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7.スカウト2

「まだ主役を決めきれてないんだから、話にならないだろ」

今日もプロデューサーが少々怒気をはらんだ口調で言った。

脚本見直し作業の邪魔をされた俺としては、同じテンションで答える。

「そうは言っても、やっとの事でジョージ上原を見つけたんだ。あんたがもっと探す努力をしなければならないとは思わないのか?」

「だからこうして、今日もわざわざ大先生の元に足繁く通っているんじゃないか!今日も該当者捜索に協力してくれてもいいじゃないか!・・・そもそも、設定に拘り過ぎたから、こうしてオーディションにも難航するんじゃないか」

「確かに・・・御前の言葉にも一理あるな。確かにキャストも決まっていないのに、脚本を見直していくのにも問題があるな。・・・わかったよ。巽磨意の捜索に協力するよ。そもそも、もうオーディションをしてもいい俳優に出会えるとは思わないが」

「だとしたら、どの線から探せばいいと思っているんだ?」

「そうだな。巽磨意の体格は芸能界の10代のオンナのコにとっては難しい条件だと思う。だったら、格闘技とかアスリート系から探してみないか?」

「どうやって?そっち系には全く伝手がないぞ」

「取り敢えずインターハイやインカレに出場している選手のご尊顔を眺めに行こうじゃないか。アマチュアスポーツに強い出版社があるじゃないか。そういったところの編集部に行って、写真を見せてもらおう」

「そうだな。それじゃあ編集部に交渉してみるとするか」

プロデューサーは何人かに電話をかけて、編集部への伝手を探し出し、編集者へ交渉する。

「山田、先方からOKが出た。今すぐ行くぞ」


俺の仕事場兼住居のある吉祥寺から電車で、先方の編集部の最寄駅である水道橋で下車する。

水道橋駅から8分程歩いたところに出版社の自社ビルがあり、7階の陸上競技の雑誌編集部へ入った。

プロデューサーが受付のところで立っていたが、誰からも反応が無かったので、近くにいた男に事情を説明し、受付横の応接スペースに座らせてもらった。

待つ事20分、待ち合わせた男が現れた。

「事情は電話で伺いました。我々に要望されているのは、インターハイ・インカレ等の取材写真を閲覧させて欲しい、というところで宜しいでしょうか?」

我々は頷いた。

「写真は資料室で保管しておりますので、見ていただくことは構いません。ですから、大会が開催された日に撮影された写真である事はわかると思います。しかしながら、これらも取材内容ですので、別目的の為に提供する事は出来ません。もし、あなた方の理想の子がいるのでしたら、ゼッケンNo.等を控えて主催者側に問い合わせて下さい。勿論、そこで教えてもらえるとは限りません。ですが、こうした大会に出場するアスリートは地元では有名人でしょうから、名前や住所の特定は難しい事ではないでしょう。コンタクト出来るかどうかはわかりませんが」

「わかりました。・・・では、資料室に案内していただけないでしょうか」

「はい。・・・荷物はこちらに置いておいて下さい。写真等をカバンの中に入れられたりしたら困りますので」

「わかりました」

資料室に案内したところで男は、言った。

「お帰りになる時は連絡下さい。荷物を返却致しますので」

資料室は薄暗く、書架が何本もたっているつくりである。その中から、近年のインハイ、インカレ、国スポ等のファイルを取り出し、中を確認する。写真で確認したいのは、投擲競技等のパワー系競技のアスリートである。カバンの中にあった付箋紙をここに持ち込む事が出来なかったので、気になるアスリートがいたら、その頁をスマホで撮影していった。結局、候補者になりうる素材はいたが、巽磨意はいなかった。

我々はカバン等を返却してもらい、編集部を後にした。その際、男に6階にある格闘技雑誌の編集者を一人紹介してもらい、彼の元を尋ねたのだ。


格闘技雑誌の編集部においても、同様の作業を実施した。

レスリングや柔道といったメジャー競技のアスリートだけでなく、細分化された総合格闘技系のマイナーな大会の出場者についてもチェックしたが、陸上競技の時とほぼ同じ結果に終わった。

俺は密かに、ここで巽磨意が見つかるものと思っていた。マイナー競技の中から現れたシンデレラ・ガールということで、大々的なPRが出来るのではないか、と期待したのだが、現実は違った。

