表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

【11】 週末大会①

〈カケル視点〉


「悪いですけどキララ、やるなら、ガチの人なんで! だからセンセもバトるときは、手加減とか期待しないでくださいねっ♡」


「いや、それ……MTG初めて一週間未満の人間が、吐くセリフじゃないからね? っていうかそんな初心者が、よく週末大会フライデーに出ようだなんて、思えるよね? キララちゃん、心臓強過ぎない?」


「えへへっ♡ キララは実戦で、伸びるタイプなのでーっ♡」


「う〜ん……蛮勇も、ここまでくれば、いっそ立派なのか……?」


「えー、何それー♡ センセ、褒めるんならちゃんと、褒めてくださいよーっ♡」


「いや、褒めてないから」


 と、いうわけで。

 

 さてさて。


 今週もやってきました、週末の金曜日。


 僕のような対人経験を積みたいカードゲーマには、欠かせないイベント。


 週末大会フライデーの時間である。


 実際に、身体を動かすスポーツなんかでも、よく聴く話だけど。


 やっぱり、練習と試合は。


 別物だからね。


 身内での馴れ合いが許される、遊戯ゲームとは違って。


 やり直しが許されない、一発勝負バトルというものは。


 精神的な負荷が、桁違いで。


 いつもなら、無意識にできていたことさえ。


 満足に、できなくなるものだ。


 その症状を、経験という名の良薬で。


 少しでも、耐性付けできるのならば。


 可能な限り蓄積を、欠かすわけにはいかない。


 それに、この週末大会は。


 二週間後に予定されている大規模なMTG公式大会の、縮図とも呼べる、ものでもある。


 なにせ、参加者たちが『楽しむ』のではなく『勝つ』ことを目的とした、場においては。


 持ち込める品質レベルのデッキが。


 自然と、絞られて。


 やがて、限定された構築環境ブロックという、選択肢カードプールのなかから。


 安定して勝率を叩き出せる、環境トップデッキが生み出されると。


 今度はそれらを見越した対策メタデッキが、作られていく。


 そして実力者たちが集う、大規模な大会とは。


 基本的に、この環境トップ対策メタの、睨み合いであり。


 そのどちらを、選択するにせよ。


 重要なのは、情報の事前収集リサーチであることに、疑いの余地はない。


(ううん……やっぱり今日も、補充デッキと否認デッキが、多そうだなあ)


 ときどき、それらに対して適正のある隠者デッキや。


 コンボが決まれば問答無用で勝てる、取引デッキや再誕デッキ。


 あくまで自分の手に馴染む、火力デッキや速攻デッキなんかを調整チューンしている人も、見受けられはするのだが。


 やはり、今回も。


 常連客で賑わう遊戯空間フリースペースの情報を、読み解く限りでは。


 現在の流行デッキは、先週から引き続いて。


 変化ないようである。


(ん〜……今週はあんまり、練習時間がとれなかったのが、悔やまれるなあ……)


 当然ながら。


 月末の大会に出場する予定の、僕自身も。


 そろそろ本格的に、持ち込むデッキを決めて。


 調整に取り掛かからなければ、いけない時期だというのに……


(……とりあえず今日は、前に使っていた対立デッキを持ち込んでみたけど、最新バージョンに調整チューンできていないこれで、いったいどこまで、やれるものやら……)


 現時点で、未だに僕は。


 大会で使用するデッキを、決めあぐねていた。


 今回の週末大会に持ち込んだ、この対立デッキも。


 肌感では、環境トップデッキや対策メタデッキに対して。


 分が悪いとまでは、思わないのだけれど。


 やはり、最大勢力のそれらは。


 大勢の人たちが、デッキをぶん回して。


 研究して。


 研磨されて。


 研鑽され尽くしているために。


 デッキレシピの完成度が、非常に高い。


 3試合の2試合先取制となるMTGの公式試合において、初戦以降の2試合目と3試合目の開始前に、任意でメインデッキと入れ替えが認められている最大15枚の対策予備札サイドボードまでをも視野に入れると、この磨き上げられた玉石に、中途半端に磨いた宝石が、太刀打ちできるとは思えなかった。


(……やっぱりもう少し、デッキ研究の時間が、欲しかったなあ)


 戦場に満ちる、熱気を感じて。


 今更ながらに。


 後悔を抱いてしまう、僕であるが。


「セーンセ? なに難しい顔、してるんですか〜あ?」


 その『原因』である、メスガキ様が。


 こちらの胸中など、知る由もなく。


 小生意気な、八重歯を覗かせて。


 ニヤニヤと、話しかけてくる。


「センセって、見るからに隠キャなんだから、暗い顔してたら、ただのアブないオジサンですよ〜お? ヤバ〜いっ♡」


「……悪かったね、冴えない顔で。というか、イケメンがご所望なら、こんな中年のオジサンなんかに構ってないで、リュウセイくんたちのとこに行けばいいじゃないか」


「ぶぶーっ! リューくんはまだ、サッカー部で、部活中でーすっ! だからしょーがなく、みんなが来るまで、センセの相手をしてあげてるんじゃないですかーっ? うぷぷ、察しがわるーいっ♡」


