【14】 週末大会④
〈カケル視点〉
「……って、マジで有り得ない! あり得ないですよねえ!?」
「あー、うん、そうかもねー」
「センセもそう思うでしょ!? ねえ、そう思いませんっ!?」
「うんうん」
「でっしょー!? ホント、信じられませんよねえ!?」
「わかるわかる。」
「……って、センセ! ちゃんとキララのお話、聴いてくれてますうっ!?」
「はいはい、聴いてマスよー」
「うっわ、ムカつく!」
なんて。
プンスコと、荒ぶるキララちゃんを。
ハイハイと、雑に聴き流す僕であるが。
実のところ、彼女としても。
愚痴を吐き出すこと自体が、目的であり。
意見を求めている様子では、ないので。
体裁以上の追求を、図ることもなく。
すぐに一方的なお喋りを、再開する。
「でねでね、そのときに黒瀬くん、なんて言ったと思いますかーあっ!?」
ちなみに、その内容は。
つい先ほど、終えたばかりの。
週末大会、第一試合における、出来事である。
厳正なる抽選の結果。
キララちゃんの対戦相手は、奇しくも同級生。
彼女をこの店に連れてきた、幼馴染ーズのひとりである。
長い前髪で目元を覆い隠した、猫背気味の少年……黒瀬ヒカルくん。
そして。
(まあ、あの子は見るからに『ガチ勢』寄りだからね)
カードゲーマという人種を。
おおよそ二種類に、分類した場合。
それは『ゲームに勝ちたい人間』なのかか。
それとも『ゲームを楽しみたい人間』なのか、だ。
そしてこのゲームに対する考え方の違いは、遊び方そのものに、直結しているため。
この視点で判別すると。
僕やヒカルくんは、前者で。
ジュリアちゃんやリュウセイくんなどは、後者。
そりゃ、少なくとも。
初心者マークのついた、今のキララちゃんでは。
デッキでも。
プレイングでも。
勝てる要素が、見当たらない。
負けるべくして負けたという、当然の結果だ。
だからキララちゃんとしても、ゲームにストレート負けしたこと自体には、不満は抱いていない。
彼女が憤っているのは……
「……いや、そりゃすぐにライフを減らさなかった、キララも悪いですよ!? それに対応の処理とか、能力起動の順番とかで、ちょっとミスしちゃってたことも、認めますよお! でもちゃんと、その場で謝ったじゃないですかあ! それなのに、全然許してくる感じとかなくて、ゲームが終わったら、すぐに自分のデッキを弄り始めてキララのこと無視するし……ちょっとそれ、人として、どうかと思うんですけどねえ!? ねえ、そうでしょ!?」
などという、ゲーム以外での。
ヒカルくんの、盤外対応についてだった。
そして正直これは、どちらにも。
非があると思う。
(そりゃ初心者の、色々と脇が甘いプレイングに、ガチ勢のヒカルくんが、焦れる気持ちはわかるけど……)
でも、キララちゃんはこうやって。
自分なりに、頑張っている最中なのだ。
その努力過程を蔑ろにする真似は、良くはない。
それに、だ。
そもそも彼女を、この場に連れてきたのは、ヒカルくんたちなのである。
であるならば、目的地に案内してハイ終わり。
ではなくて。
少なくともこの子が、MTGに馴染むまでは。
できる範囲で、面倒を見てあげるのが。
人としての筋だと思う。
そういった点で見ても、ジュリアちゃんやリュウセイくんたちに比べて、ヒカルくんの貢献度は、格段に低かった。
というか、ほぼほぼ放置状態だ。
あの子がキララちゃんと、会話している光景を。
そういえばお店では、まだ見たことがない。
いちおう、友達なんだよね?
学校ではちゃんと、話しているのかな?
なんて。
ただでさえ。
不安を煽るような態度を、普段からとってきたうえでの、今回の塩対応である。
う〜ん。
(確かに……これは流石に、一言くらいは、注意が必要なのかな?)
少なくとも。
半ば強引に、彼女の教育係を押し付けられた、僕には。
その程度の権利が、あるはずだ。
「……うん、まあ、そうだね。ちょうど僕の次の対戦相手が、ヒカルくんだから、そのときに少し、お話をしてみるよ」
「絶対ですよお!? 約束、しましたからねえっ! ちゃんとキララに、謝らせてくださいよおっ!?」
「あはは、善処します」
っていうか。
なんやかんやと、理屈をこねくり回したけれど。
正直、今後もこういうことを、頻繁に起こされちゃうと。
何よりも僕自身が、困っちゃうんだよね。
(すいません、仲田さん……)
カードゲーマーの、一般的な感覚として。
週末大会のような、公式の場においては。
自分のゲームを終えた、プレイヤーが。
用事もなく、席を立つことは。
ルールとしては、禁止されていなくても。
マナーとしては、あまりよろしくない。
いやそりゃ、用を足したいとか。
友だちの応援をしたいとか。
そういう気持ちも、わからなくはないよ?
