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戦略的挟撃

アルスがハインリッヒの死について思いを馳せていると、急にドアを叩く音がして、兵士が慌てた様子で入って来た。


「アルトゥース殿下、こちらにおいででしたか」


「どうしたの?」兵士はあちこちアルスを探し回っていたようで、荒い息を交えながら報告する。


「斥候からの報告なんですが、北東のミュンスターより軍が出たそうです」


「数はどれくらい?」


「一万です。率いているのはゴットハルト大将軍とのことです」


「ルンデルもいよいよ本気ってことか」ゴットハルト将軍は、言わずと知れたルンデル三大将軍の筆頭である。彼が出て来たとなれば、ざわつくのも仕方がない。


「それと、リヒャルト閣下が軍議を開くとのことでした」


「わかった。すぐに行く」


 その後、すぐにリヒャルトはケルン城の一室で軍議を開いた。この軍議にはリヒャルト大将、アルス少将、オルター中将、フーゴ連隊長に加え、増援に来たフリッツ中将とリース中将が参加していた。


「諸君、聞いての通り北東のミュンスターからゴットハルト将軍が出撃したとの情報だ。これについて諸君の意見が聞きたい」リヒャルトが軍議の口火を切った。


「ゴットハルト将軍は武の塊のような人物だが」オスカー中将が腕を組みながら切り出す。


「先の大戦ではフライゼン城を攻めきれず退いている。守りに徹しておればなんとかなるのではないか?オットー中将は兵七百という寡兵かへいで戦い抜いたというぞ」オルター中将がフライゼン城の話をすると、これにフリッツ中将が嚙みついた。


「そもそもオットー中将が七百の兵で戦ったのはゴットハルト将軍が到着するまでの間だ。先の大戦でかろうじてフライゼン城を守り切れたのは、オットー中将の働きももちろんあるでしょうが、ベルンハルト殿下の貢献が大きい」


 フリッツ中将は戦場での活躍によって爵位を得た人物だ。彼の戦場での冷静な判断と武勇はローレンツの中でも一目置かれている。


 アルスはこの時、彼とは初対面であったが、僅かに感じる彼のオーラから並々ならぬ実力を感じた。


「そうだな。フライゼンの戦いにおいてはフリードリヒ陛下の参戦もあったが、それでも尚ベルンハルト殿下の武の力が無ければゴットハルトを退けることは敵わなかっただろう」そうリース中将が補足する。


「そうか、そうだな。ベルンハルト殿下の活躍は大きい。あの方の武の力があったからこそ我が国建国以来の最大の危機を撥ね退けることが出来たのだ」


 オルターが急に自分の意見を変え、ベルンハルトを持ち上げだした。ブラインファルク家としてはフリードリヒを否定するような流れを作り出しておきたいといったところなのだろう。


「それで、今回の本題、になるかと思うのだが、誰がゴットハルトを止めるか?だ」


「私が行こう。この中では私が適任だろう」オルターの問いにフリッツが答えた。


「私としては・・・・・・」


 リヒャルトが話し始めた途端、部屋のドアがノックされ兵士が入って来た。


「軍議中に申し訳ございません」


「なんだ?」


 オルターは軍議が一兵士に邪魔されたように感じたせいか、不機嫌な口調で入って来た兵士に視線を向ける。


「たった今また報告が入りまして、東のヘルネ城からも大軍が出撃したようです、その数一万!」


「ヘルネからも!?」


「率いているのはバートラム大将軍です!」


「ルンデルの三大将軍の残りふたりが同時にだと!?想定しなかったわけではないが、想定した中では最悪だな」


 リース将軍が兵士の報告を受けて、考え込むように視線を机上に広げられた地図に落とす。視線の先にはケルン城から両拠点までの進行ルートが描かれている。もちろん今回は攻めではなく、どう守るかの戦いになる。


「ああ、ひとりでも手こずるというのに、ゴットハルトとバートラムによる戦略的挟撃とは。果たしてどうしたものか・・・・・・」


 オルターの芝居がかった口調がどうにも面白い。この男は将軍などやめて演劇の役者でもやったほうがいいんじゃないだろうか?とアルスが思い始めていたところに、フリッツが現実に引き戻す問いをした。


「2将軍をわざわざ指を咥えて合流させる手はありません。ゴットハルトは私が対処するとして、バートラムは誰が当たりますか?」


「僕が行きましょう」


 そこで初めてアルスは軍議にて発言した。このアルスの発言にキョトンとしていたのは増援を率いた二将軍だった。ローレンツの魔素無し王子ともっぱらの評判で有名なアルスが、まさかルンデルの三大将軍相手に手を挙げるとは思ってもいなかったからである。


「しかし殿下・・・・・・」フリッツが反論しようとしたが、リヒャルトが賛同した。


「アルトゥース殿下が行ってくれるならば心強い、お願いいたします」


「しかし、リヒャルト伯爵、いくらなんでも・・・・・・その・・・・・・」


「いえ、けいらはご存知ないだけです、アルトゥース殿下の強さを。私は何度もこの戦場にて助けられました。それはオルター殿も同意して頂けるのでは?」


「う・・・・・・ま、まぁ」


 オルターは言い辛そうに言葉を濁しながらも同意せざるを得なかった。敵の将であるオイゲンやヘルムートを捕らえ、戦場の決定的な勝利を引き寄せたのは全てアルス隊によるものだったからだ。


 フリッツはしばらく考えていたようであったが、リヒャルトの様子と周りの様子を見て何かを感じたようだった。


「わかりました。それでは、バートラムはアルトゥース殿下にお任せ致します」


 会議はその後も細かい部分を話し合い、北東から接近しつつあるゴットハルトにはリヒャルト大将、フリッツ中将の二部隊。東のバートラムにはオルター中将、リース中将、アルス少将の三部隊が当たり、フーゴ連隊長はケルン城の守りを固めてもらうということで散会となった。


 アルスは軍議で決まったことを部隊長を呼んで伝えた。


挿絵(By みてみん)


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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