第1話 最強戦隊、誕生2
「おばさん、伏せろ!」
諦めかけた恵味の心を叩き起こす様な言葉に、恵味は疑う事無く従った。
何の痛みも無かった。あれ、もしかして私死んだのかな?
恐る恐る目を開ける。
恵味の前に、恵味を守る様に一人の少女が立っていた。身長は170㎝弱、体重は60㎏台後半といったところか。髪はショートカットでまとまっていた筈が、今はぼさぼさだ。顔は後ろ姿なので、恵味からはわからなかった。服装については元々はセーラー服だったのだろうが、既にぼろぼろであった。何十ヶ所か切り裂かれ、ところどころから浅黒い肌が見えている。コンクリートの粉が全体にまとわりついた上に、あいつの体液によるものか緑色の染みと、人間の血による赤黒い染みが大きく広がり、迷彩服を着ているようだった。スカートの下から伸びる足にも裂傷数ヶ所、内出血数ヶ所という感じで、恵味から見ると、立っているのが不思議だと思われた。それでも少女は、あいつからの攻撃から恵味を守るべく構えていた。
「ちょっとあなた、大丈夫なの?」
「ありがと、おばさん。大丈夫。あたしはまだ戦える!!」
恵味は唖然とした。この少女は何を考えているのだろうか?戦える、戦えない、じゃない。あなたの状態は、病院で寝ていなくちゃいけないのよ。それに私の事をおばさんなんて・・・。
触手が少女を襲う。刺殺する為の直線的な動きの触手を、半身になってかわし、両手で掴んだ。掴んだ両拳の間に頭を入れて、触手を噛み千切った。
少女は口の中の触手の残骸を吐き出しながら、恵味に声をかけた。
「マズ・・・おばさん、足手まといだから逃げてくれないかな」
「あなた、それ気持ち悪くないの?」
「まあ、確かに気持ち悪いけど。そうしないと勝てないじゃん」
少女は手にしていた触手の先端を振り回しながら、ゆっくりと昆虫型生物に近づいていく。
殺そうと何本もの触手を伸ばして来たが、少女は手にした触手を振り回して全てを弾いていった。
そして近づきながらも、少しずつ角度を変えて、敵の進行方向の前に立った。
うまい。触手の死角に入った。・・・でも、どうやって攻撃するのかしら?
少女は触手を槍投げの要領で投げると、昆虫型生物に向かって走り出していた。
彼女の投げた触手は、2本の触覚の根元の中間、人間での眉間の部分に突き刺さった。
昆虫型生物の動きが鈍くなる。
突進し、何発か殴った後、両腕でひっくり返そうとしていた。
あいつも六本の足で踏ん張っていた。
凄い。よくあんな気持ち悪いものと素手で格闘できるものね・・・。
恵味の警戒心が薄れた隙を狙って、触手が明確な殺意を持って近づいて来た。
しまった。あの娘の言う通り、逃げてなくちゃならなかったのに・・・。
またも目を閉じてしまった。
今回も痛みはなかった。目を開けると、恵味の眼前数センチのところで触手は停止していた。絶命しているのか六本の足も、おぞましい触手も静止していた。
「だから言っただろ、早く逃げろ、と」
少女は明るい口調で言った。恵味は声のする方向に視線を移す。
そこでは、あの生物をひっくり返し、頭に刺さった触手を引き抜き、腹に再び突き刺していた。
「じゃあな、おばさん」
少女はその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと、どこへ行くの?」
「まだ、こんなのがうようよいるんだろう?一匹でも多く倒さないと。三匹じゃあ、全然足りない」
「待って、私も手伝うわ」
「二度もあたしに助けられたおばさんに、何が出来って言うんだ?」
「私なら近くにいる人達を避難させられるわ。そうすれば、あなたは戦いに専念出来るでしょ」
恵味の提案を、少女は受け入れた。
「わかった。手伝って、ください」
「私は大城恵味、宜しくね。それから、おばさんはやめてちょうだい。私はまだ33歳なんだから」
「私はマイ、巽磨意」
少女の顔は黒く汚れていたが、笑顔の際に見せる白い歯が印象的だった。
道脇小百合は途方に暮れていた。
目の前にズラリと並ぶ化粧品の中で、自分にとって何が似合うのか、とんとわからない。
新学期まで後数日、コスメくらいそこそこわかっていないと、会話の輪の中に入る事さえ出来ない。
今年もぼっち、とかはイヤだな。
でもここでは到底選べない。そもそも種類が多過ぎる。
ダメだ、帰ろう。
帰り道にドラッグストアで適当にみつくろって・・・。
そんなことを考えながら、地下街を歩いていた時、轟音が鳴り響いた。
照明が全て消え、天井が崩壊した。
落下するコンクリートが幾つも当たり、倒れてくる鉄骨に倒され身動きが取れなくなり、パニックに陥った人間に何度も踏まれる内に、道脇小百合は気を失っていた。
・・・
・・・
上から落ちてくる水滴により、小百合は目を覚ました。
ここは何処?ああ、渋谷だったところね。
一体何が起きたの?まさか妖魔の仕業なの?だったら何故気付けなかったの?
