【12】 週末大会②
〈カケル視点〉
まだMTG経験が、一週間に満たない。
正真正銘の初心者とはいえ。
こうして週末大会に、自主的に参加するほどの。
高い意欲を見せて。
最初に使用したデッキにも、愛着を持ってくれているらしい。
可愛げの有り余るメスガキ中学生……キララちゃんの姿に。
頬を、緩ませつつも。
「でもさあ。そのデッキにも、だいぶ慣れてきたみたいだし、そろそろ他のデッキとかも、試してみたくなる頃じゃないの?」
週末大会の、開始時刻まで。
デッキを回して、時間を潰そうとしていた僕は。
ちょうどいいので、以前から。
気になっていた質問を、口にした。
「いちおうそのスリヴァリン以外にも、火力とか速攻なんかの安価デッキも、用意してあるよ?」
「うーん……確かに、その気持ちも、ないことはないんですけどね〜」
プルプルとした唇を、尖らせて。
対面の席に座るキララちゃんは。
机上にカードを、並べつつ。
「……まだ、それはいっかなって。まだまだちゃんとこの子たちのこと、使いきれてあげられていませんし〜?」
やんわりと。
その選択肢を、遠ざけるのであった。
「……そっか」
まあ、一口に。
カードゲーマーといっても。
プレイスタイルは、人それぞれだ。
とにかく勝利を目指して、強いデッキを組みたがる人。
勝率よりも趣味を優先して、デッキを楽しむ人。
飽きっぽく、コロコロとデッキを変える人。
ひとつのデッキを、ひたすら極める人。
そのどれが、正解という話ではないのだれど。
この一週間で、なんとなく。
キララちゃんの人となりや、考え方。
プレイスタイルなどが、見えてきた。
おそらく彼女は、気に入ったデッキを。
納得いくまで、回し切るタイプだ。
と、すれば。
「だったら……そうだねえ。デッキを変えるんじゃなくて、少しずつでも、そのデッキを弄ってみるのも、面白いかもねえ」
こちらも、話題を軌道修正。
聞き手の興味を惹きそうな内容に、舵を切る。
「う〜ん……たとえばあ?」
案の定。
机上でデッキを、シャッフルしつつ。
キララちゃんは、今日もパッチリメイクの、大きな瞳を瞬かせて。
話の続きを、促してきた。
「具体的には……そうだねえ。まずは手始めに、最新環境で使えるスリヴァリンたちを一通り、試してみるとか?」
レアリティや、カードの価格。
デッキに採用されているスリヴァリンたちの、共鳴能力といった関係で。
キララちゃんのデッキに積まれなかった、スリヴァリンたちは。
まだまだたくさんいる。
「スリヴァリンの強みは、その多様性からくる、柔軟性だからね。まずはいくつかの仮想敵デッキを想定してみて、それに対して有利に戦えるように組んでいくと、デッキ改造のイメージなんかが、しやすいよ?」
「うう〜ん……でもお、キララあ、この前デッキを自分で変えてみたら、けっこうひどい感じに、なっちゃったじゃないですかあ〜?」
「あはは。あれはなかなか、酷かったね」
「んもーっ! 笑うなしっ!」
スリヴァリンの強さは、柔軟性。
応用力の高さである、と。
言ったばかりだけど。
正確には『各色に振り分けられたスリヴァリンたちを、効率的に採用できる』という意味であり。
その代償として、多色デッキには。
手札に土地を引きすぎる『土地事故』以外にも。
手札と土地の色が噛み合わない『色事故』が。
潜在的に、付き纏ってきてしまうのだ。
例えば、つい先日に。
キララちゃんが、挑戦して。
苦くも、失敗してしまったように。
カードコストの配分曲線や、色マナの比率など。
構築の基本を無視したデッキを組んでしまうと。
手札にくる呪文のコストが偏り過ぎてしまったり、必要なときに必要な色のマナが揃っていなかったりと、高確率で、デッキが機能不全を起こしてしまう羽目になる。
それを回避するためには……
「どんなデッキでも、土地配分は大事からね。多色なら特に。そのために多色地形があるんだから」
原則として、ひとつの土地から単色のマナしか生み出せない、基本地形だけを使用するのではなく。
様々な、条件つきではあるものの。
ひとつの土地から、任意の色マナを。
選択して、生み出すことのできる特殊地形を。
無理のない範囲で、デッキに組み込むこと。
これが多色デッキを安定させる上では、一番手っ取り早くて、効果的な方法だ。
「……キララもお、それくらいは、わかってますよお〜」
しかし世の中、たとえ正解がわかっていても。
それを選べない状況など、往々にしてある。
「でも多色用の土地って、めっちゃ高いじゃないですか〜」
