いが使用する、意味とは。


(……もしかして、アリス。事故ってる?)


 異変を嗅ぎつけた僕の、目の前で。


 形の良い唇が、淡々と。


 言葉を紡いだ。


「……では、どうぞ。【怨嗟】を処理してください」


 通った。


 通っちゃったよ。


 ただでさえ〈島渡り〉という特殊能力を持った、基本地形【島】をメインとする否認パーミッションには厄介な、ブロック不可能の大蛇さんが、さらにパワーアップしちゃったよ。


 しかも除去耐性である〈不壊〉があり。


 高い攻撃力を無駄にしない〈貫通〉までもが、付与されて。


 そんなイキり大蛇さんが、哀れな美少女プレイヤーに、これから襲い掛かっちゃうわけだけど……大丈夫かな?


 飼い主の僕が、あとで逮捕されちゃわない?



 悪いけど僕は、カードゲーマーだから、遊戯ゲーム中はたとえ女子中学生が相手でも容赦しないよ?


(……って、浮かれるな浮かれるな。まだ相手が、事故っているって、確定したわけじゃない)


 緩みそうになる頬を、引き締めて。


 勝機を逃さず、さらに。


 揺さぶりを、掛けてみる。


「それじゃあ攻撃宣言。【大蛇】と【ジャガー】と【ラノエ】で、攻撃アタックを仕掛けます」


 ペッ、ペッ、ペッ、と。


 手持ちの召喚生物クリーテャーを、使用可能を示す縦向き(アンタップ)状態から、使用不可を示す横向き(タップ)状態へと、全横倒し(フルタップ)


 攻撃の参加を、確定させる。


 一方で、アリス側の戦場には。


 今のところ、召喚生物は存在しない。


 つまり。


「……通ります。それではパワーが、それぞれ4点と2点と1点なので、合計で7点ですね?」


 全部素通し(オールスルー)


 これでアリスのライフは15点から7点を引いた8点となるため、初期値の20点から、すでに半分以上を削っている。


 このままでも十分、悪くないペースだ。


 でもここで、攻撃の手を緩めない。


「待って。本体プレイヤーへのダメージが通るなら、【ラノエ】に【巨大化】を使わせてもらえるかな?」


 ここで僕が使用した瞬間魔法インスタントは、以下のもの。


【巨大化 〈緑〉

 レア度……コモン

 カードタイプ……瞬間魔法

 召喚生物1体を対象とし、それはターン終了時まで+3/+3の修正を受ける】


 これを【ラノワルドのエルフ】に使用することで、1/1の貧弱ボディが、1ターン限定とはいえ、4/4のムキムキマッチョマンへと変貌する。


 しかも、青系デッキのお家芸である送還バウンス呪文も警戒して。


 火力を、一体だけに集中させず。


 三体に散らすという、配慮ぶり。


 我ながら策士……策士過ぎるっ!


「……通りません。それは【対抗否認】で、打ち消します」


 おっと、流石にこれは通らなかったか。


 今度こそ、アリスの手札から零れ落ちた。


 否認デッキの代名詞である……


【対抗否認 〈青〉〈青〉

 レア度……コモン

 カードタイプ……瞬間魔法

 呪文ひとつを対象とし、それを打ち消す】


 ……によって。


 しっかりと、打ち消さ(カウンター)されてしまった。


 攻撃は7点止まりである。


(……でも、ということはアリスはさっき【否認】を握っていたのに、使わなかった?)


 それを、今回は使った意味。


 自らのライフの減少を、8点までは許容したのに、5点になることを拒んだ意味とは。


(きっとアリスは、もう一回ぶん、つまり7点の攻撃を次のターンも受ける前提で、その次の自分のターンまで、ゲームを長引かせたいんだ)


 そこまで行けば、6ターン目。


 スロースターターの否認デッキが、本領を発揮し始める頃合いだ。


 そして、たとえ20対1で、一時的にライフレースに勝っていても。


 一度流れを、掴まれてしまえば。


 その差を容易くひっくり返してしまうのが、否認デッキの恐ろしいところである。


 となれば。


(悪いけど……アリス。その計算を、狂わさせてもらうよっ!)


