悪鬼隊のレフェルト兄弟
バートラムは隣にいる若い男に尋ねた。
「おい、おまえならどうやってケルンを落とす?」尋ねられた男は、少し考えてからニヤッと笑って答える。
「そうっすね。俺ならこのまま森を抜けてケルン城まで行っちまいますかね」
「はっはっはっ!そりゃおめぇだけなら出来るだろうけどな!」
「いやいや、俺ら悪鬼隊なら結構いい線行くと思いますぜ」男はまた、ニヤッと笑った。
「フフフ、だがな、ちぃっと詰めが甘いな」
「ダメですかい?じゃあ、バートラムの旦那はどうお考えで?」
「おい!地図出せ」
バートラムは兵士に命令すると地図を出させた。そしてくしゃくしゃになった地図を広げて見せる。現在地はここだと指を差しながら、進んだ先にある川を指で囲む仕草を隣の若い男に見せた。
「俺ならここで叩き潰す」
「なるほど!」
「こうすりゃ後々ラクだろうが。はっはっはっは!」
「さすが旦那だわ!」
バートラムの隣を歩く男の名はドルフ・レフェルトといった。悪鬼隊の大隊長を務めるドルフは同じく悪鬼隊の中隊長であるアジル・レフェルトの兄である。
この兄弟は生まれたときから孤児であり、盗みを繰り返しながら暮らしてきた。この兄弟が有名になったのは孤児同士の住処の縄張り争いだった。街の中でも中心街になるほど住処としてはランクが高くなる。そこで、レフェルト兄弟は孤児同士の縄張り争いで無類の強さを発揮した。
兄のドルフも強かったが、弟のアジルも負け無しの強さだった。ふたりはそこで自分たちの天性の魔素量の多さに気付く。
やがて孤児をまとめてグループを作り、街道沿いの商人を襲うようになり山賊集団を作ったのだ。その後は国境を越えて他の山賊集団との衝突を繰り返しながら、吸収しては大きくなっていった。そして、それを繰り返すうち、いつの間にか一万人の山賊を従えるルンデル最大の山賊集団になっていく。
ドルフがバートラムに会ったのはそんな時であった。バートラムは軍を率いて山賊討伐を行い、瞬く間に半数を壊滅させた。山賊はドルフによって大集団となっていたが所詮は烏合の衆である。軍の統率された動きには抗しきれず、各所で各個撃破されていった。
業を煮やしたドルフとアジルは山間に隠れながらも奇襲を繰り返し、遂にバートラム将軍本人を捉えることに成功した。直接対決に持ち込んだ時点でドルフとアジルは自分の勝利を確信していたが、打ち込んでも打ち込んでもバートラムに弾き返された。
このことはドルフとアジルにとっては衝撃的なことであったが、バートラム将軍にとっても同じことだった。ふたりがかりとはいえ、まさか山賊の頭目如きが自分と互角に打ち合えるとは思っていなかったからだ。三人の戦いは半刻近くにも及んだが決着はつかなかった。
バートラムはドルフ、アジルの天性の武勇に惚れ込み、熱心に彼らを口説いた。レフェルト兄弟もバートラムの腕と度量に感じ入り、仲間を引き連れてバートラムの軍に参加したのだ。バートラムはドルフとアジルの武勇に惚れん込んでいたので、多少の略奪行為には目をつぶっていた。
その故あってか、バートラムが攻め込むと至る所でドルフやアジルが略奪を働くのが噂になり、やがて悪鬼隊と呼ばれるようになった。
「兄貴、今回はケルン城を取り戻すだけだろ?」アジルが退屈そうに兄のドルフに話しかける。
「まぁな」
「全然旨味はねぇよな」
「ふふ、まぁ違ぇねぇわ。だがその分恩賞はたっぷり出るんだとよ。バートラムの旦那の言質取ったからな、期待していいと思うぜ」
「ははっ、せめてそれくらいはないとな!張り合いがないってもんよ」急にアジルの目が輝きだした。
「ケルン城奪っても女がいないのはつまらんな」
途中からつまらなさそうに会話に入ってきたのはバルト・ヘルマン。悪鬼隊の部隊長を務める男である。
「バルト、おまえいっつもそればっかだな!女なら買えばいいだろ」ドルフが呆れて返事をする。
「いやいや、略奪しながら女も!ってのがいいんだよ」
「ちっ、変態野郎め!」
ドルフはそれ以上バルトの相手をするのをやめた。くだらない話をして無駄なエネルギーを消費したくないと思ったからだ。
「毎回毎回おまえの趣味に付き合ってる場合じゃねーんだよ」アジルが言い放つと、バルトはつまらなさそうに黙り込んだ。
※※※※※
ヘルネ方面に向かう軍列の中で、アルス隊は最後方に配置された。フランツはぶつぶつ文句を言っていたが、オルター将軍としてはアルスにこれ以上手柄を立てさせたくないのだろう。最後方の配置に意図があったかわからないが、オルターの冷たい態度が各部隊長にそう感じさせるのだった。
コーネリアス将軍との疑いが晴れたとはいえ、オルター将軍にしてみれば、大将から中将に降格されたことを勝手に逆恨みしているのかもしれない。
ケルン城を出てから南側の街道を進んでいくと北側には鬱蒼とした森が現れた。南側には林が広がっている。森の中に斥候を放ちながら道沿いに進んでいくと遥か前方に川が見える。川の上流は森から流れ出てきているようだった。
山間から流れ出て来た川に橋が架かっており、そこを先行部隊が渡っている光景を見たとき、アルスはぞくっとする嫌な予感を覚えた。そしてすぐに、先行しているオルター将軍に伝令を送った。
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