「……ああ。そういえば、そうだったね」


 そうなのだ。


 どうやら、キララちゃんたちが通う中学校は。


 学校側から、生徒たちの部活所属が。


 義務付けられているらしく。


 自分たちで同好会サークルを立ち上げて、部活動への昇格を目指して活動しているリュウセイくんたちも、その例外ではない。


 少なくとも、同好会としての活動が。


 学校側に、認められて。


 部活動としての、正式な認可が降りるまでは。


 ヲタク堂に通う常連の幼馴染ーズたちも、何らかの部活に、所属する必要があるわけで。


 とくに、リュウセイくんなどは。


 容姿に恵まれているだけでなく。


 身体能力も、かなり優れているようで。


 現在所属しているサッカー部においては、なんと。


 主力として、活躍しているとのことだった。


 そんなリュウセイくんが、ヲタク堂に顔を出すのは……キララちゃんの顔合わせなどといった特別な用事がない限りは……基本的に、部活動が終わってからとなるで。


 おおよそ19時頃から始まる、この週末大会には。


 受付に間に合わないことも、しばしばある。


 また、家庭科部に所属しているというジュリアちゃんも、そちらとの人付き合いや、幼馴染たち以外の友人たちとの交友があるために、ヲタク堂に毎日顔を出すことはない。


 本当に連日、この店を訪れているのは……


「……アンタップ、アップキープ、ドローカード」


 仲良し幼馴染ーズのなかでは、ただひとり。


 部活では完全な幽霊部員を決め込んでいるという、ヒカルくんだけだった。


「……ぼ、僕の、第一メンフェイズ」


 そして本日も、当然のように。


 放課後になると、すぐに来店してきた黒髪の少年は。


 いつものように、少し声音をどもらせながら。


 淡々と。


 お店の常連たちと、デッキを回している。


「まったく、センセってばもう、物忘れが多くなってきてるんですか〜? 哀れですね〜っ♡ 記憶力がざーこ、ざーこっ♡」


「……」


 そうした、同じ学校に通う同級生に。


 あえて、視線を向けないメスガキ中学生もまた。


 学校の部活には、籍を置いているだけで。

 

 今週の頭から、今日に至るまでの間。


 ヲタク堂に、皆勤賞である。

 

 そんな彼女に付き合う形で、僕の練習時間が、ガリガリと削られてしまっているのだ。


(……でもまあ、キララちゃんはまだ転校してきたばかりだっていうから、それこそ人間関係が出来あがっちゃってる部活動には、今更に、飛び込み辛いんだろうねえ)


 それに、請われたからとはいえ。


 最初に、MTGを指南した身としては。


 それ以降は関係ないと、一度繋がった人間関係を、自分勝手に割り切ることは。


 難しいわけで。


(……はあ。ま、乗り掛かった船だ。仕方ないか)


 本当は、今日こそ。


 時間まで、常連さんたちと。


 デッキを回したかったんだけど。


「じゃあキララちゃん。みんなが来るまで、僕と対戦、する?」


 結局、これまでのように。


 口先ほどに、強気ではない。


 寂しさが滲むメスガキの圧力に、あえなく、屈してしまうのだった。


「えー、またですかーあ♡」


 途端に、パッチリとしたお目目が。


 名前の通り、キラキラと輝く。

 

「もうっ、センセったら、ちょっとキララのこと、好き過ぎませーん? もしかして、ロリコンさんですかーあ? きゃー、あぶなーいっ♡」


「じゃあやめとく?」


「うそうそ♡ しっかたないなー♡ またキララがスリヴァリンちゃんで、ボッコボコにしてあげますよーっ♡」


 望まずも、習得インストールしてしまった。


 僕のメスガキ翻訳機ンガルによると。


 わかりにくいがこれは「ありがとう、構ってくれて♡」という意なので、遊戯空間フリースペースの空いている長机を探して、着席する。


「あ、待って待って♡」

 

 すると、いそいそ。


 あまり広くない、長机の隙間を縫うようにして。


 キララちゃんは、ちょこまか。

 

 着席する客たちの背中を、避けながら移動。


 軽い香水でも、つけているのか。


 ストロベリーのような、甘い匂い漂わせながら。


 僕の目の前に、着席してくる。


「ほらほら〜♡ 出ておいで、スリヴァリンちゃ〜んっ♡」


 そして、ゴソゴソ。


 小さなぬいぐるみやら、缶バッジやらで。


 賑やかに彩られた、通学用の鞄から。


 これまた派手なシールや、百均などに売っているビーズなんかで、ゴテゴテにデコレーションされた。


 デッキケースが、机上に姿を現す。


「ふんふんふ〜んっ♡」


 楽しそうに、鼻歌を奏でながら。


 慣れた手つきで、ケースからデッキを取り出して。


 さらにはライフカンターや、使用予定のトークン・カードなどを、準備していくキララちゃんの姿に。


「……ふふっ」


 思わず、口元を緩めてしまった。


「……?」


「あ、いやずいぶんと、そのデッキを気に入ってくれたみたいだね、って。最初はスリヴァリンのイラスト、気持ち悪がってたじゃない?」


 それが今では、トークン・カードのスリヴァリンさえ。


 スリーブ越しに、シールで可愛くデコられているんだぜ?


 信じられるかい?


「えー? そうでしたっけーえ?」


 白々しく、すっとぼけるキララちゃん。


 しかし手元のデッキに注ぐ、視線からは。


 柔らかな、温かみが感じられた。

 

「まあでもキララは、こう見えて、小学校で飼育係をしていたこともありますし〜? ペットは大事にする人なんで〜、子の子たちのことも、ちゃんと可愛がってあげますよ〜っ♡」

 

 ねーっ、と。


 首を傾げながら、八重歯を覗かせて。


 手にするスリヴァリンカードに、微笑みかける、メスガキ中学生。


(……はあ。だからこの子を、嫌いになれないんだよねえ)


 異形生物スリヴァリンに優しい女子中学生とか、卑怯だろ。


 てえてえよお。


 気づいたときには、心臓を貫かれている。


 ――烈心スリヴァリン――

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