【11】 週末大会①
〈カケル視点〉
「悪いですけどキララ、やるなら、ガチの人なんで! だからセンセもバトるときは、手加減とか期待しないでくださいねっ♡」
「いや、それ……MTG初めて一週間未満の人間が、吐くセリフじゃないからね? っていうかそんな初心者が、よく週末大会に出ようだなんて、思えるよね? キララちゃん、心臓強過ぎない?」
「えへへっ♡ キララは実戦で、伸びるタイプなのでーっ♡」
「う〜ん……蛮勇も、ここまでくれば、いっそ立派なのか……?」
「えー、何それー♡ センセ、褒めるんならちゃんと、褒めてくださいよーっ♡」
「いや、褒めてないから」
と、いうわけで。
さてさて。
今週もやってきました、週末の金曜日。
僕のような対人経験を積みたいカードゲーマには、欠かせないイベント。
週末大会の時間である。
実際に、身体を動かすスポーツなんかでも、よく聴く話だけど。
やっぱり、練習と試合は。
別物だからね。
身内での馴れ合いが許される、遊戯とは違って。
やり直しが許されない、一発勝負というものは。
精神的な負荷が、桁違いで。
いつもなら、無意識にできていたことさえ。
満足に、できなくなるものだ。
その症状を、経験という名の良薬で。
少しでも、耐性付けできるのならば。
可能な限り蓄積を、欠かすわけにはいかない。
それに、この週末大会は。
二週間後に予定されている大規模なMTG公式大会の、縮図とも呼べる、ものでもある。
なにせ、参加者たちが『楽しむ』のではなく『勝つ』ことを目的とした、場においては。
持ち込める品質のデッキが。
自然と、絞られて。
やがて、限定された構築環境という、選択肢のなかから。
安定して勝率を叩き出せる、環境デッキが生み出されると。
今度はそれらを見越した対策デッキが、作られていく。
そして実力者たちが集う、大規模な大会とは。
基本的に、この環境と対策の、睨み合いであり。
そのどちらを、選択するにせよ。
重要なのは、情報の事前収集であることに、疑いの余地はない。
(ううん……やっぱり今日も、補充デッキと否認デッキが、多そうだなあ)
ときどき、それらに対して適正のある隠者デッキや。
コンボが決まれば問答無用で勝てる、取引デッキや再誕デッキ。
あくまで自分の手に馴染む、火力デッキや速攻デッキなんかを調整している人も、見受けられはするのだが。
やはり、今回も。
常連客で賑わう遊戯空間の情報を、読み解く限りでは。
現在の流行デッキは、先週から引き続いて。
変化ないようである。
(ん〜……今週はあんまり、練習時間がとれなかったのが、悔やまれるなあ……)
当然ながら。
月末の大会に出場する予定の、僕自身も。
そろそろ本格的に、持ち込むデッキを決めて。
調整に取り掛かからなければ、いけない時期だというのに……
(……とりあえず今日は、前に使っていた対立デッキを持ち込んでみたけど、最新バージョンに調整できていないこれで、いったいどこまで、やれるものやら……)
現時点で、未だに僕は。
大会で使用するデッキを、決めあぐねていた。
今回の週末大会に持ち込んだ、この対立デッキも。
肌感では、環境デッキや対策デッキに対して。
分が悪いとまでは、思わないのだけれど。
やはり、最大勢力のそれらは。
大勢の人たちが、デッキをぶん回して。
研究して。
研磨されて。
研鑽され尽くしているために。
デッキレシピの完成度が、非常に高い。
3試合の2試合先取制となるMTGの公式試合において、初戦以降の2試合目と3試合目の開始前に、任意でメインデッキと入れ替えが認められている最大15枚の対策予備札までをも視野に入れると、この磨き上げられた玉石に、中途半端に磨いた宝石が、太刀打ちできるとは思えなかった。
(……やっぱりもう少し、デッキ研究の時間が、欲しかったなあ)
戦場に満ちる、熱気を感じて。
今更ながらに。
後悔を抱いてしまう、僕であるが。
「セーンセ? なに難しい顔、してるんですか〜あ?」
その『原因』である、メスガキ様が。
こちらの胸中など、知る由もなく。
小生意気な、八重歯を覗かせて。
ニヤニヤと、話しかけてくる。
「センセって、見るからに隠キャなんだから、暗い顔してたら、ただのアブないオジサンですよ〜お? ヤバ〜いっ♡」
「……悪かったね、冴えない顔で。というか、イケメンがご所望なら、こんな中年のオジサンなんかに構ってないで、リュウセイくんたちのとこに行けばいいじゃないか」
「ぶぶーっ! リューくんはまだ、サッカー部で、部活中でーすっ! だからしょーがなく、みんなが来るまで、センセの相手をしてあげてるんじゃないですかーっ? うぷぷ、察しがわるーいっ♡」
「……ああ。そういえば、そうだったね」
そうなのだ。
どうやら、キララちゃんたちが通う中学校は。
学校側から、生徒たちの部活所属が。
義務付けられているらしく。
自分たちで同好会を立ち上げて、部活動への昇格を目指して活動しているリュウセイくんたちも、その例外ではない。
少なくとも、同好会としての活動が。
学校側に、認められて。
部活動としての、正式な認可が降りるまでは。
