どちらも譲らない!
の世界の命運と、私のペットは譲れない」
王城の最上階――
俺は、黒と赤の内装に囲まれた玉座の間で、膝の上にリリスを乗せられていた。
「なんでこうなった……」
「いいじゃない。ペットってそういうポジションでしょ?」
「いや、人間だから! 一応、俺、元・高校生なんだって!」
「高校生って何?」
「……うん、まあ、いいや」
しばらく口を閉じていたが、リリスが静かに呟いた。
「でもさ。陸が来てくれてよかったよ。正直、“魔王”になれって言われた時、内心はめっちゃ怖かったんだ」
「え……?」
「勇者に殺されるってわかってる職業でしょ。女神のミスとはいえ、断ったら世界が崩れるって言われたし……」
リリスの声はいつもの勝ち気さが嘘のように、細く、小さかった。
「だから、せめて味方が一人ほしかったんだ。……それが、たとえ“ペット”でも」
俺の胸に、ズキンと何かが刺さる。
……そりゃ、理不尽だよな。
この子も、望んで魔王になったわけじゃない。
「だったらさ、俺が守るよ」
「……え?」
「ペットって、主人を守るもんだろ? 知らんけど」
「……!」
リリスの目が、まんまるになった。
次の瞬間、ポスンッと何かが爆発したように、彼女の顔が真っ赤になった。
「な、な、なに言ってんのよバカぁぁぁ!」
ドカッ!
「ぐふっ!?」
腹にストレートが入り、俺は玉座の床に転がった。
「でも……ありがとね」
その声は、とても小さくて、ちょっとだけ震えていた。
……今のは、惚れたな。
いや、ペットに言うセリフじゃないだろ、俺。
その時――
「陸ぅぅぅぅぅ!」
ドアを蹴破って、金髪の勇者が駆け込んできた。
「どこ!? どこなの陸!?」
「ここだけど!?」
アリアは俺を見つけるなり、両手で俺の頬をむにゅ〜っと掴んだ。
「なにされてんの!? 魔王の膝に乗せられてたじゃない!!」
「いや、違うんだ。これはその……文化的な違いというか……」
「言い訳禁止!」
「勇者のくせに、嫉妬?」
リリスが挑発的に笑う。
「はぁ!? 嫉妬じゃないし! ただ……ただ……! そっちばっかりずるいじゃない!!」
「ずるいって……」
「私も! 陸のこと、好きなんだからねッ!!」
玉座の間に、アリアの声がこだまする。
「だから……私も、女神様にお願いしてくる!」
「お願いって……まさか……!」
「そう! 私も“魔王のペットの飼い主”に職業変えてもらう!」
「女神ああああああああああああああああああ!!」
俺の絶叫が響き渡る。
外で控えていた兵士たちがざわつき始める。
「なんだ!? なにがあった!?」
「中からすごい声が……また女神様が何かやらかしたのか……?」
そして――
「きゃあああああああああああ!!」
「うぎゃああああああ!!」
玉座の間から、俺が両腕を引っ張られながら、悲鳴を上げて吹き飛んできた。
リリスが俺の右腕、アリアが左腕を掴んで引っ張り合っている。
「うわーーー!! ちぎれるぅぅぅ!!」
王城の外。
悲鳴を聞いた町の人々は、一様に青ざめた顔でつぶやいた。
「……うわー、魔王ってやっぱ怖ぇ……」
「てか、勇者も怖ぇ……」
「何が始まるんだ……この世界……」
――そして、後世にこう語られる。
『この日こそが、“魔王二人時代”の幕開けであった』と。
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