「まあ、その通りだけども」
MTGのプレイヤーなら、誰しもが。
デッキを安定させるための土地なんて、便利であればあるほど、欲しくなるもの。
需要に応じて、供給の価格が上昇するのは。
仕方のないことだった。
とはいえ、カード資産の足りない初心者たちが。
そうした地味ながらも堅実な、土台作りよりも。
もっとわかりやすくて強そうな、終焉生物や。
ど派手に戦局を一変させる、詠唱呪文なんかに。
惹かれる気持ちは、理解できるわけで。
今はとにかく、欲しいカードを我慢して。
高額な土地を買い集めなさい、なんて。
正論とはいえ、なかなか聞き入れてもらえないよね。
となれば。
「ならいっそ……逆に、色を絞ってみるのも、いいかもね」
チャッチャッチャッ、と。
手癖のままに。
手のひらでデッキを、シャッフルしながら。
漏らした、僕の呟きに。
「色を、絞るって……減らすって、ことですかあー?」
ペトペトペト、と。
こちらは机上にデッキを広げて、一枚ずつ。
カードを均等に、五箇所に散りばめる形で、シャッフルしていたキララちゃんが。
怪訝そうに、眉根を顰めた。
「そうそう。えっと……前に教えた、MTGにおける各色の特性については、覚えてる?」
「たしか、白はなんでもできるけど、なにかに特化しているわけじゃなくて、青は否認呪文と手札補充、黒はクリーチャーの除去と手札破壊、赤が火力で、緑が魔力加速や巨大生物みたいな、それぞれの色に与えられた、役割ってやつですよねー?」
「その通り」
厳密には、もっと細かい特徴があるんだけど。
今はざっくりと、そんなイメージで問題ない。
「で、今ちょうど、キララちゃんの目の前に、カードが裏返しになってるわけだけど」
「?」
「その裏側を、よく見てみて」
デッキを、シャッフルするために。
机上に並べられた、半透明なビニール製の、保護皮札越しに。
カードの背面が、透けている。
「そこに、さ。さっき言っていた白、青、黒、赤、緑が、それぞれ五芒星の頂点として、描かれているでしょ?」
「ごぼーせい? は、ちょっとわからないですけど、なんか、星形にはなってますねー」
「それそれ。それは、さ。各色の『相性』を示しているんだよね」
「あいしょう? ですか〜?」
「うん、そう。例えば白なら、隣り合う青とか緑とは、デッキを組む上で相性が良くて、逆に遠く離れた黒や赤とは、ちょっと無理する感じになっちゃうんだよ。前回キララちゃんのデッキが噛み合わなかったのは、この法則を無視していた部分も、大きいかな」
「ほへー、そうだったんですねーっ!」
まあ、最近では。
積み重ねられた、膨大な歳月とともに。
MTGの黎明に設けられた、初期設定も。
随分と、曖昧になってはきているけど。
っていうか札束の暴力で、それこそ高価で高性能な多色地形を買い漁って、高額なデッキを組んだ上級者たちの間では、そんなもの、もはやあってないようなものだけれど。
そこは、割愛。
あくまで初心者向けのお話ね。
「うん、だから多色デッキを組むんなら、まずは相性のいい2色くらいから始めるのか、王道なんだよ。スリヴァリンの場合はマナサポートに優れた緑があるから、それを主体として、今のデッキを組んでいるけど、変に3色以上にこだわってデッキバランスを崩すくらいなら、思い切って相性のいい属性だけに絞っちゃったほうが、デッキは安定するし、そこまで費用もかからないと思うよ?」
「ううん……なんか、貧乏くさいですけど、仕方ないですね〜」
貧乏くさい言うなや。
賢者の節制と言いなされ。
「でもでもっ、やっぱり! 世の中って、けっきょくはお金なんですねっ!」
「身も蓋もないねえ」
「というわけで、センセっ♡ お小遣い、ちょーだいっ♡」
「いや、仮にも先生なら、僕がお金貰う立場じゃない?」
「パーパ♡ カードちょーだいっ♡」
「色んな意味でそのセリフはヤバいからね!? 絶対に人前で言うなよ!?」
なんて。
すっかり気心知れた、空気の中で。
わちゃわちゃ、と。
週末大会が始まるまでの、束の間。
僕とキララちゃんの、師弟コンビが。
デッキを回していると……
(……っ!?)
不意に、背筋を貫く悪寒。
慌てて振り返る、と。
そこには……
「……あ、アリス?」
いつの間にか。
来店していたらしい、四半混血の美少女が。
「……」
無言のまま。
僕の背後に、佇んでいたのであった。
ここで、原始の若木が芽吹いたのだ。
最期の偉木も、ここに眠るのだろう。
……ラノエルドの長老、ガレーメン
――ガイア揺籃の大地――




