オルターの最期
「弓隊構え!」
アルスが命じていると、エミールの矢がすでに突撃してくる先頭集団に当たった。
青白い光が放出されると、先頭集団はそのまま凍った立像に早変わりする。そのまま冷気が地面をほとばしると、周囲の兵たちの足元も凍らせていった。
「撃て!」
アルスの号令とともに、凍った足元で身動きが取れない山賊兵たちに無数の矢が降りかかる。さらに、もういちどエミールの矢が突撃してくる山賊兵を襲うと、これを見た後続部隊はアルス隊への突撃を躊躇し始めた。この様子をじーっと見ていた者たちがいた。レフェルト兄弟である。
「アジル、退くぞ」
「いいのか?このまま退いちまって?」
「あの矢が見えてねぇのか?」
「わかってるけど、せっかく敵を分断出来たんだぜ?今が叩くチャンスなんじゃねぇのか?」
「前のほうはある程度叩けたから良しとするさ。それより弓使いのほうが厄介だ。原理はどうなってんだかわからねぇが、魔素を利用してんだろう。こんなの並みの人間に出来ることじゃねぇ。俺たちかバートラムの旦那クラスがいると思え。それに奇襲というには時間が掛かり過ぎた」
「ここが潮時ってことか」
「おい、バルト何やってんだ退くぞ!」
バルトは微動だにせずにローレンツ軍を凝視している。ドルフの声かけにも振り向きもしなければ反応すらない。しかし、実際彼が凝視していたのはローレンツ軍の動きではなく、マリアだった。もういちど耳元でドルフが怒鳴ると、ようやくバルトは気づいたようだった。
「え?いや、おまえら見ろ!すっげぇ上玉がいる!」
バルトが指をさすとそこにはマリアの姿がある。
「おお・・・・・・確かにこの辺じゃ見れないすごい上玉だなありゃ」思わずドルフも同意した。
「貴族かな?平民て感じじゃねぇよな?なんでこんなとこにいるのかな?」
「知らねぇよ!んなことより退くぞ」
「え?嘘だろおい!?あんな良い女いつまで生きてるかわからんぞ?」
「馬鹿かてめぇは。何しに来てんだ」
「何しにって、そりゃあの女、ぶはっ!」
ドルフはそこまで言いかけたバルトの顔面を殴った。そして、再度バルトに警告する。
「遊びでやってんじゃねぇんだよ。退かなきゃ俺が殺すぞ?」
「わ、わかった。わかったから落ち着けって」
ドルフに睨みつけられながらバルトは慌てて、撤退の指示を部下にも出した。
悪鬼隊はドルフの判断により、潮が引くように森の中に退いて行った。同時刻、橋を渡り切ったオルター将軍を待ち構えていたのは恐怖である。橋が落とされ、そこでローレンツ軍は大きく分断されてしまった。
そして、森の中から現れたルンデル軍の奇襲を受け、オルターの部隊は各所でさらに細かく分断されてしまう。部隊の前後ともに奇襲攻撃を受け状況もわからないままオルターの部隊は物凄い速さで削られていった。
「オルター将軍!先遣部隊が壊滅したようです。ご指示を!」
「前後挟撃されて状況もわからんのに指示もくそもあるかっ!」
オルターは完全に自暴自棄になっていた。時間が経過するにつれ、みるみるうちに半数近くが討ち取られ、残るはオルターが陣頭指揮を執る中央部隊だけとなっているのだ。
オルターの先遣部隊を壊滅させたバートラムは後方の戦況を伝令より聞いた。
「バートラム将軍!橋周辺の敵部隊は既に我が方が殲滅させております。残りは中央部隊だけです!」
「よし。そいじゃ、さくっと片付けようじゃないか。」バートラムが馬を進めていくと、確かに中央部隊だけがまだ残っていた。
「なんだありゃ?円陣組んで何待ってんだ?まぁいい。おまえら穴開けるから俺に付いてこい!」
そう言うとバートラムは馬の速度を上げた。走りながら背中に背負っている大剣の柄に手を掛ける。そして大声で叫んだ。
「おおーい!おまえらぁ!今から一発いくぞぉぉ!死にたくなきゃどいてろぉぉ!」
片手で構えた大剣から大量のオーラが集中していく。
「バートラム将軍!?」
「おい、やべぇぞ!逃げろ!巻き込まれたら死ぬぞ!」
「早くしろ!あの人待っちゃくれねぇぞ!」
将軍の声を聞いた兵士たちは慌てて蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。味方の兵が離散し、敵の円陣が見えるようなるとバートラムは大剣を斜めに構え、振り下ろすと同時に集束したオーラを一気に解き放つ。
大気がビリビリと裂けるような音と共に集束されたオーラが円陣を組んでいた兵士たちを粉々に吹き飛ばした。直後、円陣の一角だった場所はホールケーキを切り取ったかのように綺麗に穴が空き、濛々と血煙と肉片が飛び散る凄惨な光景へと早変わりした。バートラムはそのまま穴の開いた円陣の一角から突進する。
「ま、守れ!早く私を守れぇぇぇ!」
円陣の中央に怯えた表情で指揮を執るオルター将軍を目にすると護衛の兵士を一刀で切り伏せ、次の一太刀でオルターの首を刎ねた。いや、正確に言えば胴体ごと斬り飛ばしていた。それでオルター部隊は文字通り全滅してしまったのである。
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