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【18】 黒弾の狙撃手③

〈カケル視点〉


「……あ、いや……えっと? それは一体、どういう意味かな?」


「言葉のまま、ですよ」


 本心からの、僕の問いかけに。


 ヒカルくんは、より一層、悲しげに。


 漆黒と薄白の瞳を、細めながら。


「きっと……以前の、夢尾さんなら、僕のような黒いデッキを相手に、ここまで無警戒な展開なんて、しないはずです。もっと、もっと、そう……もっと、慎重に、思慮深く、様々な可能性を考慮して、予測して、想像を重ねたうえで、それをカバーできるようなプレイングを、して、いたはずなんです……っ!」


 それなのに、と。


 ヒカルくんは、一方的に。


 八つ当たりじみた叱責を、吐き続ける。


「……アイツの、相手をするようになって……いや、それ以前から、MTG以外のことに、気を取られようになってから……夢尾さんは、少しずつ、弱くなっていきました……その結果が、これですよ」


「いや、ちょっと意味わかんないな? そこまで言われると、僕だって言わせてもらうけど、ここまでのゲーム展開メイキングは、かなり理想的で、非のうちどころがないもののはずだよ?」


 そうだ。


 そうである、はずなのだ。


 なのに。


「……それは『凡人』の、発想ですよ」


 ヒカルくんは、何かを、諦めたように。


 小さく、頭を左右に振って。


「もういいです。ターンエンドで、いいですか?」


 わかりきった、陳腐な映画の結末を、確認するように。


 僕に答えを、求めてくる。


(い、いったい……何を、言って……!?)


 意味が、わからない。 


 ただ死神の鎌が、そっと。


 首筋に、添えられた感覚があった。


(……っ!)


 ゾクゾクと、悪寒が止まらない。


 背筋に這い寄る、冷たい闇が。


 寸前まで、手にしていたはずの勝利を。


 遠ざけてしまう。


(い、いやだって、この状況を巻き返せるようなカードが、最新環境スタンダードにあったとしても、それは――)


 ふと、そこで。


 脳裏に浮かんだ仮説。


(――えっ!? いや、まさかそんな……でも、そんなことが、あるの!?)


 まだ僕の、半分も生きていないはずの中学生が。


 あの『デッキ』を完成させて、真剣勝負の場に。


 持ち込んでいるというのか?


(おいおい、嘘だろ……?)


 信じたくない。


 認めたくない。


 その事実を、受け入れ難い。


 懇々と湧き上がる、そんな気持ちを。


 カードゲーマーとしての意地で、抑え込みながら。


「……ターンエンドで」


 他に、選択肢がない僕は。


 狩場に、追い込まれるような心境で。


 その言葉を、口にしたのだった。


 直後に。


「……では、僕のターンですね。アンタップ、アップキープ――」


「――そのタイミングで、リス・トークン2体をタップして【対立】を起動っ! 対象は【沼】と【産卵池】だよっ!」


 当初の、予定プラン通りに。


 相手の土地を、使用不可ロック状態にしようとした。


 僕の宣言に対して。


「……では、対応スタックで〈黒〉を1マナ生成。【真血の教示者】を使用します」


「……っ!」


 やっぱり、なのか。


 ドロー前の、このタイミングで。


 ヒカルくんが、使用したのは……


【真血の教示者 〈黒〉

 レアリティ……レア

 カードタイプ……瞬間呪文

 2点のライフを支払う。あなたはライブラリーの中から、カードを1枚、選んでも良い。その場合、ライブラリーを切り直したのちに、選んだカードを、ライブラリーの一番上に置く】


 ……という。


 万能探知(サーチ)カードだ。


 そして、メインフェイズでした使用できない、詠唱呪文ソーサリーと比しては。


 効果が弱いとか。


 呪文コストが割高だとか。


 代償効果が付属しているとかで。


 様々なデメリットが、設けられているものの。


 使用されるタイミングが限定されない、瞬間呪文インスタントであれば。


 このアップキープフェイズであっても、問題なく。


 使用できる。


対応スタック、ありますか?」


「……ありません。どうぞ」


 使用可能アンタップ用の、土地どころか。


 偽装ブラフに用いる手札すらない、僕は。


 ただただ、その光景リアルを。


 見届けるしかない。


「……」


 適切に、呪文が処理されて。


 山札ライブラリーという、膨大な選択肢プールの中から。


 1枚の解答カードを選び出した、ヒカルくんは。


 それ以外の山札を、シャッフルして。


 僕に預け、それを僕がまたシャッフルして。


 最終的に所有者オーナーの元へ戻った山札の一番上に、先ほど選択したカードを、積む。


 そのあとで。


「ドローカード、【沼】をセットランド」 


 突入した、メインフェイズ。


 ヒカルくんが、使用したのは。


「〈黒〉1マナを使用して、【邪教の儀式】をプレイします」


 こちらも、黒の代名詞である……


【邪教の儀式 〈黒〉

 レアリティ……コモン

 カードタイプ……瞬間呪文

 あなたは〈黒〉〈黒〉〈黒〉を獲得する】


 ……という、なかなかに尖った。


 マナ加速呪文だ。


 なにせ、緑の【ラノエルドのエルフ】と比較した場合。


 同条件で、1枚の土地から、1枚の手札を、互いに消費したとしても。


 それらを使用した、ターンに限っては。

 

 確かに、1マナも得ていない、前者よりは。


 3マナを獲得している後者のほうが、優位に立っているだろう。


 しかし、次のターンではどうか?