 アリスの戦場にある土地は、魔力マナを使い切った、全横倒し(フルタップ)状態。


 一方の僕も戦場の【森】が一枚だけ使用可能アンタップ状態という、似たような状況ではあるものの……


 まだ僕は、このターンに。


 各プレイヤーが、自分のターンに一枚だけ配置セットできる土地を、温存していた。


 そこに本命がある。


(陽動で、アリスのマナを使い切らせた。流れもきているし……通すなら、今だっ!)


 勝利の予感に、胸を高鳴らせながら。


 意気揚々と、隠し持っていた切り札を。


 戦場へ、投入する。


「それじゃあ僕の第二メインフェイズ。まず【ガイア揺籃の大地】をセット」


 これまで戦場に並べていた、基本地形の【森】とは異なって。


 特殊地形である【ガイア揺籃の大地】の効果は、以下のようなもの。


【ガイア揺籃の大地

 レア度……神話レア

 カードタイプ……伝説の土地

〈→〉;あなたがコントロールする召喚生物1体につき、1点の〈緑〉マナを獲得する】


 そして現在、僕の所有コントロールする召喚生物クリーテャーは、全部で三体。


 つまり【ガイア揺籃の大地】と、残しておいた【森】によって、合計4点の〈緑〉マナを獲得した。


 それを注ぎ込むのは……


「……【バーストダーム】を、召喚っ!」


 【バーストダーム 〈緑〉〈緑〉②

  レア度……コモン

  カードタイプ……召喚生物『獣』

  5/5

  霧散4;これが戦場に出る際、これのうえに、霧散カウンターを4つ置く。あなたのアップキープ開始時に、それを1個、取り除く。取り除けない場合、これを生贄に捧げる。

 〈皮膜〉;このカードは呪文や能力の対象にならない】

 

 先んじて、召喚していた【襲撃するジャガー】の〈残響〉とは、異なって。


 この【バーストダーム】が有する〈霧散〉という誘発能力は、召喚後の支払い的なデメリットは、発生しないものの。


 手間がかからないぶん、放っておくと。


 規定ターン後には、勝手に死んでしまうという。


 なんとも儚い特性だ。


 だけど……そんな儚さとは、裏腹に。


 期限付きの生命という、代償を背負うことで。


 獲得した性能は、馬鹿にはできない。


 とくに【バーストダーム】の有する〈皮膜〉は、戦場に呪文で干渉することが多いタイプのデッキにとっては、特攻ともいえる恒常能力。


 そのため一度、戦場に出てしまえば。


 命尽きるまで、派手に暴れ回ってくれること請け合いの。


 頼もしき、巨大生物ファッティなのである。


(悪いけどこの勝負、もらったよ! アリスっ!)


 この瞬間、僕は勝利を確信した。


「……ではその【バーストダーム】を、【眩暈】で、打ち消します」


 それを、淡々と。


 美しき少女が、否認カウンターする。


「……へ?」


「……マナが支払えないので、この場合は、代替呪文ピッチスペルでの、使用です。対価コストとして【島】を1枚、手札に戻しますね」


 すすっと、戦場から。


 自身が所有者オーナーである【島】を1枚、手札に戻すことで。


 アリスが使用した、瞬間呪文インスタントとは。


 以下のようなもの。


【眩暈 〈青〉①

 レア度……コモン

 カードタイプ……瞬間呪文

 呪文ひとつを対象とする。それの使用者が①を支払わない限り、それを打ち消す。

〈代替〉;【島】を1枚、手札に戻す】


 基本的に、全ての呪文は。


 各々のカードに設定された、呪文マナコストを支払うことで、初めて使用が可能となる。


 しかし〈代替〉という、特殊能力は。


 呪文コストを、支払う代わりに。


 特定の条件を、満たすことで。


 正規のコストを支払うことなく、呪文を使用できるという、極めて凶悪なシロモノだ。


 ……とまあ、その部分だけに着目すれば。


 運営の、設定ミスにも思えてしまう。


 ぶっ壊れ能力なのだが。


 事実、何枚かのカードは実際にぶっ壊れていて。


 見事に禁止カード入りしてるんだけれども。


 それはさておき。


 ほとんどの〈代替〉コスト持ちカードは、本来の支払いコストが異常に重いとか、〈代替〉の条件が厳しいとか、カードそのものがあんまり強くないとかで、なんとかバランスを保っている。