ヲタク堂に通う常連の幼馴染ーズたちも、何らかの部活に、所属する必要があるわけで。
とくに、リュウセイくんなどは。
容姿に恵まれているだけでなく。
身体能力も、かなり優れているようで。
現在所属しているサッカー部においては、なんと。
主力として、活躍しているとのことだった。
そんなリュウセイくんが、ヲタク堂に顔を出すのは……キララちゃんの顔合わせなどといった特別な用事がない限りは……基本的に、部活動が終わってからとなるで。
おおよそ19時頃から始まる、この週末大会には。
受付に間に合わないことも、しばしばある。
また、家庭科部に所属しているというジュリアちゃんも、そちらとの人付き合いや、幼馴染たち以外の友人たちとの交友があるために、ヲタク堂に毎日顔を出すことはない。
本当に連日、この店を訪れているのは……
「……アンタップ、アップキープ、ドローカード」
仲良し幼馴染ーズのなかでは、ただひとり。
部活では完全な幽霊部員を決め込んでいるという、ヒカルくんだけだった。
「……ぼ、僕の、第一メンフェイズ」
そして本日も、当然のように。
放課後になると、すぐに来店してきた黒髪の少年は。
いつものように、少し声音を吃らせながら。
淡々と。
お店の常連たちと、デッキを回している。
「まったく、センセってばもう、物忘れが多くなってきてるんですか〜? 哀れですね〜っ♡ 記憶力がざーこ、ざーこっ♡」
「……」
そうした、同じ学校に通う同級生に。
あえて、視線を向けないメスガキ中学生もまた。
学校の部活には、籍を置いているだけで。
今週の頭から、今日に至るまでの間。
ヲタク堂に、皆勤賞である。
そんな彼女に付き合う形で、僕の練習時間が、ガリガリと削られてしまっているのだ。
(……でもまあ、キララちゃんはまだ転校してきたばかりだっていうから、それこそ人間関係が出来あがっちゃってる部活動には、今更に、飛び込み辛いんだろうねえ)
それに、請われたからとはいえ。
最初に、MTGを指南した身としては。
それ以降は関係ないと、一度繋がった人間関係を、自分勝手に割り切ることは。
難しいわけで。
(……はあ。ま、乗り掛かった船だ。仕方ないか)
本当は、今日こそ。
時間まで、常連さんたちと。
デッキを回したかったんだけど。
「じゃあキララちゃん。みんなが来るまで、僕と対戦、する?」
結局、これまでのように。
口先ほどに、強気ではない。
寂しさが滲むメスガキの圧力に、あえなく、屈してしまうのだった。
「えー、またですかーあ♡」
途端に、パッチリとしたお目目が。
名前の通り、キラキラと輝く。
「もうっ、センセったら、ちょっとキララのこと、好き過ぎませーん? もしかして、ロリコンさんですかーあ? きゃー、あぶなーいっ♡」
「じゃあやめとく?」
「うそうそ♡ しっかたないなー♡ またキララがスリヴァリンちゃんで、ボッコボコにしてあげますよーっ♡」
望まずも、習得してしまった。
僕のメスガキ翻訳機によると。
わかりにくいがこれは「ありがとう、構ってくれて♡」という意なので、遊戯空間の空いている長机を探して、着席する。
「あ、待って待って♡」
すると、いそいそ。
あまり広くない、長机の隙間を縫うようにして。
キララちゃんは、ちょこまか。
着席する客たちの背中を、避けながら移動。
軽い香水でも、つけているのか。
ストロベリーのような、甘い匂い漂わせながら。
僕の目の前に、着席してくる。
「ほらほら〜♡ 出ておいで、スリヴァリンちゃ〜んっ♡」
そして、ゴソゴソ。
小さなぬいぐるみやら、缶バッジやらで。
賑やかに彩られた、通学用の鞄から。
これまた派手なシールや、百均などに売っているビーズなんかで、ゴテゴテにデコレーションされた。
デッキケースが、机上に姿を現す。
「ふんふんふ〜んっ♡」
楽しそうに、鼻歌を奏でながら。
慣れた手つきで、ケースからデッキを取り出して。
さらにはライフカンターや、使用予定のトークン・カードなどを、準備していくキララちゃんの姿に。
「……ふふっ」
思わず、口元を緩めてしまった。
「……?」
「あ、いやずいぶんと、そのデッキを気に入ってくれたみたいだね、って。最初はスリヴァリンのイラスト、気持ち悪がってたじゃない?」
それが今では、トークン・カードのスリヴァリンさえ。
スリーブ越しに、シールで可愛くデコられているんだぜ?
信じられるかい?
「えー? そうでしたっけーえ?」
白々しく、すっとぼけるキララちゃん。
しかし手元のデッキに注ぐ、視線からは。
柔らかな、温かみが感じられた。
「まあでもキララは、こう見えて、小学校で飼育係をしていたこともありますし〜? ペットは大事にする人なんで〜、子の子たちのことも、ちゃんと可愛がってあげますよ〜っ♡」
ねーっ、と。
首を傾げながら、八重歯を覗かせて。
手にするスリヴァリンカードに、微笑みかける、メスガキ中学生。
(……はあ。だからこの子を、嫌いになれないんだよねえ)
異形生物に優しい女子中学生とか、卑怯だろ。
てえてえよお。
気づいたときには、心臓を貫かれている。
――烈心スリヴァリン――