 前者は土地を足して2マナを得ることができるが、後者は土地の1マナのみ。


 それ以降のターンも同様の計算をしていくと、前者は0、2、4、6と、ターンを重ねるごとに累積マナが増えていき。


 後者は3、4、5、6と。


 累積マナの曲線は、4ターン目に追いつかれ。


 それ以降は、追い抜かれてしまう。


 まあ、MTGにおいて獲得したマナは。


 次のフェイズには、持ち越せないため。


 この累計式がそのまま、ゲームの展開に適応されるわけでは、ないけれど。


 カードゲームにおける、勝利条件とは。


 いかに、強いカードを連打プレイし続けて。


 相手より優位アドを稼いでいくかに、尽きるので。


 瞬間的な、爆発力よりも。


 持続的な、増加のほうが。


 長い目で見ると、基本的には優位アドを、稼ぎ易いのだ。


 それでも――なお。


 瞬間的な加速が、推奨される場面とは。


 ゲームを『決定付ける一撃』を、マナコストを前倒しにすることで、奇襲として成立させる場合。


 まさしく――この、瞬間のように。


「3マナで【悲嘆の死】を、プレイします」


「……ッ!」


 今度こそ、僕は。


 カードゲーマにあるまじき、絶句の表情を。


 堪えることが、できなかった。


 何故なら、ヒカルくんが用いたのは……


【悲嘆の死 〈黒〉②

 レアリティ……アンコモン

 カードタイプ……詠唱呪文

 すべての緑のクリーチャーとウォーカーを、追放する】


 ……という。


 効果は、劇的だが。


 使用局面が、限定的過ぎて。


 本来であれば、メインデッキに積まれるはずのない。


 対策要員サイドボードとして設計デザインされた、緑に対する、黒の天敵メタカードだったからだ。


(やっぱり……銀弾、デッキなのかっ!)


 このような。


 特定の色や状況に対しては、凄まじい優位アドをとれる反面。


 それ以外の相手には何の役にも立たない、対策サイドカードを。


 メインから、デッキに1枚ずつ積んで。


 状況に応じて、探知サーチカードで、引っ張ってくることで。


 的確に相手の弱点を貫くデッキを。


 デッキの代名詞キーカードである【真血の教示者】と。


 多くの物語において、強敵として登場する吸血鬼たちの、心臓を撃ち抜く特攻武器として用いられる銀の弾丸(シルバー・バレット)のイメージを、重ねることで。


 MTGにおいては『銀弾デッキ』などと。


 呼ばれている。


(でも、でもさあ……この銀弾デッキは、そう簡単に、扱えるものじゃないんだよ……っ!)


 確かにその存在は、知っていた。


 しかし僕は、現在の最新構築スタンダード環境から。


 これを無意識のうちに、除外していたのだ。


 そんな自分自身への、言い訳ではないが。


 何度も、繰り返すように。


 MTGにおける、黒という色属性カラーパイは。


 全ての事態に対して、柔軟に対応できるといった、万能属性ではない。


 それが与えれれているのは、対極の白。


 やや、それに準ずる形で緑。


 あるいは、呪文そのものを否認カウンターできる、青の役割だ。


 むしろ黒なんて、戦場の魔力付与エンチャント神秘機構アーティファクトには、ほとんど干渉できないし。


 ハマれば強い手札破壊ハンデスや、クリーテャー除去もなんか。


 適切な対象が存在しない、状況下では。


 どんなときでも、一定の活躍が見込める。


 対応力の高い、火力呪文などとは異なって。


 全くもって、役に立たない。


 紙クズと成り果ててしまう。


(……)

 

 それでも。


 それでも、だ。


 そうした黒という属性の。


 得手、不得手を。


 隅々まで知悉した上で。


 シーズン環境を把握して、標的とするデッキに対しての天敵メタカードを、メインから数枚仕込むことで、優位アドを稼ぎ。


 不要なカードは代替呪文ピッチスペルの代替コストや、環境生物トップレアである【君臨するマスティコア】のような、手札を消費するカードに与えることで、無駄なく活用して。


