選ばれたけどさ!
「……というわけで、君は今日から“魔王のペット”として、この世界を生きることになりました。よろしくね♪」
「よろしくね、じゃねぇぇぇぇ!!」
俺は叫んだ。素で。心の中じゃない、ちゃんと声に出して。
「え? なんで俺がペット!? 勇者とか、賢者とか、そういうのじゃなくて?」
「うん、ちゃんと見たの。眼鏡で。完璧にね」
女神は満面の笑みを浮かべながら、召喚台の後ろでモフモフの犬にクッキーをあげている。
まったくもって平和である。俺の心中以外は。
「ねぇ、次の方まだ〜? ペット、終わったなら進行してほしいんだけど〜」
不機嫌そうな声が聞こえた。
振り向くと、赤と黒を基調にした豪華なドレスをまとった、年の近そうな女の子が腕を組んでいた。
その頭上には、黒く光る……なんかもう、角。
「うわっ……」
「うわって何よ」
「え、えっと……その……魔王、様……?」
「そうだけど?」
ニッ、と笑って、彼女は俺の顎を軽く持ち上げた。
「ペットくん、さっそく主に敬意が足りてないわね?」
「は、はいぃぃぃ!?」
「でもまあ、顔は悪くないし、見たところ柔らかそうだから……うん、ちょうどよさそう♪」
なんか、怖い。
でも、ちょっとときめいた自分が怖い。
「というわけで〜、新魔王・リリスちゃんにはペットがつきました〜!拍手〜!」
「やめろぉぉぉ!」
俺の抗議は虚しく、会場の外野からは「ほほえましいなあ」「最近の若い子は大胆だなあ」などという見当違いなコメントが飛んでくる。
……と、そのとき。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
空気を切るような高い声が響く。
「そんな勝手に決めないでよリリス! 陸は私の……!」
言いかけて、バツが悪そうに目を伏せたのは、もう一人の少女だった。
金髪に白のマント、いかにも“光属性”な服装。つまり――
「……勇者?」
「そう。あなたと同じ日に選ばれた勇者、アリアよ」
俺の脳が混乱していた。
ペット→魔王の下につく→なぜか勇者が嫉妬→そして――
「なんで俺が、勇者と魔王に挟まれてるんですか……!!?」
「……それはね、愛よ。たぶん」
無責任な女神が、またクッキーをかじりながら言った。
神様、もうしゃべらないで。
アリアは俺の前に立つと、勇者とは思えぬ照れ顔で言った。
「……わ、私はね、陸のこと……ずっと気になってたの」
「ずっとって、俺、今日来たばっか……」
「でも! 一目惚れってあるじゃない! 小説でも漫画でも、最初に出会った時にピンとくるやつ!」
「この人、けっこう読んでるな……」
リリスがぐいっと俺の手を引いた。
「勇者のくせに、ペットを狙うなんて趣味悪すぎ。あんたは世界を救ってなさいよ」
「そっちこそ! 魔王なのに人間を飼うとか悪趣味!」
「じゃあ勝負する? どっちが先にペットを懐かせるか」
「それ、ペットの尊厳とか人権とか、全部どこいったの!?」
「ないよ?」
「即答かよ!!」
……こうして、異世界に召喚された俺――陸は、女神の視力ミスから『魔王のペット』にされ、
しかも魔王と勇者から取り合われるという、訳のわからない運命を背負うことになった。
2話目終わり
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