【09】 ミラーマッチ②
〈カケル視点〉
ゲーム第4ターン目の、先手である。
「あはは、参ったな」
メッシュが混じったツインテールのメスガキ……キララちゃんからの挑発に。
僕は内心で……ビキビキ、と。
青筋を立てつつも。
「じゃあキララちゃん、このターンは、これでエンドかな?」
偽物笑顔で、心情を覆い隠して。
穏やかな声音で、確認する。
「んもお〜っ、しっかたないなあ〜♡ これくらいで、許してあげますよ〜♡」
なんとも有頂天な、メスガキ様である。
っていうか。
許すも何も、このターン。
もう土地を、配置したうえで。
景気良く、全消費までしているのだ。
これ以上のプレイができないことくらい、デッキ制作者である僕は、お見通しなんだよ。
「……それじゃ、キララちゃんのターンエンド前に」
なので、容赦なく。
その隙を突かせてもらおうか。
「土地3枚のうち、2マナを使って、手札から【宝革スリヴァリン】を召喚するね」
「ん?」
キョトン、と。
目を丸くするキララちゃんの、眼前に。
すでに戦場にいる【活性スリヴァリン】の〈瞬速〉を、共有することで。
乱入してきた、スリヴァリンは……
【宝革スリヴァリン 〈緑〉①
レア度……コモン
カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』
1/1
すべてのスリヴァリンは「〈→〉;あなたは望む色のマナ1点を獲得する」を持つ】
……という、マナ加速クリーチャーだ。
さらに。
「その次に、残る土地の1マナと、戦場の【活性】をタップすることで得た1マナで、この【烈心スリヴァリン】を召喚」
続いて戦場に投入したのは……
【烈心スリヴァリン 〈赤〉①
レア度……アンコモン
カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』
1/1
すべてのスリヴァリンは「速攻」を獲得する】
……というもの。
ぶっちゃけ、すでにキララちゃんの戦場にいる【火跡スリヴァリン】と役割が被ってるけれど、まあ、仮にあれがいなくても僕の戦術プランに変更がなかったことを、理解してもらえればありがたい。
「そして戦場に出たばかりの【宝革】と【烈心】をタップして、さらに【針刺スリヴァリン】を召喚するよ」
「え? え? ええっ!?」
怒涛の展開に、目を白黒させる。
キララちゃんの目の前に。
投入された。
新たなクリーチャーは……
【針刺スリヴァリン 〈赤〉〈緑〉
レア度……コモン
カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』
2/2
すべてのスリヴァリンは「これがブロックされるたび、ブロックに参加しているクリーチャー1体につきターン終了時まで+1/+1の修正を受ける」を持つ】
……という。
2マナ域のスリヴァリンにしては珍しい、2/2という、パワフルな生体骨格を持ちながら。
その本領は、互いに補強修正がかかるスリヴァリン同士の殴り合いにおいて、攻撃側が防御側に対して圧倒的に優位になるという、対策カードでもあった。
「え!? なんでそんな急に、クリーチャーが増えるんですか!? なんかセンセ、ズルしてません!?」
「ズルしてないズルしてない。ね、ジュリアちゃん?」
「そーだな。べつにオニーサンは、ズルなんかしてねえよ。あの【宝革スリヴァリン】ってやつと〈速攻〉のせいだ」
「で、でもでもおっ!」
「それにスリヴァリンの能力なら、お前も使えるんだから、ズルいって言うんなら次のターンにでも、キッチリやり返してやればいいじゃねえか」
「う、うん……」
大人気ない、大量の奇襲召喚に。
ちょっと、納得いかない感じではあるものの。
自分で確認してみても、ルールに矛盾がないことを理解した様子の、キララちゃんは。
渋々ながらも、現状を。
受け入れてくれた様子である。
「じゃ、僕の対応はここまでだけど、改めて、ターンエンドでいいかい? キララちゃん」
「ええー……このあと、すぐにセンセのターンとか、やっぱりズルくないですかー?」
「ズルくないズルくない」
狡猾だと、言ってくれたまえ。
「ぶー……ターン、エンドお……」
見る間に曇った、メスガキの表情に。
ゾクゾクとした背徳感を、覚えつつ。
「じゃあ僕のターン。アンタップ、アップキープ、ドローカードっと」
ここで、うっかりミスをしないように、気を引き締めながら。
勝負を左右する、第4ターン目。
このゲームの『詰み』に入る。
「まずはセットランド。からの、土地4枚と【活性】をタップした1マナでの計5マナで、【繁殖スリヴァリン】を召喚するね」
「うえええーっ! また、新しいクリーチャーですかー!?」
「うふふ。しかも、今度はちょっと大きいよ?」
邪悪な笑みを、浮かべながら。
うんざりした表情を浮かべるキララちゃんを、前にして。
嬉々として、召喚するのは。
以下のカード。
【繁殖スリヴァリン 〈緑〉④
レア度……レア
カードタイプ……召喚生物『スリヴァリン』
3/3
すべてのスリヴァリンは「これが戦闘ダメージを与えるたび、あなたは無色の1/1スリヴァリン・トークンを生成しても良い権利」を獲得する】
全体的に、安価なカードで構成された。
この再利用デッキにおいて。
密かな隠し味として、たった一枚だけ紛れ込ませた、安値のレアカードである。
しかし、市場ではほとんど評価されていない、ゴミレア扱いのカードとはいえ。
状況と条件さえ、整えば。
ゲームを決める、切り札となり得ることを。
今ここに、証明して見せよう。
「じゃあ僕の第一メインフェイズを終えて、戦闘フェイズに突入」
基本的に、MTGにおける遊戯者の手番とは、アンタップ、アップキープ、ドローカードと、その後に続くメインフェイズで、構成されている。
そしてメインフェイズとは、プレイヤーの任意により、1ターンに一度きりの戦闘フェイズを挟むことによって、その前後の第一と第二のメインフェイズに分割されるのだ。
そのためプレイヤーが、前回の僕のように。
戦闘フェイズを選択しなければ、メインフェイズはそれだけで終了。
逆に、今回のように戦闘を選択すれば。
メインフェイズは第一メインフェイズ、戦闘フェイズ、第二メインフェイズに分割される。
そして現状では〈瞬速〉という能力が前提を覆しているが、本来であれば、クリーチャーを含めた召喚呪文や、詠唱呪文は、この戦闘フェイズ中には唱えることができない。
イメージとしては、クリーチャーの高速戦闘に。
召喚や詠唱といった、ノロマな動作が。
追い付いていかない感じかな?