俺は落ち込んだ。最早次の編集部に行く気力は無くなっていた。横にいるプロデューサーの励ましが無ければ、吉祥寺に戻ったかもしれない。

「山田、次の階に行くぞ。次が当たりかもしれないじゃないか。諦めたら、番組が終わるぞ」

「・・・そうだな」とは言ったが、次は期待薄だ。何しろ次はプロレス雑誌の編集部なのだから。実を言うと、オーディション参加者の少なさに色々と資料をあさった経験がある。その中の資料として、プロレスラー名鑑もチェックしていた。体格的には問題は無いのだが、いかんせん年齢が高い。それは仕方が無いことである。プロレス団体に入門して、何年か練習生としてプロレスのスキルを磨いた上でデビューするのだから、20歳を超えてしまう。巽磨意の設定年齢16歳にリアリティーを持たせるのは困難だろうと考えたのだ。

そういったネックについて、俺は対応してくれた編集者に言った。編集者はしばらく考えた後、我々に言った。

「それでしたら、各団体の練習生に会いに行けばどうでしょうか?中には中学を卒業してすぐ入門している子もいますし、10代後半の子供も結構いますよ。団体の方も只で宣伝になりますので、喜んで出演させますよ」

そうか、何もプロデビューしているレスラーでなくてもいいんだ。練習生でも、イメージに合えばこちらのものだ。我々は編集者から主要女子プロレス団体の連絡先を教えてもらった。主要団体としたのは、今から撮影~放送開始~円盤発売~スピンオフビデオ発売といった一連のスケジュールが二年弱続くので、その間に消滅する恐れの少ない団体という観点で選定した。

最後にボクシング雑誌の編集部に行き、現在ライセンスを保有しているフェザー級~ライト級の選手を写真確認したが、これはと思う女性には出会わなかった。女子ボクサーを積極的にプロデビューさせている関東のジムを紹介してもらい、編集部を後にした。

本日の作業はこれで終了し、翌日の午前中から女子プロレス団体、ボクシングジムを回る事となった。


翌日、吉祥寺の俺の部屋のあるマンションに、プロデューサーは自家用車でやって来た。

「随分と力が入っているな」

俺は助手席に乗り込みながら言った。

「ああ、今日で記者会見の日程が決まるか、暗礁に乗り上げるかが決まるからな。御前もちょっとは緊張したらどうだ。もし見つからなかったら、脚本は1話から全部見直しになるんだぞ」

「確かにそうだな」

午前中、もしくは午後の早い時間でプロレス団体を全て回る事にしていた。というのも、磨意役に決定した後はフルタイムでの撮影が待っている。学校に通いながらの二足の草鞋では、スケジュールの消化は不可能だ。だから、平日の昼から道場にいるコでないと役に立たない、と考えたのだ。勿論、在学中のコであっても、退学あるいは休学して撮影する、という事も可能だ。しかしプロレスラーを夢見る少女が、子供番組の為にそこまでやってくれるのか、疑問である。

三つ目の道場で、我々は一人の少女に注目した。取材と称して写真撮影をして、インタビューをしている我々に興味を持たず、首でブリッジをしていた。全身から汗が噴き出し、ぽたぽたと床に落ち、汗が溜まっていた。ブリッジを終え、スクワットを始めた少女に私は声を掛けた。

「君は何歳なんだい?」

「17歳っス」

「じゃあ、デビュー戦はまだだね。早くデビューしたいかい?」

「デビューよりも強くなりたいっス」

「今のチャンピオンよりも強くなりたい?」

「昨日の自分より強くなったという実感があればそれでいいっス」

インタビュー中も、スクワットを続ける彼女を見て、彼女こそ巽磨意だと思った。最早他の道場やボクシングジムに行く必要は無かろうと思ったが、プロデューサーはより慎重だった。念の為、全ての道場・シムを確認する、と言う。つまり、今の段階では有力候補という事か。

彼女にはまた後でコンタクトする事になるだろうと思いながら、彼女に最後の質問をした。

「済まないが、キミの名前を教えてくれないか?」

俺の予想通り、以降赴いた女子プロレス団体の道場及びボクシングジムで適任者をを見出す事は出来なかった。


一週間後、トレーニングの時間・環境を確保する事を条件に、件の練習生が巽磨意役を務める事を内諾した、との連絡を受けた。

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