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第05話:酸味の魔法、クエン酸の覚醒

試作第一号の成功から数日。私のグミ作りは、新たな壁にぶつかっていた。

宿の自室で、私は自作のグミを何粒も口に放り込んでは、眉を寄せる。


「……飽きる。圧倒的に、飽きるわ!」


「贅沢すぎませんか、お嬢様。あんなに美味いって感動してたのに」


傍らで余ったグミを幸せそうに咀嚼していたロランが、不思議そうにこちらを見た。

私は机をバンと叩いて立ち上がる。


「ロラン、あなたにはわからないのよ。グミの本質は『中毒性』にあるわ。今のままでは、ただの『甘くて硬いゼリー』止まり。何粒でも食べたくなる、あの突き抜けるような刺激が足りないの!」


(甘みは満足感を与えるけれど、それだけだと口の中がダレてしまう。必要なのは、脳をシャキッとさせる鋭い刺激――そう、酸味よ!)


私は記憶を辿る。前世のグミには必ずと言っていいほど、クエン酸やリンゴ酸といった酸味料が含まれていた。

それが甘みを引き立て、次の一粒へと手を伸ばさせるのだ。


「ロラン、準備なさい。この近辺で一番『酸っぱくて誰も食べない果実』を探しに行くわよ」


「酸っぱい果実ですか? それなら、西の森の奥に『雷レモン』っていう、一口齧れば気絶するほど酸っぱい実がなってますけど……。村じゃ誰も見向きもしませんよ」


「それよ! それこそが私の求めていたクエン酸の宝庫だわ!」


私たちはさっそく西の森へと向かった。

見つけたのは、パチパチと静電気を帯びたような黄色い実。私はそれを躊躇なく絞り、抽出した果汁を魔法で濃縮した。

立ち上る香りを嗅ぐだけで、口の奥がキュッとなる。


(これよ。クエン酸には、甘みの輪郭をはっきりさせる『対比効果』がある。それだけじゃない。強い酸味は唾液の分泌を爆発的に促すの。唾液が出れば口の中がリフレッシュされ、消化も助ける。つまり、無限に食べ続けられるループが完成するわけ!)


宿に戻り、私はさっそく実験を開始した。

ベリーの甘いシロップに、この雷レモンの濃縮汁を滴下する。

さらに、一部のグミには外側に「酸っぱいパウダー」をまぶす工夫も凝らした。


「よし、完成。ロラン、食べてみて」


「……今度は黄色い粉が吹いてますね。なんだか嫌な予感がします」


ロランが勇気を出して、パウダー付きのグミを口に入れる。

直後。


「――ぶふぉっ!? すっ、酸っぱあああああいい!!」


ロランが顔を梅干しのように窄めて悶絶する。

しかし、五秒後。彼の表情が劇的に変化した。


「……あれ? 酸っぱいのが引いた後に、ベリーの甘さがさっきより十倍くらい強く感じる。それに、なんだか急にお腹が空いてきたというか、もう一個食べたい……というか、止まらない!」


彼は吸い寄せられるように、次の一粒を口に放り込んだ。

噛むたびに溢れる酸味と甘みのコンボ。唾液が溢れ、脳が「もっとだ」と命令しているのが見て取れる。


「これが『酸味の覚醒』よ。甘みと酸味の黄金比。クエン酸が味のバランスを整え、食欲を増進させる。ロラン、あなたの手、止まってないわよ?」


「くそっ……。なんて恐ろしいものを作ってくれたんだ。顎は疲れるのに、脳が喜んでやがる!」


(ふふん、成功ね。酸味は保存性を高める助けにもなるし、疲労回復の効果もある。これで私のグミは、ただの嗜好品から『食べ始めたら止まらない魔性の食品』へと進化したわ)


私は自分でも一粒、酸っぱいグミを口に含む。

突き抜ける酸味の後にやってくる、濃厚な甘みと、あの強靭な弾力。

完璧だ。これなら、舌の肥えた貴族たちですら依存症にできる。


「ロラン、次のステップへ行くわよ。このグミを単なるお菓子で終わらせるつもりはないわ。もっと世界に役立つ『機能』を持たせるの」


「機能? お菓子にそんなもの必要なんですか?」


「甘いわね。グミはね、形を変幻自在に変えられる魔法の器なのよ。……さて、次は魔物のコラーゲンの『真の力』を引き出してみようかしら」


私は、雷レモンでリフレッシュされた脳をフル回転させ、次なる試行錯誤の計画を練り始めた。

悪役令嬢の野望は、甘酸っぱい香りと共に、さらに加速していく。

お読みいただき、ありがとうございました。

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