 消費したカードも、黒のお家芸である墓地操作などで、再利用することで。


 優位アドを積み重ねながら。


 針の糸を、通すような。

 

 細くて狭い、勝利への筋道を。


 暗闇のなか、自分の知識データ技術プレイングだけを、松明として。


 一手ぶんの間違えさえも、許されずに。


 掴みにいくのが、銀弾デッキだ。


 それにはデッキを構成する、60枚のカードに対して。

 

 その、1枚1枚に。

 

 血が。


 肉が。


 魂が。

 

 神経すら、通っているような。


 深い理解力が、必要で。


 それほどまでの、複雑な難題プレイングを、要求されるのにも関わらず。


 現環境における、デッキ評価は。


 構築範囲スタンダードで使用できる黒の潜在能力(カラーポテンシャル)から、精々が、少数派マイノリティ趣味ファンデッキ止まりという。


 あまりに、労力と成果が釣り合っていない。


 二流デッキという認識に、落ち着いている。


 だったら、もっと簡単シンプルで応用の効く。


 他の色や、多色のデッキを使った方が。


 よほど現実的で、勝率も高い。


 それでもなお、そんなデッキを好んで使うのは。


 黒という属性カラーが大好きで、勝利を度外視した、趣味勢のプレイヤーか。


 自分の力量や、トーナメント環境を見誤っている、初心者ビギナー


 あるいは。


(それを本当に使いこなせる、才能タレント……っ!)


 少なくとも、僕は。


 そんな難解で不確実なデッキを、勝ち抜き形式の試合(トーナメント)に持ち込もうとは、思わない。


 この、目の前の光景だって。


 単なるラッキーパンチの可能性だって、十分に有り得る。


 だけど。


「これで、ターンエンドです」


 戦場にいた、僕のクリーチャーを一掃して。

 

 なお、そのことを『当然』と処理するヒカルくんからは。


 そんな甘えた考えを許さない、確信が。


 滲み出していた。


 きっと、何度対戦を繰り返しても。


 ヒカルくんは、再現度の高いプレイングをしてくるのだろう。


 そう、はっきりと予感できてしまう。


(……勝て、ないっ!)


 グラグラと、足場が揺れる。


 世界が揺れる。


 視界が滲む。


 悔しい。


 デッキパワーではない。


 プレイングで、負けている……ッ!


「……もし、以前の夢尾さんでしたら、きっと黒を相手にして、緑の盤面札パーマネントを、ここまで無警戒に展開していないでしょうし、少なくとも【ガラクト】は手札に控えて、保険として、握っていたと思います」


「……ッ!」


 そうだ。


 その通りだった。


 あのとき僕は、【野生英霊ガラクト】を経由せずとも。


 キーカードの【対立】と【ラノエルドの隠遁者】を、戦場に召喚プレイできていたのだ。


 そして、そこまでの展開だけでも。


 盤面のカードだけで、その後のゲームを、十分優位に勧められたはず。


 それなのに。


(都合よく、欲しいカードを引いたからって……まるで、強カードを自慢するかのような、過剰展開フルオープンで手札を空にするなんてっ! そんなの、素人同然のプレイングじゃないかっ!)


 おかげで、なんの杞憂もなく。


 ヒカルくんは、戦場を一掃して。


 今の僕には、クリーチャーが不在のため使用できない【対立】と。


 3枚の土地……しかもそのうち【ガイア揺籃の大地】は、クリーチャーがいないため使用できないという。


 悲惨な状態に、陥ってしまっている。


「……っ、ドローカード」


 それでも、一縷の望みをかけて。


 山札から、カードを引いてみても。


 完全に、勝機に見放されてしまったのか。


 手元に来たのは、現状の起爆剤カンフルにはなり得ない、土地カード。


「……ッ!」


 そして、もはや仮面ポーカーフェイスを偽装する余裕すらない。


 惨めな、僕の姿を見つめながら。


「……やっぱり、夢尾さん」


 淡々と。


 異端なる、黒弾の狙撃手は。


 残酷な真実を、告げてくるのであった。


「弱くなって、いますよ」


    ⚫︎


 当然ながら。


 僕は、そのゲームには負けて。


 圧倒的な流れを、覆すこともできずに。


 2ゲーム目まで、ストレート負けを喫してしまった。


 その後、もはや実力を隠すことも無くなったヒカルくんは。


 前回優勝者のアリスすら、撃破して。


 堂々たる、今宵の優勝を。


 手にしたのであった。


 大地や苗木の声が、嘆きの歌に染まる夜が、すぐそこにまで、迫っています。


 ……ラノエルドの巫女、ティタニティ


 ――悲嘆の死――



   ⚫︎


 ここからは基本的に、一日一話の更新となります。


 いちおう完結までは書き上げておりますが、以降に続く作者のモチベのために、評価や感想などをポチっていただけると、嬉しく存じ上げます。


 m(_ _)m


 

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