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ガルダ、戦線離脱!

魔素量が飛躍的に上がってどこかで調子に乗っていたのかもしれない。アルスさまが言っていたことが今になってようやくわかるとは!魔素量が上がったところで、体力が尽きたら終わりだとアルスが何度も言っていたことがガルダの脳裏に浮かびあがる。

 

 そこへまたドルフとアジルが斬り込んで来た。先ほどと同じように付かず離れずの戦法だ。ガルダは攻め手に欠けたまま体力を削られていく。さらに先ほど背中に食らった矢で徐々に動きが悪くなったところに、またもや不意に飛んできた矢を食らってしまった。


 硬質化したオーラを練る暇さえ与えられない。さらに、数十合切り結んだところでガルダの息は荒くなっていく。ドルフと切り結んでいる最中に放たれたアジルの衝撃波を受けきれずにそのままガルダの巨体が吹き飛ばされ、木に激突した。


 矢を食らった背中に激痛が走ると同時に木に衝突した衝撃で呼吸が出来ない。呼吸が出来なければオーラは練れない。ガルダが死を覚悟した瞬間であった。兵を引き連れたパトスとジュリがとどめを刺そうとするドルフとアジルの間に割って入った。

 

「なんとか間に合ったようで」パトスが背中越しにガルダに声を掛ける。

 

「パ、トス、殿・・・・・・」息も絶え絶えにガルダが答えた。

 

「走れるか?」ジュリの問いにガルダは無言で頷き、よろよろと立ち上がった。

 

「後詰めは我々に任せておまえは走って戻れ!」

 

「おふたりとも、申し訳ない・・・・・・」

 

「謝罪は助かってからにしろ。行け!」

 

 ジュリの叱咤にガルダは走った。ふたりの救援を無駄にしないためにも、よろめきながら今は懸命に走るしかなかった。


 パトスとジュリは目を合わせると、一気にドルフとアジルに向かって突っ込む。飛び込んでくるふたりの剣撃速度はドルフとアジルの速度を遥かに上回っていた。


 強いっ!?


 十数合剣を交える頃にはいつの間にかドルフとアジルはふたりに挟まれる格好になっている。先ほどから矢はふたりの背中に何本か飛んできているのだが、全て躱すかはたき落とされてしまう。


 ドルフとアジルは背中合わせになったまま、激しく両者と打ち合った。ドルフがパトスの剣を躱そうとして身を屈めた刹那。まるで示し合わせたかのように、そのままパトスの蹴りが顔面に入る。と同時にアジルもジュリに蹴られ吹き飛んだ。


 そのままドルフとアジルは再び背中合わせに激突した。一瞬、脳震盪を起こした二人が立ち上がった時には既にふたりの鬼人の姿はその場になかった。


 パトスとジュリが隊を率いて両側を護衛しながら、ガルダがおぼつかない足取りで森をようやく抜ける頃には日も暮れかかっていた。アルスはガルダが戻って来たのを確認すると、軍を出して退路を確保するよう努めた。こうしてガルダは命からがら敵陣から戻ってくることが出来たのである。

 

 ガルダはアルスの元に戻ってくるなり両ひざをついて涙ながらに謝罪した。


「アルスさま、申し訳ありません。隊長を任されながら私ひとり突っ込んでしまいいたずらに兵を死なせてしまいました」


 「いや、ガルダのせいだけじゃない。僕の見通しも甘かったんだ。バートラム将軍は今日だけで三度仕掛けて来た。一、二度目は軽く小競り合いをして退いた。そこで僕らの崩しやすいところを探っていたんだと思う」

 

「今になってようやくアルスさまの仰ってることがわかりました」


 アルスはガルダが涙ながらに理解したことを静かに聞いた。


「以前アルスさまは、魔素がいくらあっても体力が尽きれば終わりだと仰いました。情けない話ですが、その意味が初めてわかりました」

 

「そうだね、ガルダだけじゃない、僕たちは強くなった。だけど、その強さはあくまで対個人的な強さだ。戦局全体を左右するわけじゃない、魔素が無限でも体力が尽きれば死ぬし、いくら強くても多数に包囲されれば死ぬ。それを勘違いしちゃいけないんだ。それがわかったなら今後に活かして欲しい」


 ガルダは号泣しながら何度も謝罪をし、その場に居たパトスやジュリにも謝罪と感謝を伝えた。ガルダの負傷により残ったガルダ隊の兵士たちはアルスの部隊に組み込まれ、ガルダ自身は療養しつつしばし休むこととなった。


 夜になって、アルスたちは天幕の中で軍議を始めた。リース将軍を始め、各部隊の部隊長たちも集まっていた。


「殿下、敵軍の今日の戦いを見ているとどうやら森から出てくる気配はなさそうですね」


 リース将軍が簡易的に作られた机の上に広げられた地図を見て腕を組んでいる。ローレンツ軍にとって、森の中に入ることはなるべく避けたかった。ここは、ルンデル国内であり地理に明るくないローレンツにとって森に入るという事は相手の懐に飛び込むことになる。


「まるでゲリラみたいな戦い方をされてる感覚だね。ハッキリ言って戦いづらい」


「バートラム将軍ってのはもっと武闘派かと思ってましたが、意外にも慎重ですね。そして、的確に相手の弱点を突いてくるような戦い方にも見える」ヴェルナーも地図を睨みながら苦々しく呟く。


「だな。森に引きこもってるのは、中で網を張ってるからだろ?ガルダの話を聞いた限りじゃそんな感じだったもんな」


 ヴェルナーとフランツの話を聞いていたアルスが更に付け加えた。


「ガルダは戦線離脱した。相手としては本来ならガルダの救援に向かった隊、つまりパトスとジュリも含めてこちらの戦力を削るつもりだったんだろう。しかし、それが出来なかった。これでますます慎重になった可能性すらあるね」


「それはまずい。それだと、我々がここで足止めを食い、いたずらに時間を無駄にすることになる」


「リース将軍、敵はそれも狙いに入れてるのかもしれない」


 アルスは現状をリースに説明した。敵はローレンツ軍をここに釘付けにするだけでヘルネ城への進軍も出来ず、北の部隊の救援にも向かえない状況を作り出すことが出来る。そして、ひょっとしたら、それだけで敵の戦略的目標は達成できるかもしれない。つまり、ゴットハルト将軍がリヒャルトを打ち破りケルン城を奪還するようなことがあれば、アルスたちは敵国のど真ん中で孤立することになるのだ。


「ということは、相手にとっては時間を稼ぐだけでいいということですか」


「場合によってはね」


「なんとか敵を森の中から引きずり出さないといけないってことですね」


 アルスたちが軍議をしている最中、天幕の裾が揺れひょこっとエミールが顔を出した。


「アルスさま!ただいま戻りました」


「エミール、ご苦労様。どうだった?」


「ばっちりです」そう言ってエミールは机の上に地図を広げて見せた。エミールの広げた地図にはバツ印と丸印がいくつかあった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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