激突!
「リンドラ、糧食庫を焼き払ったやつらを探して叩け」
「わかりました。しかし、このままでは我が軍は長くはもちませんが?」
「わーってるよ、んなこたぁ!ジス、食料はどれくらい保つ?」
「手持ちの食料だけですと、後三日で無くなります。幸いここには川もありますので、節約すれば一週間は保つと思いますが」
「ちっ、あと一週間か・・・・・・」
バートラムが舌打ちをしている、兵士が慌てて走って来る。なんの罪もない兵士だったが、バートラムに睨まれて萎縮する。間の悪いときに来たと思ったが、躊躇している場合ではない。大声で将軍に伝えた。
「急報、急報です!」
「今度はなんだ!?」
「ローレンツ軍が動き出しました。森に向かって進撃して来ているとのことです」
それを聞いてバートラムは敵の狙いを瞬時に理解する。
「このタイミングで森の中に入って来ているということは・・・・・・リンドラ、糧食庫の南側を探せ、奴らの狙いは恐らくこちらの注意を引くためだ」
「はっ、しかしどういうことですか?」
「火を放った連中を逃がすために決まってるだろうが!昨日、隊長を逃がすために他の部隊も森に入らせたんだろう?それぐらい、よっぽど仲間想いの王子様なんだろうさ」
「わかりました、それでは行ってまいります!」
「ジス、他の連中を集めろ。南でちょっかい出してる連中にたっぷり返礼してやらんとな」
※※※※※
一方、このタイミングでアルス陣営も動き出していた。アルスは各隊に指示を出し、前線を押し出しつつも、西側に兵力を集中させる。
「アルスさま、どうしてこのタイミングで森に進撃するんですか?」ギュンターが不思議そうな顔で尋ねた。
「敵の注意を引くためさ。エルンストとヴェルナーが東側の糧食庫を焼き払うのに成功したからね。敵の注意を引くことで彼らを逃がすんだよ」
「なるほど。確かに朝、森の奥で煙が上がってるのは私も確認しました。だから西側に兵を集中させてるんですね」
「そういうこと!」
アルスは各隊に指示を出して集中的に西側の森から侵入して攻め入った。森の前面に展開した部隊は西側に侵入した部隊を掩護するために矢で威嚇しながらジリジリと前線を上げる。
その戦いの最中、西側の最奥の部隊がルンデル軍の洗礼を浴びることとなった。アルスの先遣部隊として行軍していたベルの部隊がドルフとアジルの部隊に囲まれたのだ。ドルフとアジルは各所に配置した射手の攻撃範囲に巧みにベル隊を誘導していく。
しかし、ベルもガルダの件があったばかりなので容易には飛び込まない。これに業を煮やしたドルフとアジルは自らが先頭に立ってベルと剣を交えた。ドルフとアジルはまたも距離を取りつつ交互に打ちかかって来る。この戦法にはベルも苦戦を強いられた。
そして、ベルが両者と戦っている最中に急に激しい戦闘音が聞こえ始めたかと思うと、あっという間に後ろをルンデル軍に塞がれてしまった。バートラム将軍自らが西側から侵入して伸びたローレンツ軍の背後を絶ったのだ。
「包囲して殲滅するぞ!」バートラム将軍は自身の突破力を活かしてアルス隊の兵士たちを次々となぎ倒していく。そして、そのまま奥に侵入したローレンツ軍を先行したベル隊と後軍に分断することに成功したのだった。
まずいっ!
前からはドルフとアジル、背後からバートラム将軍が迫っていることがわかったベルは西へ逃れようとしたが、既に包囲網が完成していた。
「ベル!!立て直すぞ!」窮地を救ったのはギュンターだった。
「ギュンター殿!助かりました、でもどうやってここに!?」
「バートラム将軍はフランツが抑えてる、あいつが抑えてる間にここを突破して退くぞ!」
「わかりました!」
「兄貴、どうするよ!?」アジルが新たな乱入者を牽制しつつドルフに声をかける。
「このまま黙って返せるかってーの!いくぞ、アジル!」
包囲の一画を破って突進してきたギュンターはベルと共にドルフとアジルに当たった。二対二の戦いに持ち込めたことでベルにも余裕が生まれた。彼らの戦いは激しさを増していく。オーラを一気に解放したギュンターとベルは息もつかせぬ連撃を繰り出す。
ドルフとアジルも彼らふたりの攻撃を斬り返しながら凌いでいた。ドルフとアジルは連携を取りながら交互に攻撃を繰り返す。ギュンターとベルも即席で近接と遠距離で連携を図りながら相手に合わせていくが、ドルフとアジル兄弟に比べるとやはり連携の質は数段落ちる。
「ベル、伏せろ!」ギュンターがオーラで斬撃を飛ばすと、後方にいるドルフが同じく斬撃を飛ばす。ズドンッ!という音とともにふたりの放った斬撃同士は空中で打ち消し合い消滅した。
「ちっ、俺たちをどうしても行かせないつもりか」後方で角笛が二度鳴った。撤退の合図が鳴っているが、ギュンター達はなかなか包囲を突破出来ずにいた。
一方、フランツはアルス隊の分断を図っているバートラム将軍の率いる部隊を更に分断していた。これに気付いたバートラム将軍は激高し、フランツを討つために少数の兵を率いて向かってきた。
ここでも凄まじい戦闘が始まった。バートラムは肩にかけていた大剣を持ち上げ、上段に構えるとそのままフランツに向かって全力で振り下ろした。
ドォォォォォォォォォン!!!
フランツの剣先からバートラム将軍の岩のように重い剣圧が降り注ぎ、その重さにフランツの足が地面に沈み込んでいく。
「おっらあああああ!返すぜ!!!」
フランツはバートラムの剣圧を巧みにずらして圧を外側に流しながら、咄嗟に身を捻りつつ上段袈裟斬りに叩きつける。
ドォォォォォォォォォン!!!
バートラム将軍の受けた大剣が、今度はフランツの凄まじい剣圧にビリビリと振動する。そこからフランツの剣圧は更に上がり始める。
「おおおおおおおおっ!!!」
大剣の刃が少しこぼれると同時にバートラム将軍が乗っている馬ごと衝撃で吹き飛び、後方の木に叩きつけられた。
「ったく、面倒くせぇ奴らばっかり揃えやがって!」
「ハッ、そりゃどーも。誉め言葉と受け取っておくぜ、おっさん!」
馬の背を蹴ってフランツに飛び掛かったバートラムは、大剣を小枝でも持ってるかのように振り回してフランツに叩き込む。対するフランツも全てを受けきりながら少しずつ、間合いを詰めていく。
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