表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/182

北を攻めるなら南に向かえっ!!!

「このバツとマル印は渡河出来る位置です。北に一カ所、南に一カ所、こことここですね」


 エミールが指で差した地図の位置は南側が×、北側が〇となっていた。アルスが地図を覗き込み尋ねる。


「この×と〇の違いはなに?」


「×は警備が厳重なんです。この西側に恐らくですがバートラム将軍の本陣があります。北側の〇は比較的警備が緩くなってますね」


「なるほど、それともうひとつ頼んであった件はどうかな?」


「そちらも確認済みです。ここを見てください」


 エミールは今度は川の東側を指で差した。そこは〇印で二カ所に印がしてあった。


「ここが例の?」


「はい、そうです」


「どういうことです?」エルンストが怪訝な顔をして地図を覗きつつ質問をする。


「敵の糧食の位置だよ」


「糧食の位置?よくわかりましたね?」


「アルスさまからだいたいの場所を聞いていたので見つけるのにそう時間はかからなかったです」


 敵が最初に橋を焼いたのは、恐らくふたつの目的があったとアルスは考えていた。ひとつはローレンツ軍を分断するため。もうひとつは、行動を制限するためだ。そして、バートラム将軍は森の中から攻撃を仕掛けて来た。森の中を行軍してきたのだと考えると、糧食の位置は川の東側にあるはずだと推測できる。加えてルンデル軍の二度目の襲撃の時間を考えて辺りをつけることが出来ていた。


 そのことを彼らに説明しつつ、アルスはエミールが見つけてくれた糧食の位置の周りを指でなぞって円を描いた。そして、エルンストとヴェルナーには敵の糧食を焼き払う指示を出す。


「それぞれ五百の兵を率いて二手に分けて夜明けと同時に襲撃してもらいたい。それとエミール、すまないけど案内役としてもう一度彼らと一緒に行ってもらえるかな?」


「了解です!でも夜だと森の中は全く見えないですよ?」


「うん、もちろん正面からは行かないよ。今から全速力で南に向かってもらう」


「北じゃなく南へ、ですか?森と反対方向になっちゃいますけど・・・・・・」


 エミールがキツネに鼻をつままれたような顔をして尋ねる。アルスたちの北側は森であり、糧食庫は川を超えた北東にある。エルンストとヴェルナーもどういうことかと顔を見合わせている。


「そう、南へ。以前にも話した通り南に行けばランツベルクの街がある。相当距離はあるけど、ランツベルクの北側にはまだ橋がかかってるからそこを夜のうちに通っていくんだ。そして、襲撃は夜明けと同時に行う」


「そういうことですか!わかりました!」


 アルスは細かい指示を三人に出した。その後、エルンスト、ヴェルナー、エミールの三人は森とは反対方向の南側に千の兵を連れてひっそりと陣営を離れる。三人はランツベルクの北側にある橋を渡り、再び北を目指した。やがて森に近づくころには夜が白み始めて来ていた。


「急ごう、もうすぐ夜が明ける」


 ヴェルナーがそう言うとふたりは無言で頷く。エルンスト隊とヴェルナー隊は敵と遭遇するのを避け少し東側へ迂回しながらエミールの先導に従い、森の中へ入っていった。


 夜の淵が天に追いやられ、太陽の端が次第に姿を現すと森の中に光が差し込み始める。二隊は全速力で森の中を駆けていくと、やがて糧食置き場が見えて来た。エミールの描いた地図にある通り南側に一カ所、そして北側に一カ所、計二か所である。


 警備の兵は手薄だった。やはり、バートラム将軍は川の橋を落としたことによって川の東側にある糧食庫の警備を軽視していたのである。


 敵の糧食置き場が確認出来たと同時にヴェルナーとエルンストは北と南に分かれ、それぞれ五百ずつの兵を率いて一気に火矢を放った。エミールも弓に二本の矢をつがえて同時に放つ。放たれた二本の矢は、着弾するとそれぞれの場所で爆発炎上した。それぞれの隊が一斉に火矢を放つことによって、あっという間に燃え広がった火は糧食の全てを焼き尽くした。


「あとはアルスさまの合図が出るまで潜伏だ!」ヴェルナーが叫ぶ。三人は火矢を放ったあと、すぐにその場を離脱し、馬を走らせ姿を晦ました。


「急報です!バートラム将軍はいらっしゃいますか!?」


 伝令を伝える兵がバートラムのいる本陣に来たのはヴェルナーとエルンストの二隊が糧食を焼き払ってしばらくしてからである。まだ朝もやが煙るなかであったが、バートラム本陣周辺は騒がしくなりつつあった。


「なんだ朝から騒々しい」


「バートラム将軍!敵が我が軍の糧食庫を焼き払いました!」


「は!?」


 欠伸しながら天幕から出て来たバートラム将軍であったが、報告を聞くなり血相を変えて川の東側を見ると微かに煙が見えていた。風に乗って微かに何かが燃えているような匂いが漂って来る。


「敵は!?」


「は?」


「敵はどこ行ったんだって聞いてんだ!」


「し、失礼しました。敵は既に現場を離れたようで捜索していますが見つかりません」


「くそうっ、やられた!奴ら南側の橋を渡ったんだ」


「急いで追撃隊を組織しろ!奴らを陣地へ帰らせるな!リンドラはいるか?リンドラを呼べ!」


 しばらくしてリンドラがやって来たときには、バートラムは怒りで周囲の兵たちに当たり散らしていたところだった。リンドラが来たのが見えるとバートラムはすぐに指示を出した。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