ここに割り込めるのは、同じ速度で処理される瞬間呪文や、クリーチャーなどが有する様々な能力くらいなもの。
まあ、要するに。
何が言いたいのかというと……
(……うん、うん、うん。おっけ、問題ない。イケるはず)
戦闘フェイズ中は、選択肢が限られるから。
攻防の選択は慎重にね、ということ。
そのうえで。
「全員攻撃。【活性】と【烈心】と【針刺】の【繁殖】の4体で、攻撃だ」
「うええええっ! センセの鬼! 悪魔! ドSヤロウっ!」
ふははは。
メスガキの罵倒が、心地よいわ。
「で、どうする? キララちゃん、ブロックの有無は?」
「ぐぬぬぬ……」
可愛らしい外見の、ギャルらしからぬ。
苦悶を漏らす、キララちゃんの戦場には。
先ほど攻撃に参加しなかった【筋力スリヴァリン】と【火跡スリヴァリン】が、居座っている。
また、ここでも。
追加の注意点なのだけど。
対戦型のカードゲームでは、攻撃した自軍のモンスターが、敵陣のモンスターと戦闘する場合。
その攻撃対象を『どちらのプレイヤーが選べるのか』が。
非常に重要な、戦術的要素となってくる。
そしてMTGにおいては『アタックしているクリーチャー』が『どのクリーチャーにブロックされるのか』は、防御側クリーチャーの所有者に、選択権があるのだ。
だから僕が『アレとアレに、コレとコレでアタック!』みたいな、指示は出せずに。
キララちゃんの『アレとアレを、コレとコレでブロック!』という判断を、待たなければならない。
そのうえで、現状。
僕のコントロールするスリヴァリンたちは、本来であれば1/1が2体と、2/2と3/3が、1体ずつなのだが。
皮肉にも、キララちゃん側に居座る。
スリヴァリンたちの強化能力によって。
それぞれが4/2と5/3と6/4にまで、膨れ上がっている。
仮に全ての攻撃が通れば、そのパワーの合計値は19点。
初期のライフ値は20点なのだから。
たった一撃で、瀕死状態だ。
そのうえ【繁殖スリヴァリン】の能力によって、戦場に、4体の擬似生物がばら撒かれるというオマケつき。
さらにこの『擬似生物』というものは。
カードの呪文や能力によって生成された、本物のカードではない、擬似的な召喚生物であり。
それらはプレイヤーが予め用意していた、賽子や置物、拡張パックなどに封入されているトークン・カードなどで代替されるものでは、あるものの。
ルール上では、ちゃんとした。
召喚生物として、処理されるため。
当然ながら、戦場に並ぶスリヴァリンたちの強化を、すべて共有することになる。
そのため、無料で獲得したトークンたちは。
各々が自動的に、1/1が4/2にまで、膨れ上がるため。
次のターンに、キララちゃんが。
返す刀で反撃を見舞おうとしても、立派な盾役として、機能してくれちゃうのだ。
結論。
今回の攻撃を通すのは、とにかくマズい。
それくらいは初心者のキララちゃんだって、理解できている。
「むっ……むむうっ!」
とはいえ、ここで手駒を減らすことは。
ここまでに僕がみせた『スリヴァリンをマナ加速に用いる』計画を、損なうことになるので。
おそらくは、戦場のスリヴァリンの数と、手札から。
次のターンでとれるプレイングの皮算用を弾いていたキララちゃんは、それを逃してしまうことに、ものすごく未練を抱いているようだった。
わかるわかる。
人って、やられたら。
やり返したくなる、生き物だからね。
「じゃあ……こっちの【火跡】で、そっちの【繁殖】を、ブロックしますう」
打算と期待。
皮算用と現実。
一矢報いたい気持ちと。
差し迫った、目の前の窮地。
そうした葛藤を、天秤にかけた末に。
キララちゃんが選んだ解答は。
(ん〜……残念だけど、それは悪手だよ)
底意地の悪さが、強さに直結すると言っても過言ではない、カードゲームにおいては。
最悪に近い、選択であった。
スリヴァリンどもは一月と経たずに、山ひとつの生物を喰らい尽くして、それを上回る数の群れを生み出していきました。
……観察者からの報告
――繁殖スリヴァリン――