 事実、この【目眩】だって。


 どんな色のマナでも支払い可能な、無色の①マナを支払うことで。


 簡単にそれを、無効化できるのだから。


 通常時であれば、そんなに強くはない。


 怖くない。


 だけど今みたいに……


 こちらの余力がない状況だと。


 死ぬほどに、ブッ刺さる。


(キッツう……)


 馬鹿が使えば、ただの棒切れ。


 賢者が使えば、素晴らしき名剣。


 否認呪文カウンタースペル……とくに【眩暈】とは。


 そういう類のカードだ。


「通りますか?」


「……通、り゛まずうっ!」


 針の穴に、糸を通すような。


 芸術的ですらある【眩暈】は。


 戦術云々よりも、まず先に。


 対戦相手の心をへし折ってくる。


 目の前に転がっていた勝利を、眼前で。


 嘲笑うよにして、蹴り飛ばされたのだ。


 当然ながら、僕の心はバキバキの複雑骨折。


 感情を押し殺せず、声が震えてしまっても。


 仕方のないことだろう。


 それどころか。


(……ぐうっ!)


 うっすら、と。


 目尻に、涙を浮かべてしまっている。


 無様が過ぎた、中年カードゲーマーを。


「……」


 こちらは見事な無表情ポーカーフェイスを保った、麗しき才媛(クールビューティー)が。


 じっ……と、見つめていて。


(……?)


 それを指摘する、前に。


「……では、ターンエンドでいいですか?」


「あ、う、うん、ごめんごめん。ターンエンドです!」


 促されて。


 慌てて僕は、自分の手番終了ターンエンドを宣言した。


「……では、私のターンですね。アンタップ。アップキープ。ドローカード」


 否認パーミッションプレイヤーなら、誰もが憧れるような。


 見事なプレイングを、披露しても。


 アリスに際立った変化は、見受けられない。


 あくまで、淡々と。


 丁寧に。


 勝利への布石を、積み上げていく。


(全く……これじゃあ、どっちが大人かわかんないな。いやまあ、確かに僕の精神年齢が外見ガワより幼いのは、認めるけど)


 それでも流石に、成人男性として。


 現役中学生に、遅れはとりたくない。


(それにカウンターの代償として、アリスは【島】を、手札に戻したんだ)


 つまりそのぶん、次の展開が。


 一手遅れる。


 計画の歯車が、狂っていく。


(大丈夫。戦場はまだ、僕が優勢。決め手を打つことはできなかったけど、このまま一気に、押し切ってみせるっ!)


 大人びた、年下才女の態度によって。


 恥ずかしながら、冷静さを取り戻した僕は。


 少なくともここからは、もう絶対にミスを犯さまいと。


 改めて、戦場に意識を注ぐ。


「……では、私のターン」


 そんな僕の耳朶に。


「……メインフェイズ。まず【島】を戦場に配置して、②マナを消費することで、【厳かな監獄】をプレイします」


 美しく。


「……通りましたか? では【厳かな監獄】から③マナを生み出し、残る【島】の〈青〉2マナと合わせて【不徳】をプレイ。対象は【大河を渡る大蛇】を指定します。通りますか?」


 残酷な。


「……通るようですね。ですと【不徳】の効果によって、【大河を渡る大蛇】の所有権コントロールを得ます。そして呪文が解決されたので、追加効果により【島】を4つ、アンタップさせますね」


