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離間の策

 ナルーガ将軍が中身を見てみるとコーネリアス将軍のサインで以下のようなことが書かれてあった。


「アルトゥース殿下、お元気でございましょうか。戦場での冬の厳しい寒さは身体に堪えるかと推察致します。あなたのお身体はローレンツにとって最も価値のあるどんな宝石よりも大切であると信じております。ところで・・・・・・」


 最後まで読んだナルーガは訳が分からないといった顔をした。


「なんだこれは?なんでこんなものを敵の大将が送って来る?」


 そう独り言つとオルター大将にその書状を送った。受け取ったオルターも全く訳が分からなかった。意味がわからなかったが、さすがにコーネリアスとアルスが繋がっているとは考えにくくオルターは相手にしなかった。


 しかし数日後、今度は、ところどころ文面が黒塗りにされている同じような書状がまた発見されオルターの下に届けられる。さすがにオルターも無視するわけにはいかず、アルスを呼び出して詰問した。


「これはどういうことですか殿下?」


 オルターはアルスに書状を見せて問いただした。


「アルトゥース殿下、お元気でございましょうか・・・・・・なんだこりゃ?」


「それはこちらの質問です。これはどういうことですか?何故コーネリアス将軍からこのような書状があなた宛てに書かれているのですか?」


 やられた・・・・・・!アルスはそう質問されて初めて相手の意図に気付いた。コーネリアス将軍はこちらが世継ぎ問題でゴタゴタしてるのを当然知ってるはず。それを利用された。通常ならこんな訳の分からない手紙は相手にされないだろう。


 しかし、こんな政情ではそれすら怪しまれる可能性がある。ましてオルターはベルンハルト派のブラインファルク家だ。


「オルター大将、これは間違いなく離間の策です。僕がコーネリアス将軍とどうやって通じることが出来るんですか。それはあなたがご存じのはずでしょう。しかもこんな訳の分からない手紙に何の意味があるんです?」


「それは・・・・・・ですが、殿下のいる右翼部隊は何故ずっと攻撃されないのですか?このような書状が届くようでは何か裏があると考えるのが当然では?」


「ですから、これは離間の策でしょう。それなら聞きますが、何故荷馬車の時は右翼も攻撃したんですか?オイゲン将軍を捕らえたのは僕の隊ですよ?」


「・・・・・・っ、わかりませんが、このような国情では何があっても不思議ではありません。兵たちも不安がります。失礼ですが殿下、殿下の疑いが晴れるまでは前線より退いて頂きます」


「・・・・・・っ!何を言っても無駄なようだね。わかった、僕抜きでやればいい」


「では、そうさせて頂きます」


 オルターは指示を出しアルス隊を右翼から外し後方に移した。オルター軍の横に配置して常に監視するという名目だった。


 このため右翼はフーゴ連隊長が率いる千にも満たない兵力になってしまったため、消耗したナルーガ少将の左翼に組み込んだ。これにより、中央軍であったリヒャルト中将は右翼に配置される。


 アルスは、コーネリアス将軍の思惑通り、完全に動きを封じられてしまったのである。ローレンツ軍の再編成の報告を受けてコーネリアス将軍は歓喜した。


 左翼のナルーガ将軍が猪突猛進であることを見抜いていたコーネリアスは、徹底的にローレンツ軍左翼を中心に擦り潰す戦術を展開した。わざと少数の騎兵でナルーガ軍の近くまで来させ罵倒させたのである。


「おまえのとこの将軍はこの程度の数で十分相手になるんだとよっ!」


「ははは、ヘタレ野郎っ!」


「おまえはここに何しに来た?ここに来てから負けっぱなしじゃないか?負けるのだけじゃなく捕虜になるのも得意なんだよな?」


「俺たちに教えてくれよ!どうやったらそんな見事に惨敗出来るんだ?ははっ」


「おのれっ!あいつら切り刻んでやるわ!」


 頭に血が上ったナルーガはすぐに号令をかけて左翼全軍で百騎めがけて突撃をした。その百騎は逃げながらも罵倒を続け、ナルーガはまんまと伏兵が潜んでいる森林地帯までおびき出されてしまう。


 そこで、またもやルンデル軍の伏兵による強烈な横撃が入った。伏兵により、ナルーガは釣り出されたことを悟り、混乱しつつも引き返そうとする。そこにカール将軍が突っ込んだ。カールはそこで挟撃にあっているナルーガ将軍の姿を見ると兵と同じように罵倒した。


「なんだ、ヘタレ将軍じゃないか。何度も同じ手に引っかかるとは見事なものだな。さぞかし歴史に残る偉業よな!」


「貴様かっ!こんなくだらない手を使いやがって!」


「はははっ、そのくだらない手に引っかかってるのはおまえのほうだろう!」


「黙れっ!」


 ナルーガはカールに向かって馬を突進させた。カールはその様子を見て「コーネリアス将軍の予測通りだな」と独り言ちた。突進してくるナルーガに向かってカールの後ろに待機させていた槍兵の槍が突き出された。


 ナルーガは自らの突進によって突き出された無数の槍に身体を貫かれたのである。


「き、さま・・・・・・」


 血にまみれながらもナルーガは憎しみの目でカール将軍を凝視した。


「誰が真正面から一騎打ちするなどと言った?つくづく愚かな男だ」


 カールはそう言い放つと踵を返し、将を失い動揺するローレンツ軍左翼を徹底的に殲滅していった。そこからはルンデル軍による一方的な展開となる。


 もはやそれは戦闘とはいえず、ただの虐殺だった。助けに入ろうとしたリヒャルト中将の動きもヘルムート軍により止められてしまい、もはやルンデル軍を止める者はいなかった。


 これを見たオルター大将は自ら兵を率いて左翼を救出する動きを見せたため、ルンデル軍の包囲が弱まる。その隙に左翼に組み入れらたフーゴ連隊長がなんとか軍を立て直し、ルンデル軍の包囲を破って生還することが出来たのである。 


挿絵(By みてみん)


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


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今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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