訓練とマリア親衛隊!?
一方、ケルン州が敵の手に落ちたことでルンデルの王都レムシャイトでは連日エドアルト王の配下により軍議が開かれた。しかし、この会議にエドアルト王本人の姿は無い。
「エドアルト王は今日も欠席か」
「こんな危急の時に陛下は何をしてらっしゃるのか・・・・・・」
「昨夜も遅くまで女たちとお戯れだったとか・・・・・・」
「先代のオルノア王がご存命ならな、今では」
「致し方あるまい、我らだけで対応策を出せとのご命令だ。ケルンの次はミュンスターかヘルネが狙われるであろうな」
「ヘルネにはバートラム大将軍がいる、問題はミュンスターだな。早急に守りを固めねばなるまい」
貴族たちが話し合っていると、重々しい両開きの扉が勢いよくバンと開いた。そこには扉の高さとほぼ同じくらいの大男が立っている。
衣服の隙間から見える腕や肩の筋肉は山のようであり、髭は四方八方に伸び、森のようである。突然の大男の登場に貴族たちはぽかんとしていたが、誰かが叫んだ。
「ゴットハルト将軍!?なぜあなたがここに?」
「何故って、ケルンに行くに決まってんだろ」
ゴットハルトは何をバカなことを聞いているんだとばかりに答える。実際、まさかそんな質問をここに来てされるとは思ってもいなかったのだ。
「え?」
「なんだ、聞いてないのか?」
「私たちは今まさにケルンに対する軍議を行っているところだったのですが」
「俺が来たのはさっき陛下に呼ばれたからだ。それでケルン奪還の命を受けたんでな。だがそういうことか、チッ」
ゴットハルトは彼らの反応を見て大きく舌打ちをした。
「どういうことなんですか?」
「おまえら、どう言われたんだ?」
「私たちは、陛下からケルン奪還の戦略を練って結論が出次第、陛下にお伝えする予定でした」
「てことは、お前らが作戦立案するっていう命令を通り越して俺が出張るって結論が出たわけだ。こんな矛盾した命令が出るってことは、つまりまた商会の人間の言いなりってことよ」
前回の貴族の反乱の嫌な記憶を思い出す。五百程度の小規模な反乱だと聞いていたから同程度の兵数で出兵したのだ。それが、会敵したら実際の敵の数は五千である。事前に報告にあった兵数の十倍だ。情報の出元はどこだ?貧乏貴族に金を出して大量の傭兵を雇用するだけの金を出したのは?今回のことも含め全部繋がってる。
「なんと・・・・・・」
「まあ、グダグダ言っていてもしょうがないな。行ってくるとするわ」
そう言うとゴットハルトは入ってきた扉からまた出て行った。ゴットハルトがケルンから北東にあるミュンスター城に到着したのは3月の下旬である。ケルン城に王都からの使者と増援が来てからちょうど1週間が経っていた。
※※※※※
アルスは南海平原にてオイゲン将軍とヘルムート将軍を捕らえた功により、少将に昇進していた。また、リヒャルトもケルン城を無血開城した功が認められ大将に昇進した。
ヴェッセルン州とヘヴェデ州から派遣された兵1万が増強され、アルス隊は増援軍から編入された兵によって三千にまで膨れ上がった。兵1万を率いてきたのはフリッツ・フォン・ホーウェン中将とリース・フォン・ベール中将のふたりである。
ふたりは武勇に優れる将軍であり、特にフリッツ将軍は元々一般市民であったが、戦場で名を上げることによって貴族位に取り立てられた人物であった。
アルスは膨れ上がった隊の処理に悩んだ挙句、部隊長を第一から第十部隊に分け、それぞれの部隊長に二百の兵を任せた。ひとりひとりが一騎当千の部隊長であるため、緊急時にはすべての部隊が遊軍として自由に動けるようにしたのだ。
部隊が再編制されてからは、内政はリヒャルトに任せてもっぱら軍事訓練に勤しんでいる。アルス直下の兵と増援された兵との質が違いすぎるため、少しでもその差を埋める必要があった。
「遅い!んなチンタラチンタラ走ってたら日が暮れちまうぞっ!」フランツの怒声が訓練中に響く。
「ハァハァ、こ、こんなキツイ訓練初めてだ」
「フ、フランツ隊長は化け物だ、なんで俺たちと一緒にこんなに走って息ひとつ切れてないんだ?」
「お、おまえら、それ言うならあいつらだっておかしい」
新参兵士たちの間で話題になったのは、アルス隊にずっと所属している兵だった。それぞれの部隊長に均等に配置されたアルス隊の中核ともいうべき直属兵は普段からアルス隊部隊長による訓練を受けていたため、基礎体力が格段に向上している。それが一緒に訓練することで、新参兵との違いが如実に表れていたのだ。
「やってるね。あんまりやり過ぎて戦う前に潰さないでもらいたいけど」
「アルスさま、みんな頑張ってますよ」
アルスが独り言を言っていると、いつの間にか後ろからヴェルナーが来ていた。
「あれ?アイネは?」
「あいつも今は向こうで休憩取ってます」
「一緒に参加してるの?」
アルスは驚いた。ヴェルナーとアイネは元々顔見知りであったとはいえ、彼女がこんなに早く馴染んでいるとは思わなかったからである。恐らくそうなったのは、ヴェルナーの存在が大きいのだろう。それともうひとつ良かったのは、ヴェルナーの纏う雰囲気が明るくなったことだ。
「ええ、お陰で他の兵士たちがうるさいんですけどね」
「どういうこと?」
「ほら、男臭い中に女の子が混じってやってるんで」
ヴェルナーはそう言いながら苦笑した。
「ああ、ははは」
「まぁ、それで妙にやる気になってくれてるみたいでいいんですけど。あ、そういえば、マリアのとこはもっと凄いことになってますよ。あそこ見てください」
ヴェルナーが指で示した部隊はちょっと異様な空気だった。
「マリア隊長ぉぉぉぉLOVE!おお!」「「「「「LOVE!おお!」」」」」
「マリア隊長のためなら!」「「「「「死ねる!おお!」」」」」
「・・・・・・な、なにあれ・・・・・・?掛け声なんかおかしくない!?」
思わず素っ頓狂な声を上げるアルス。それを聞いてヴェルナーはまたも苦笑いしながら答えた。
「部隊分けの時凄かったんですよ。みんなマリアの部隊に入りたがって喧嘩が絶えなかったそうです」
「そ、そうなんだ・・・・・・まぁ、やる気が出るのはいいことだね」
「なんか方向性が違う気もしますけどね」
「うん・・・・・・大丈夫だろうか、うちの隊・・・・・・」
そんななか突然の訃報がアルスたちの元に届いた。
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