 終焉の音色が、流れ込んできた。


「……これで私は、ターンエンドです」


「……ふえ?」


 ちょっとちょっと。


 ちょっと待って。


 一旦落ち着いて、状況を整理してみよう。


 この手番ターンで、アリスが使用したカードは3枚。


 先ほど手札に、回収して。


 再び戦場に戻した、【島】に加えて。


 召喚後は破壊されるまで戦場に残り続ける、神秘機構アーティファクトが1枚と。


 召喚生物クリーテャーを対象とする、魔力付与エンチャントが1枚。


 それぞれの効果は……


【厳かな監獄 ②

 レア度……レア

 カードタイプ……神秘機構

 これはあなたのアンタップフェイズに、アンタップしない。

〈→〉;無色のマナ3点を獲得する。

 ④;これをアンタップする】


【不徳 〈青〉〈青〉③

 レア度……レア

 カードタイプ……魔力付与『召喚生物』

 あなたはこれが魔力付与された召喚生物の、コントロールを得る。

 これが戦場に出たとき、あなたの所有する土地を最大5つまで、アンタップする】


 ……というもの。


 結果として、【不徳】が魔力付与エンチャントされた【大河を渡る大蛇】は、所有権コントロールを奪われて。


 僕の戦場には、【襲撃するジャガー】と【ラノワンドのエルフ】だけが残り。


 戦場の【森】3枚と【ガイア揺籃の大地】は、全て使用不可タップ状態。


 手札は1枚である。


 対するアリスの戦場には、僕から所有権を奪った【大河を渡る大蛇】と、【厳かな監獄】に、使用可能アンタップ状態の【島】が4枚が並んで。


 彼女の手札は4枚だ。


 こんなの、どないせえっちゅうねん。


(ん゛ん゛ん゛……これは、マズいですよおっ!)


 仮にこのまま、僕の手番ターンが返ってきたとて。


 戦場の【襲撃するジャガー】と【ラノワルドのエルフ】で与えられる合計ダメージは、たったの3点。


 アリスの残りライフ8点を、削りきれない。


 一方で、アリスは残る手札と土地で、打ち消し(カウンター)にせよ、手札補充ドローにせよ、【厳かな監獄】を使用可能アンタップにする魔力補充にせよ、後の展開を好き勝手に選べる状態だ。


 たった1ターンで、完全に。


 形勢が、逆転している。


 そしてこの後、好転する気が、もうすでにしない。


 見事に盤面が、支配されている。


 ゲロ吐きそうだ。


(だ、だけどお! 僕は最後まで、勝負を、諦めないぞ!)


 仮に、今のアリスの手札に。


 奇跡的に。


 否認呪文カウンターや、除去呪文バウンス


 それを呼び込むための補充呪文ドローなんかが。


 1枚も無いと、仮定して。


 次のアリスの手番ターンには復活(アンタップ)してしまう、裏切りの蛇ヤロウが寝こけて(タップし)いる、この隙に。


(このドローに……全てを、賭けるッ!)


 右手を信じて。


 勝利に焦がれて。

 

「アンタップ、アップキープ、ドローカあああああドッ!」


 僕は、山札から引いた……基本地形【森】を。


「……」


 すん、と。


 手札に加えて。


「……」


 チャッチャッ、と。


 もう一枚の手札と、交錯シャッフルした後で。


「僕のメインフェイズ。【ジャガー】と【ラノエ】でアタックです。通りますか?」


「はい、通ります。これで私のライフは5点ですね」


「……終わります。ターンエンド」


 潔く、手番ターンを譲った。


 泣いてないよ?


「……その前に、4マナで【厳かな監獄】を、アンタップします。対応スタックありますか?」


 それなのに。


「……どうぞ」


「……では、私のターン。アンタップ、アップキープ、ドローカード」

 

 アリスは微塵も、手心など加えてくれない。


 容赦なく追い込んでくる。

 

「……第一メインフェイズ。手札から戦場に【島】を配置セットして、【厳かな監獄】を起動。無色3マナと、青1マナで、【君臨するマスティコア】を召喚します」


「あいええ……」


 先の手番ターンの、仕返しだと。


 言わんばかりに。


【君臨するマスティコア ④

 レア度……レア

 カードタイプ……神秘機構・召喚生物

 4/4

 あなたのアップキープ開始時に、手札からカードを1枚、墓地に捨てない限り、これを生贄に捧げる。

 ②;これはターン終了時まで〈不壊〉を得る。

 ②;召喚生物1体を対象とする。これはそれに1点のダメージを与える】


 除去耐性と除去能力を兼ね備えた、終焉怪物フィニッシャーが。


 戦場に、降臨した。


「……通りますか?」


「あ……はい、通りましゅう……」


「……では、ターンエンドです」


「……」


 当然のことながら。


 このあと無茶苦茶に、蹂躙された。


 私は貴方を、裏切ってなどいません。

 貴方が私の心を、測り損ねていただけです。


 ――不徳――


 

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