第一、妖魔が昼間に現れる事なんて無かったけど。
それよりもまずはここから脱出しなくちゃ。
暗闇の中、小百合は身体に異常がないか確認する。右腕、左腕、痛みもないし、動かせる。うん、大丈夫。左足も異常なし。だけど右足はダメね。何かに挟まって動かせない。骨折はしてないみたいだけど。
パーカーのポケットからケータイを探り出し、ライトをつける。ケータイのライトではどの程度の空間になっているのかはわからないが、少なくとも上半身は起こせそうだ。
どうやら生き埋めにはなっていないようね。
小百合は上半身を起こして、右足の状況を確認した。鉄骨とコンクリートに挟まっている。小百合の非力な腕力で排除する事は不可能に思われた。
このまま救助を待っていた方がいいのかしら。とても救助が来るとは思えないけど。
もしこれが妖魔の仕業だったら?まだ外に妖魔がいるとしたら?私には妖魔を倒す使命がある‼
小百合が決意すると、掛けていたペンダントが浮遊し、顔の前で止まる。
ペンダントから金色の光が照射され、道脇小百合の全身を包み込む。
「マジカルフォーメーションチェンジ!」
掛け声と共に、小百合はパーカーにパンツ姿の高校生から、魔法少女に変身するのだった。
小百合がステッキを振ると、倒れていた鉄骨が浮き上がり、右足を引き出すことができた。
やっとの事で立ち上がり、周囲を見回す。そこは生存者のいない死の世界の様に思われた。
ステッキに祈りを込めると、全身が淡い薄桃色に発光し、背中に生えた翼が巨大化する。
小百合は飛行モードで、崩壊した地下街を出口を探して飛んだ。途中何度か、崩壊した鉄骨やコンクリートの下敷きとなった死体を見かけた。その度に小百合は自分を責めた。
ごめんなさい。私が妖魔に出現に気付かなかったばかりに・・・。
小百合は何とか脱出路を見つけ、地上に降り立った。
これが・・・渋谷なの。
辺り一面瓦礫の山。銀色の巨大構造物が異彩を放っていた。
小百合の視界には何体かの巨大昆虫型生物が見える。それらが生きている人間を殺戮していた。
その光景を目の当たりにして、小百合は怒った。
あの妖魔は私が倒す。
罪も無い人達を理不尽に殺すなんて、私は許さない。
妖魔との闘い方については、この一年間の実践経験で熟知している。バリアを展開して敵の懐に入って、バリアを解除。ステッキから照射される光線を至近距離で浴びせる事で倒していた。
今回も同じ戦法が採用される。小百合はバリアを展開して昆虫型生物に近づいた。何回となく触手による攻撃を受けたが、全てをバリアで弾いて前に進む。2本の触覚とバリアが触れていたが、意に介さず更に進んだ。未知の生物の胴体との距離が僅か50センチまで近づいたところで、バリアを解除した。間髪入れずステッキからピンク色の光線が照射される。この一年間、何十体もの妖魔を屠って来た最強の魔法である。光線に包まれた妖魔は消失する・・・筈であった。
嘘でしょ・・・
小百合の魔法は相手に何のダメージも与えていなかった。慌ててバリアを展開し、飛行モードで上空に逃げた。
未知の生物もダメージこそ感じなかったものの、小百合の魔法の攻撃力を認めたのか、最優先で彼女を殺す事を定めた様だ。背中にある羽根を広げ、振動させる。
ふわりと巨体が浮き上がると、飛翔した。
そして、6本の足と二十本の触手を体内に収納すると、魔法少女に対峙した。




