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ルンデルという国~さらなる進軍へ

ケルン城に向かって行軍しているなか、フランツがアルスの傍までやって来た。


「コーネリアスの爺さんには、結局最後まで勝たせてもらえなかったな」


「そうだね、フランツは勝ちたかった?」


「んー、散々邪魔されたからなぁ。なんか勝ち逃げされた気分でよ」


 フランツはスッキリしないといった表情で空を見上げる。アルス隊の行動を封じられ、最後はまともに戦う事すら出来なかったのだ。正面から戦って勝ちたかったというフランツの気持ちもわかる気がする。


「あはは、確かにやられっぱなしになっちゃったね。でも立派な将軍だったよ」


「そうだな。まぁ、でも」


「ん?」


「いや、それだけ知恵が回っても三大ギルド相手には無力だったのかと思ってさ」


「うーん」


 アルスには、わからなかった。あれだけ先見の明がある将軍が政治・経済という戦場ではやられっぱなしだったのか?とはいえ、ケルンの一領主であるコーネリアスがどこまで国の政策に抗えたのかは疑問だ。


「アルスさま、それはちょっと違います」アルスが振り向くと、いつの間にか後ろにヴェルナーとアイネが来ていた。ヴェルナーはリッカールトに抉られた腹を包帯でグルグル巻きにしている。


「ヴェルナー、傷のほうは大丈夫かい?」


「ええ、これぐらいなんともありません」


「それより、コーネリアス将軍はむしろ三大ギルドの進出を抑えていた人だったようです」


「でもよ、ランツベルクって港町は完全にやられちゃってるんだろ?」


 フランツが言っているのは、先日の会議でヴェルナーが話していたことだ。ランツベルクが既に三大ギルドの支配下にあるとヴェルナーが語っていたことを、フランツはしっかり覚えていた。


「待って、それならあたしから話すよ」アイネはヴェルナーが答えようとするのを制して続けた。


「ランツベルクに三大ギルドが入らないように働きかけてたのは将軍なの」


「それならどうして支配されちまったんだ?」フランツはアイネに尋ねた。


「将軍はね、ランツベルク郡の領主に何度も三大ギルドの危険性を説いていたの。最初は大人しく聞いていたらしいわ。でもね、ある日を境に領主の態度が一変したのよ」


「なぜだ?」怪訝そうな顔でフランツは質問を重ねる。


「三大ギルドから相当な資金がその領主に流れ込んだと将軍は言っていたわ。要するに買収ね。でも、将軍はケルン州をまとめる領主だから、その後も州法を変えたりして三大ギルドの浸透工作に抵抗していたのよ。そしたら、エドアルト王まで出てきて三大ギルドを入れろと迫ったの」


 国王が三大ギルドに買収されていたとすれば、先の無理なローレンツ侵攻にも説明が付く。アルスがずっと疑問に思っていた答えをアイネは持っていた。


「彼らはランツベルクに莫大な投資をするって持ち掛けたらしいわ。桁違いな金額の取引だったと噂になってる。それで将軍は泣く泣くランツベルクに三大ギルドを入れるしかなくなったの。あとは知っての通りよ。でも、その代わりに他の街には絶対に入れなかったのよ」


「なるほど、だからか。俺とおまえが会った街、ギースだったか。あの街には変な違和感は感じなかった」


 ヴェルナーはアイネの説明を聞いて納得した。ギースはコーネリアスが守り抜いた街のひとつだった。


「そうね」


「ということは、ケルン州はまだほかに比べてマシだってことになるのか」アルスが呟くとアイネは国に対する怒りをぶちまけた。


「全然マシ!この国は王族が腐ってんのよ。自分の国なのに三大ギルドにどんどん売り飛ばして、守らなきゃいけない国民は売り飛ばされようが、奴隷にされようが放置したまんまなんだから」


「国の権益を売り飛ばしていけば税収は当然減る。苦しくなって次から次へと、ということか」アルスが独り言ちるとフランツが反応した。


「でもよ、なんでそんな誰でもわかるバカなことやってんの?」フランツが頭を指して指でクルクルしている。


「先代の王までは良かったんだけどね。息子のエドアルト王に変わってから全ておかしくなったんだよ」アイネのため息交じりの答えにアルスが続けた。


「よくある話だね。でもこれで去年ルンデルがローレンツに攻めてきた理由がわかったよ」


「武器か?」


「武器だけじゃない、恐らく軍備に関する全てだ。傭兵や物資含めて三大ギルドは売りつけてたんだろうね」


 フランツの疑問に自身の推測をアルスは説明した。話すことで頭を整理していく。軍事は呼び水であって、そこをきっかけにして国が有する権益をひとつひとつ引き剝がしていく。そして、気が付いた時には統治者は三大ギルドにすり替わっている。そこが彼らの最終目標なのかもしれない。


「投資した分を回収するためってことだな。それで国が潰れるまで戦争起こされちゃたまんねぇな」


「そうだね。こんなこと、終わらせないといけない」


 ローレンツ軍は行軍を速め、ルンデル国内から援軍が到着する前にケルン城の城門前に陣を張った。城内に残っていた兵はローレンツ軍が現れると騒然とした。城主であったコーネリアス将軍が敗れるとは思ってなかったからである。


 また、城内からはほぼ全軍が出撃しており、ほとんど兵が残っていなかった。リヒャルトは城兵に向かって、城兵の命と安全を確保すると約束し降伏するよう呼びかけた。


 城内で話し合ったのだろう。一時間ほどして再び城兵が現れ、降伏を受け入れることを伝えた。


 こうしてローレンツ軍は、ケルン城の無血開城に成功し、さらに東へと領地を拡げることに成功した。リヒャルト、アルス、オルターは軍容を整えるためしばらく留まることになった。


 この報せはすぐに王都にいるフリードリヒにも伝わった。


 やってくれたなアルス!この調子で貴族を説得する材料を提供してくれれば、ベルンハルトに傾いた奴らを黙らせることができる、頼むぞ。フリードリヒはすぐに増援をケルンに向けて送るよう指示を出す。


 アルスたちの元にフリードリヒからの使者と増援軍が到着したのは、三月半ばだった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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