第1話 最強戦隊、誕生1
太陽系第三惑星、地球。
銀河系の辺境にあるこの惑星は、多様な生物種が生息する稀有な天体であった。
ただ、生態系の頂点に立つ生物に問題があった。
彼等は同じ種でありながら殺し合い、他の生物種を絶滅に追い込み、あろうことか自分達をも住めない環境にこの天体を変更しようとしていた。
その様子を長期間観察している者がいることを、地球人は知る由もなかった。
四月初旬、東京・渋谷。
昼下がりの青空に、突然、銀色の円盤が現れた。
高高度より無音でゆっくりと降下していく。
高度200mで静止した時、初めて円盤のスケールが判明した。直径200m、全高30m。銀色の円盤の詳細を観察すると、底面も側面も表面は継目も凹凸もなくフラットで鏡面状になっていた。
円盤に変化が表れた。円周部はそのままの高さで、底面の中心部だけが下がっていく。中心部が30m下がり、底面が平面から円錐状に大きく形状を変えた。そして、回転を始めた。
円盤は徐々に回転数を上げている様だが、表面が滑らかで回転軸にブレがなかった為、周速がどれ程まで上がっているのかわからなかった。
円盤が回転を維持したまま、降下を再開した時、渋谷は地獄と化した。
円盤の底に、ビルが接触する。ビルは、円盤の質量・硬度・回転速度に耐え切れず崩壊していく。ビルの瓦礫は円盤の回転により加速して四散する。加速された瓦礫は、歩行者を貫き絶命させる。車両に向かった瓦礫はドライバーを貫き、運転不能になり暴走させ、周囲の車両・建造物に激突し、炎上する。周囲のビルディングには機関銃の様に瓦礫が撃ち込まれ、倒壊していった。
円盤は回転数を落とし、元の平滑な底面に戻りながら、着地した。
円盤の周囲半径1キロは瓦礫の山で、数十ヶ所で火災が起きている。生存者の存在はほぼ絶望的と思われた。
しかし、地獄が終わった訳ではない。更なる地獄の始まりであった。
円盤の側面4ヶ所に、縦2m☓横3mのハッチが現れ、内部から地上へのタラップが掛けられた。
そこから何かが下りてきた。
全長2m、全幅は60㎝程度。小判状の胴体から三対の足が出ている。前方には2本の触覚の様なものが伸びている。全体的な印象は日本語ではG(英語ではC)から始まる昆虫に酷似している。異なる点としては、体側に十数ヶ所の突起がある事、足の先端にブーツの様なものを装着している事、胴体には地面との接触を避ける為なのかプロテクターを装着していた。
それらが1ヶ所から5体降り立ち、四方に散らばり、索敵活動を開始した。触覚を上下左右に動かして、生命活動を維持している者を探し出す。生きているものに対しては、体側部にある突起が伸びて鞭状になり、ある者に対しては先端を鋭利にして刺殺し、またある者に対しては鞭を巻き付け縊り殺していく。それらは殺し損ねた者がいない様に、円盤を中心に同心円状に広がって活動していた。
圧倒的な敵に対峙しても、何とか生存者を避難させようとする者、戦おうとする者、抗う者達がいた。
大城恵味は午前中の納品作業を終えて、昼食を摂るべく渋谷にいた。
席に座り注文後、今後の予定を確認する。
3社回って、会社に戻って、報告を聞いて、決裁して・・・保育所に何時に行けるだろうか?
保育所で4歳の凛と2歳の心が、恵味が迎えに来るのを待っている。だが、家族を抱えているのは従業員も同じ、経営者である自分だけを特別には出来ない、と恵味は考えていた。
その時である。ガラスを突き破って、瓦礫が飛び込んで来た。それは一発で終わりではなく絶え間なく続いている。
これはちょっとまずい事になっているわね。
咄嗟にテーブルの下に避難した恵味は、周囲を見回し、事態の深刻さを感じていた。道路に面している側は、壁と言わず窓と言わず蜂の巣状に穴が開き、レストランの店内にも瓦礫が飛んでいる。
恵味はさらに観察を続ける事により、瓦礫が一方向からしか飛来していない事に気付いた。
こちらからしか飛んで来ないとしたら、避難ルートはこうね。
瓦礫の飛来が落ち着いたところで、恵味はテーブルの下から出て走り始めた。カウンターを飛び越え、厨房を抜け、裏口から屋外に出る。ビルの合間を走り抜け、とある複合ビルの地下駐車場に飛び込んだ。ここの駐車場が一帯では最も深い筈。そこまで、瓦礫が飛んで来るのなら、仕方無いかな。
階段を下りて、駐車場の最下層に到着すると、既に多数の避難者がいた。恵味は空いているスペースを見つけると、ハンカチを敷いて座った。何が起きたのかはわからない。しかしこの惨状を垣間見るだけで公共交通機関の復旧はしばらくは無理であろう。保育所に何時に行けるだろうか?
