神算鬼謀
バートラムの大剣は間合いが長いが、森の中で振り回すには不利であった。周囲にある木々がバートラムの大剣の太刀筋を狭めているように見える。フランツはバートラムの大剣が木に当たる直前を狙って、大剣の面を下から叩き上げて軌道を逸らした。
軌道を逸らされた大剣は速度を落とし、そのまま木に突き刺さる。刹那、フランツは一気に間合いを詰めてバートラムの首を討ち取りに行ったが、バートラムは一気にオーラを解放して身体強化を図ると再度大剣の柄を握り思い切り振り回した。その勢いで周囲の木も一気に斬り倒され見通しが良くなる。
「油断も隙もありゃしねぇな」
「チッ」
このまま、このおっさんを討ち取れればこの戦は終わるんだが・・・・・・。コイツは強えぇ。おまけに・・・・・・フランツはそれとなく周囲を確認する。樹上にも複数の気配が集まりつつあった。ごり押しするのも難しい状況だな。
フランツはバートラムと対峙しながらちらっとベル隊がいるほうを見た。ギュンターの奴、いつまで遊んでんだ?撤退の合図はとっくに鳴ってんだぞ。
※※※※※
「ベル、奴らの連携は厄介だ、お互いに突っ込んで崩すぞ」
「了解です!」
ベルとギュンターはお互いに近づきつつ、タイミングを計りながら一気にドルフとアジルに向かって突進する。ドルフとアジルの間に割り込むようにして入ったベルとギュンターは、彼らが接触出来ない様に猛攻を続けた。それにより連携を崩されたドルフとアジルは、防戦一方となった。
「今だ!」
ギュンターが叫ぶと同時にふたりはオーラで斬撃を飛ばす。ドルフとアジルは咄嗟に硬質化したオーラで威力を減殺するも、受けきれずに後方に吹き飛ばされてしまった。その隙にふたりは包囲を突破したのだった。
来たな!
フランツはベルとギュンターたちが包囲を抜けて向こうからやって来たのを確認すると、ニヤッと笑った。
「おっさん、俺の仕事は終わったみたいだ。続きがしたいなら森の外まで来るんだな」
バートラムは振り返るとベルとギュンターが隊を引き連れて横をすり抜けていくところだった。
「ちっ、あいつらっ!」
小さく溜め息をついたバートラムは引き上げを命じた。バートラムが本陣に戻ってみると追撃に出ていたリンドラが報告に来た。
「将軍、申し訳ありません」リンドラはすまなそうに頭を下げた。
「何があった?」
「見失いました」
「逃がしたのか?」
「全速で南の橋まで追撃をかけたのですが、橋の向こうにはローレンツ軍がすでに陣を張っておりました。そこに逃げ込んだのかもしれません」
そこまで聞いて、バートラムは深いため息をついた。ローレンツのアルトゥース王子・・・・・・か。こいつはひょっとしたらとんでもない策士じゃないだろうか?まるで、コーネリアスのジジイ相手に戦ってる気分だ。
それに俺と戦った小僧。バートラムは自分の右手を見ながら開いたり閉じたりした。剣を交わしてから、バートラムの右手にはビリビリとした痺れがずっと残っていた。数多の敵と戦ってきたが、今までこんなことはなかった。たったひとりを除いては・・・・・・三大将軍筆頭『ゴットハルト』
「ちっ」こんな時にあのヒゲ野郎の顔なんぞ思い出したくもない。バートラムは頭を振った。それだけじゃない。あのドルフとアジルの包囲網を抜けたふたりも只者ではないだろう。
いったい、なんなんだこの敵は?俺はいったい何と戦ってる?
バートラムが戦場で感じた初めての感覚である。彼は憮然とした表情で掌を眺め、開いたり閉じたりを繰り返した。
※※※※※
「アルス!」乱戦の最中、バートラムの足止めをやり切ったフランツが殿を務め、森の中から出て来た。
「フランツ、ごくろうさま!」
「どうだ?あいつらは無事に帰ってきたか?」
「あいつら?」
「エルンストとヴェルナーだよ。まだ戻って来てないのか?」
「いや、戻って来る予定はないよ?」アルスは少し意地悪そうな笑顔で答える。
「は!?あいつらを逃がすために相手の注意を逸らすって話じゃなかったのか?」
「そうだよ。そのためにやったんだ」
「ちょっと待て、どういうことか説明しろ。訳がわからん」
アルスの真意を測りかねたフランツが少し苛立ちながら尋ねる。これだけ苦労して注意を引いたのだから当然といえば当然の反応だ。
「確かに、言ってなかったね」
アルスは詳しくフランツに今後の展開と作戦を説明した。説明されたフランツはポカンとした表情で聞いていたが、全て聞き終わると大笑いした。
「はっはっは!おまえ、コーネリアスみたいなこと考えるんだな」
「どうかな、無敗の将軍に知恵を授かりたいぐらいだよ」
「でもよ、このままほっといても敵さんの糧食が尽きれば終わりだろ?」
「相手の糧食が尽きるのを待ってるだけじゃ時間がかかるからね、やはりゴットハルト将軍のほうが気になるんだよ」
「まぁ、あっちは三大将軍筆頭だしな」
「だね」アルスもつられて苦笑する。
「ということは、後は俺らの仕事は待つだけだな」
「ああ、勝負を早めるために待つとしようか」
※※※※※
二日後、輸送隊が長い列を作って西のケルン城を出発した。輸送隊は手押し車で兵士が一列になって進んでいく。その様子をじっと見ていたのがバルトだった。
「ドルフ、アジル!輸送隊だ、ローレンツの輸送隊が目の前を通ってくるぞ!」
バルトに言われ、ふたりも森の中から様子を窺うと確かに輸送隊が長く縦に連なって糧食を運んでいるところだった。
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