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幕引き

「コケ脅しが!!」


 リッカールトは馬から飛び降りざまにヴェルナーに向かって剣を打ち下ろす。それをヴェルナーは二刀で受け止める。ギィィィィィンという剣撃の音が響き渡るのを皮切りにリッカールトのオーラが大きく揺らめくと剣速と剣圧は加速度的に増していく。


 横に薙ぎ、さらに薙ぎ、突き、打ち上げ、斜めから打ち下ろす。その全てを測ったように寸分の狂いなくヴェルナーは最小限の動きで受け流していく。全ての攻撃が最小限の衝撃で軌道をひたすらズラされる。相手からすれば川の清流に向かって攻撃をしている感覚に陥る。鉄壁の防御を誇る清流のヴェルナー、彼の異名の所以はここにある。

 

「なら、これならどうだ!!!」


 リッカールトは距離を取りオーラを解放するとビリビリと大気が震え始める。剣に集束したオーラを連撃で飛ばすと、集束されたエネルギーが無数の斬撃となってヴェルナーに襲い掛かった。しかし、ヴェルナーはオーラを剣に纏わせ、この無数の斬撃も難なく全て防ぎ切る。


 俺から父であるコーネリアス将軍を奪い、アイネもたぶらかしたというのかコイツは!どうしても殺さねばならない、コイツだけはどうしても。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」リッカールトは全解放したオーラをそのまま一撃に込める。そして、限界まで高めた身体能力で踏み込む。


ドンッ!!!!


 足がめり込むほどの踏み込みと共にリッカールトの姿が余りの速さに眼前から消えたように映る。刹那、剣を大上段に構えたままヴェルナーの前に現れると、リッカールトの全オーラを剣圧に乗せた最大の一撃が放たれた。


「次元斬!!!!」



ギャリリリリリリリリリリリ!!!!!!



 金属と金属が火花を散らしながら擦れ合う音が戦場に響き渡る。極大の剣圧を受け止めながらも、その圧倒的な圧力は受け止めたヴェルナーの身体ごと物凄い勢いで後ろに押し流していく。


 しかし、それでもヴェルナーはリッカールトの最大の一撃を正面から受け止めきった。と同時に、剣で組み合ったまま、ヴェルナーから放出されるオーラは激流のように溢れ始めた。柄に埋め込まれた結晶石が強烈な青い光を放ち始める。  


 咄嗟にそれを見てリッカールトは距離を取った。


八重(やえ)風巻(しまき)


 ヴェルナーの剣の周りにつむじ風が巻き起こる。今度はヴェルナーの二刀による凄まじく苛烈な連撃にリッカールトは防戦一方になった。ヴェルナーの二刀から繰り出される攻撃は一刀より手数が多く、一撃一撃の剣圧が重い。


 そしてなにより、剣に(まと)わりつく()じるような風の風圧によってリッカールトの剣自体が弾き飛ばされそうになる。リッカールトの剣はヴェルナーの風の刃を受け止めるたびに刃が削れ刀身がボロボロになっていくと、それ以上の斬撃には耐えられず刀身が折れ、撥ね飛ばされてしまった。


「なっ!?」


 瞬時に距離を詰めたヴェルナーは、剣を持ったまま思い切り腹を殴る。ズドンッという鈍い音がすると、リッカールトはそのまま気を失った。


 ヴェルナーは戦いを見守っていたルンデル兵に向かって連れていくよう声を掛けた。気絶したままリッカールトはルンデル兵の小隊によって運ばれ、彼らは慌てて引き返して行った。