だけど、さ。
さして広くもない、遊戯空間に。
所狭しと配置された長机の、細長い間隔の隙間を、移動するだけでも。
それなりに、人に迷惑をかけるし。
もしもそれが原因で、他人のプレイングが乱れでもしたら。
申し訳ないと思うのが、日本人の感性だ。
同様に、過度に騒々しい友人への応援も。
対戦相手に対する、妨害行為に繋がるし。
もっと言ってしまえば、自分の次の対戦相手の試合を観戦することは、一方的な敵情視察という、完全なマナー違反となる。
よって、結論。
ゲームが終わっても、次の試合までは。
必要以上に席を立たない。
それがカードゲーマーとしての、礼節だ。
むしろ、そうした時間を活用して。
対戦相手と感想戦をするなり、デッキを回したりして、友好を深めていくことこそが。
和を尊ぶ日本人の、在るべき姿だと思う。
もし、仮に。
そういった交友を苦手とするのであれば。
遊戯空間から離れて、外の空気を吸うなり。
スマホを弄るなどして。
とにかく他人の迷惑にならないように、時間を潰せば、いいだけのこと。
だから、今回のキララちゃんのように……
『……センセ〜っ! ちょっと、聞いてくださいよお〜っ!』
などと、叫びながら。
自分の試合が、終わるなり。
ゲーム中の僕の席へ、突撃してきて。
そのとき僕が対戦していた常連さんを無視して、一方的に愚痴を話し続けるのは、完全なるマナー違反である。
とはいえ、あのまま放置すれば。
それはそれで、他の人たちに、迷惑が被りそうな勢いだったために。
仕方なく僕は、ゲームが終わるなり。
対戦相手だった仲田さんに、お断りを入れて。
週末大会を取り行っている遊戯空間から離れて、こうして、ワガママ娘の相手をしてる訳だった。
(今回はたまたま、相手が温厚な人だったから、快く許してもらえたけど……短気な人の場合だと、クレームになるし、そもそも僕は、試合後の歓談を楽しみにしているんだ。それを毎回邪魔されるのは、ちょっと、キツいよね)
そんな訳で。
荒ぶるメスガキ様に、圧倒された訳ではないけど。
今後の僕、自身のためにも。
ヒカルくんへの諫言を、約束することで。
ようやくキララちゃんは、その怒りに、一区切りをつけてくれたようだった。
「あー、もう、まじムカつく! あり得ない! これだから陰キャのオタクは……ねえ、センセ! カードする人って、あんな人ばっかなんですかーっ!?」
とはいえ、まだまだ。
熾火は、燻っているるようで。
メッシュの入ったツインテールを、さわさわ。
忙しくなく弄る、キララちゃんに。
苦笑を禁じ得ない。
「まあ、流石にヒカルくんはちょっと、極端だけど、でもやっぱり勝負事だから、さ。そこに厳しい視線を向ける人は、少なくはないし、別に悪いことでもないかな」
「ええーっ! なんでえっ!? センセは、黒瀬くんの味方するんですかーあっ!?」
「味方というか、スタンスとしての考え方だね。キララちゃんだって、たとえばスポーツの試合とかで、自分が本気で勝とうとしてるのに対戦相手が不真面目なプレーで、ルール違反ばっかりしてきたら、たとえどんなに謝られたとしても、多少はムカつくでしょ?」
「うっ……まあ、それは、そうかも、ですけど……」
「それにキララちゃんも気づいただろうけど、ヒカルくんって、ゲーム中は自分だけじゃなく、相手のライフ変動まで、用意したメモ用紙に書き込んでるんだよね。つまりそれだけ、真剣に、ゲームに取り組んでいるってこと。そんな相手に、ルールを守りきれていない側がアレコレと文句をつけるのって、キララちゃん的には、どうなの?」
実際に、身体を動かす勝負でも。
頭脳を用いる、勝負でも。
勝負は勝負。
その大前提となる、ルールやマナーへの考え方に、大差はない。
それを蔑ろにしてしまった時点で、キララちゃんにも、一定の非はあるのだ。
とはいえ。
「う〜っ、うううう〜っ!」
僕の正論パンチに、反論こそしないものの。
すんなりと、納得もできないのか。
しばしその場で、ブンブンと。
両腕を、上下に振り回しながら。
唸り声を漏らしていた、キララちゃんは……
「……シャー!」
奇声と共に。
急に手首を、直角に曲げて。
4本指を揃えた貫手に、親指を添えた、奇妙な手型を構えつつ。
「フシャー! シャーッ!」
「えっ!? 何それ蛇拳!? 痛い痛いっ!」
行き場のない、憤りを。
蛇を模した、指先に乗せて。
僕の脇腹へと、叩きつけてくるのだった。
「シャアアアっ!」
そうして、どうにかこうにか。
怒りを呑み込もうとする、キララちゃんに。
一方的に襲われながらも。
(……でも、このままキララちゃんに『MTGの真剣勝負が楽しくない』って刷り込まれちゃうのは、ちょっと、面白くないな)
僕は腕時計を、チラリ。
次の試合までの時間を、逆算しつつ。
「ん、キララちゃん。ちょっとタイムタイム」
初心者が、過度な苦手意識を持たないように。
僕たちがゲームを行っていた場所から、少し、距離を置いた。
遊戯空間の片隅を、指差して。
「ちょっと、あっちに行ってみようよ」
「……? フシャー?」
コテン、と。
蛇拳と共に、ツインテールを揺らした、メスガキ様を。
丁寧に案内して、差し上げるのだった。
貴方の意見は、正しい。
だが、正しいだけだ。
――対立――