どのくらいの時間が経過したのか。当初は地下深くの駐車場まで瓦礫の降り注ぐ音が聞こえていたが、落ち着いて来た。だがこれまでに味わった瓦礫の恐怖で誰も動けなかった。早く子供に会いたい。意を決して恵味は外の様子を見に行く事にした。いつの間にか同調者が現れて、彼女の後に続いた。
外に出た恵味は驚愕した。外の様子が一変していた。瓦礫の飛んで来た方向を見ると文字通り瓦礫の山で
奥に巨大な建造物の様なものが見えた。反対側を見ると、瓦礫の山はあるが何棟かのビルがかろうじて倒壊を免れているという状態だった。
どうやら、この大量の瓦礫はあの建物から同心円状に飛んで来ているのね。だったら、あの建物から遠ざかれば安全という事か。
ガサガサ・・・。
何か得体の知れないものが近づいてくる。全長2mの昆虫型の物体。見た目から受ける生理的嫌悪感。体側から伸びた鞭状の触手で、恵味達と同じく地下から様子見に出て来た人達を殺戮していった。
凄惨な殺戮現場に目を背けること無く、恵味は観察を続ける。そして気付いた点があった。昆虫型の物体の動きに規則性があった。こいつは右に移動しながら殺戮し、前に移動し、今度は左へ移動しながら蹂躙している。左右の移動量は徐々に大きくなっている。恵味の脳内で渋谷の鳥瞰図が作成され、現状が解析される。こいつらは銀色の建造物を中心に、同心円状にエリアを拡大している。こいつの動きからすると、20体が活動し渋谷を死の街にしている。続けて体側から伸びる鞭・触手の動きを観察する。伸びてせいぜい20mというところね。短いピッチで並んでいるせいか、絡まない様に、あまり角度をつけて振る事が出来ないみたい。それなら、あいつが前へ移動している時なら、真正面から攻撃できるんじゃないかな。
こうしちゃいられない。あいつとの距離がまだある内に避難させないと。恵味は地下駐車場にいる人間全てに屋外退去を呼び掛けた。中にはこのままここに隠れてやり過ごした方が安全ではないか、と主張する者も少なからずいたが、恵味は別の武器で攻撃される危険性、やり過ごせたとしても避難するにはあいつと接触する危険性があることを説き、退避する事を同意させた。
退避の方法は至ってシンプルなものである。銀色の物体から直線距離で可能な限り遠くまで逃げる。同心円状にエリア拡大中のあいつは、エリアが拡大すればする程、左右への移動量が長くなり、侵攻速度は遅くなる筈と考えていた。恵味は避難者達をどんどん走り出させていた。退避者の行動を影から見ていたのであろう、同調するかの様に多くの者があちらこちらから走り出していた。
私、結構多くの人を助けたんじゃないかな。
最後の一人が走り出すのを見届け、自らも退避しようとした時、自分の失態を悟った。あいつの射程内にいつの間にか入っていた。
どうする?今からあいつとの距離を取るには・・・駄目だ。走り出す前に、反転している間に殺される。あの鞭と言うか触手を避ける?一撃目は避けられても、二撃、三撃とこられたら、かわし切れない。これはもう詰んでいるな。短かったけれども、充実した人生だったかな。多くの人を幸せにした手応えもあるし。凛、心、私がいなくても強く生きるんだよ。
昆虫型の物体から恵味を刺殺すべく、先端を鋭利にした触手が飛び出していった。




