バートラムの戦い方
「ジス、確かにこいつがオルターって奴だよな?」バートラムが副官に尋ねた。
「旗印を見る限り間違いないと思います」
「こいつが大将か?随分期待外れじゃないか。こんなやつにコーネリアスの爺さんがやられたとあっちゃ、あの爺さんも浮かばれんな」
「実際、コーネリアス将軍を苦しめたのはアルトゥース王子の部隊だったという話もあります」
コーネリアス将軍が戦地で死去した件はルンデル全土に広まっていた。ただ、その死因を巡って色々な憶測が飛び交っていたのは事実である。不敗の将軍と呼ばれたコーネリアスだっただけに、ルンデル側が受けたショックは大きかった。表向きは病死ということになっていたが、ローレンツが謀殺したのではないか?などという不確かな情報もまことしやかに流れている。
「ああ、俺もその話は聞いてる。向こうは政情がゴタゴタしてるからな。色んな事情でクソの役にも立たん王族の手柄になったりすることもある。と、思ってたんだが、ひょっとするとひょっとするかもしれねぇな」
「総大将がこの位置にいるのもおかしいですね」
「何考えてんだかよくわからん。それよりアルトゥース王子ってのはこっちに向かって来てるかわかるか?」
「先行した悪鬼隊からの情報ですが、王家の紋章が入った旗があったそうです」
「おお・・・・・・!そりゃ吉兆だな。その王子捕らえるぞ!そうすりゃこっちのもんだ」
「利用価値は色々ありそうですからね」
「そういうこった。ツキがまわってきたな、ははは」
バートラムは兵を引き連れて森の奥地へと入っていった。ブルク川は橋がかかっている部分は水深が深いのだが、森の奥は浅瀬になっている箇所がある。そこなら馬に乗ったままでも渡ることが可能であった。彼らは浅瀬まで北上し、渡り終えると、また南に向かって軍を進めた。
「アルトゥース殿下、どうやら先行したオルター中将の部隊は全滅してしまったようです。橋も落とされてしまったし、このまま進むことも出来ない」
アルスとリース中将は軍を取りまとめて森から少し離れた南に陣を取った。そこで改めて今後の方針を練り直す必要に迫られた。
「もう一度橋を架けるにしても時間が掛かり過ぎるね」
「そうです。我々が橋を架けている間は無防備になります。南にもうひとつ橋があるのですが、ランツベルクという港町まで下らないといけなくなります」
「意味がないね。敵が素通りしてケルン城攻めをするだけだ」
「おっしゃる通りです。いっそ、ケルン城まで退きますか?」
「今回、二手に分かれて迎撃に出たのはゴットハルト将軍とバートラム将軍を合流させないためだ。それを考えると、余り良い手じゃない」
もし仮にケルン城まで退いてしまえば、2大将軍を同時に相手にしなければならない。また、ケルン城は平地の城であり、守るには適していない。囲まれてしまえば輸送が滞り、最悪、飢餓状態で戦わなければならない。アルスは少し考えてからエミールを呼んだ。
「エミール、すまないけど森の中に偵察に行ってくれないか?他に頼れる人がいなくて」アルスは申し訳なさそうにエミールに頼んだ。
「もちろんです。元々ハンターですから、森の中なら大丈夫ですよ」エミールは胸を張って答える。
「ありがとう。バートラム軍がこの川のどこかを渡河しているのは間違いないんだ。それを調べてもらえないかな?」
「わかりました」
「それともうひとつ・・・・・・」アルスが伝えると、エミールは敵に見つからないように西回りに迂回して森に入って行った。
※※※※※
「ほほぅ。炎が広がる矢か、面白いもんだな」バートラムはドルフの報告を興味深そうに聞いていた。
「それだけじゃねぇよ旦那。同じ射手で間違いねぇと思うが、矢が突き刺さった瞬間凍った奴もいる」
「なんだそりゃ?新しい武器かなんかか?」
「いや、あの感覚はオーラだ」
「オーラだと?見たことねぇぞ、そんな使い方が出来るなんて」
「わかんねぇけど、あの王子様の部隊にゃ相当の手練れがいるとみて間違いねぇと思う」
「なるほどな。こっちも気を引き締めて行かねぇと火傷負う可能性があるってことか」
一方、バートラム将軍は森の中に潜み、ローレンツ軍の隙を窺っていたが、バートラムは部隊長を呼び寄せ、行動に出ることにした。
バートラムの戦いは、相手の油断を誘っておいて奇襲で殲滅を図るやり方を得意としている。が、ドルフの報告を聞いてから方向性を変えることにした。やり方に固執せず、すなわち森のなかで網を張って誘い込む戦術に切り替えている。
自分の立てた作戦に固執せずに、これが出来る将は少ない。そういった意味でバートラムは非凡の才を持っているといえるだろう。
「エメル、リンドラ、おまえらは左翼部隊を率いて森から討って出ろ。ドルフ、アジル、おまえら右翼部隊も同様だ。バルトを借りる、俺とバルトは中央から出る」
「旦那、このまま押し込む気ですかい?」バートラムの口ぶりから全軍で突撃するものと勘違いしたアジルが思わず尋ねる。
「アジルよ、コーネリアスをやったのが本当にアルトゥース王子だったっていうのならそれを確かめたい。まずは様子見だ。適当に戦ったところで退くぞ」
「いつにもまして慎重ですね」
「エメル、俺はいつも慎重だ。今までの戦だって俺はこうやってきた。まだ生き残ってるのは、慎重にやってきたからだ」
「失礼しました」
報告を受けたバートラムは、王家の紋章が入った旗を確認すると、軍を引き連れて森の境界まで出て来ていた。各部隊長が配置に着く。ルンデル軍1万はほぼ無傷であるのに対して、ローレンツ軍はオルター中将の部隊が壊滅、リース中将の部隊も被害が出ている。
ブオーーーーーーッ!
角笛が鳴り響くと同時にバートラムは出撃の合図を出した。森の中に潜んでいたルンデル軍は一斉に矢を射たかと思うとアルス、リース軍に襲い掛かる。アルス率いる各部隊長たちは襲い掛かるルンデル軍相手に冷静に対処していた。
「ガルダにもう少し下がるように伝えてくれないかな?」
アルスが気になっていたのは、ガルダが率いる隊だけが僅かに突出していたからだ。しかし、その指示が届くまでにバートラム将軍は森の中にまた退いてしまった。
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