「リッカールト・・・・・・」


 少し呆然としていたアイネだったが、さすがに隊長である。しばらくして落ち着きを取り戻した。


「すまない、アイネ」


「ううん、あいつが悪いのよ」


 ヴェルナーはアイネの目を見て、口を開こうとしたが押し殺すようにして視線を逸らした。何かを考えているようだったが、やがて意を決したようにまた彼女と向き合った。


「正直に言う。アイネ、俺は。俺は、たぶん、おまえに惹かれている」


 アイネは一瞬、驚いた表情を見せたが、そのまま黙って聞いていた。


「こんな時に、こんな場所で言う事じゃないってのはわかってる。アイネ、あの時、言いそびれたんだが、俺とおまえの境遇は違うようで似てる。ランツベルクの話をおまえから聞いた時、俺は思ったんだ。おまえのいる場所はそこじゃないって」


 アイネは黙ったまま聞いていた。ヴェルナーは更に続ける。


「俺は確かに今ローレンツ軍の兵士だ。三大ギルドはローレンツもルンデルと同じように浸食しようとしている。もし三大ギルドが地方から浸食していき、やがては王朝の政治機構にまで入り込めば、ルンデルと同じ、いや、第二のランツベルクになってしまうだろう。そうなれば俺やおまえのような境遇の子供たちがこれからも増え続けることになる」


 ヴェルナーはアイネの目を真っすぐに見据え話を続ける。あの時伝えきれなかったことを一気に吐き出すように。


「だが、アルスさまは三大ギルドの脅威をよくわかってる、ノルディッヒ州で三大ギルドの進出を身を挺して排除したのもアルスさまだ。だから俺はローレンツのためだけじゃない、アルスさまのため、三大ギルドを駆逐するために戦ってるんだ。だから。だから、アイネ、俺と来てくれないか?」


 アイネはずっと黙ってヴェルナーの話を聞いていた。しばらくの沈黙の後、アイネは答えた。


「・・・・・・いいよ、わかった。あなたに付いて行く。ていうか、あたしに選択肢なさそうだしね」


「どういう意味だ?」


「あなたと戦っても勝てないもん」


「いや、俺は」


「あはは、いいよいいよ。あたしを守ってくれてありがと、ヴェルナー。でもあたしを連れて行くからには詳しく話を聞かせてもらうわよ、色々と聞きたいことがあるから」


 そう言うと、アイネは馬上から手を差し出す。ヴェルナーが痛む脇腹を抑えながらアイネを見上げると、ちょうど太陽の光が彼女の後ろから差し込んで来ていた。眩しそうに見上げるヴェルナーの瞳に映ったアイネは、優しく微笑んでいた。


「乗って。その怪我じゃ大変でしょ」


「すまない」


「ほんとだよ。捕虜に馬を操らせるなんてね、ふふ」


「あ、ああ」


 ふたりがアルス隊に戻ると、周りの部隊長や兵士たちからは好奇な目で見られた。


「おい、ヴェルナー、おまえそいつ・・・・・・」ギュンターが声を掛けるとアイネが反応した。


「ああ、あたしヴェルナーの捕虜なんで!お構いなく!」


「捕虜?」


「はははっ、ヴェルナー殿、その娘が例の少女ですな?」パトスが意味深に笑った。


 その後、アルス隊はルンデル軍左翼部隊を縦横無尽に切り裂いて自陣に戻った。ルンデル軍左翼はヘルムート将軍を失うことで完全に崩壊してしまっている。


 これを機と見たリヒャルトは全軍をカール将軍率いる部隊にぶつけた。左翼部隊と同時にヘルムート将軍まで失ったルンデル軍に既に戦意は無く、カール将軍の奮闘虚しく最後はリヒャルト自らが討ち取ることで決着が着いた。


 決着が着き、コーネリアス将軍がすでに亡くなっていることが軍に伝わると、アルスは複雑な思いだった。敵とはいえ不敗の将軍と恐れられた英雄である。彼に散々煮え湯を飲まされたローレンツ軍であったが、アルスはコーネリアス将軍に対して敬意を抱いていた。リヒャルトも同じであったようだ。胸に手を当てしばし目を閉じる。

 

 その後、リヒャルトは南海平原を抜けてそのままケルン城まで軍を進めていった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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