アルスの反撃
その中で唯一全く別の動きをしたのはアルス隊である。ピーーーーーーーッという鏑矢の音が辺りに響くと、アルス隊の兵士たちは一斉に配布された魔素水を飲んだ。これにより、兵士たちの身体は魔素の増強により一時的に更なる身体強化がされる。
アルスは荷馬車から煙が出た瞬間にルンデル軍の意図を読み取り、煙が充満していくなか、逆に荷馬車に向かって突進を号令した。
「一点突破で荷馬車を粉砕して奇襲をかける!」
「任せろ!」「了解ですぞ!」
フランツがオーラを込めて衝撃波を放つと煙が出た荷馬車は粉々に粉砕された。アルスもオーラを込めて正面の荷馬車を吹き飛ばす。煙で覆われる中からアルス隊は一気にルンデル軍の目の前に現れたように見えた。
慌てたのはルンデル軍の左翼を務めるオイゲン少将である。煙の中から急に現れた一団に対しては予期していなかったが、荷馬車に打ち込むはずの弓矢をアルス軍に集中させた。
「各隊、防御態勢を取りつつ全力突進!」アルスが叫ぶ。
ルンデル軍はアルス隊に対して無数の矢を打ち込んだ。空に打ち上げられた矢はアルス隊の上空から雨のように降って来た。
アルス隊は盾を上げながら矢を無視してそのまま走り続ける。そのまま矢はアルス隊に次々と直撃したが兵士たちの掲げる盾に刺さるか、あるいは部隊長たちの展開する硬質化したオーラにより矢が弾かれていく。矢に当たり倒れてゆく兵もいるが、突撃速度は一切緩まなかった。
「よし!そのまま突っ込むぞ!」アルスが号令を掛けると隊は一斉に突撃していく。
そのまま走り続けるアルス隊は弓を構えていたルンデル軍に激突。ルンデル兵たちは次々とアルス隊によって弾き飛ばされていく。
「なんだあの軍の突撃速度は!?」
若くして少将になったオイゲン将軍はアルス軍の余りの進軍速度に驚きを通り越して恐れを抱いた。
「我が軍に食いつかれた、くそっ!弓隊で揃えていたのが裏目に出るとは。装備を変えてあの部隊を止めろ!」
突撃するアルスの目に騎馬に乗り指揮を執る騎士の姿が目に入った。
「敵の将を狙う!」
アルス隊はそこから一直線にオイゲン将軍に向かって突撃する。そこからオイゲン将軍の近くまで来ると近くに迫っていたジュリがアルスに大声で了承を求めた。
「アルスさま!私が行くがいいか?」
「わかった!」
ジュリは無言で馬を飛び降りると、そのままルンデル兵たちの間を縫うように走った。凄まじい速度で兵を斬り裂きながら走るジュリにどの兵も恐怖により身体が硬直して反応することが出来ない。
そして、次の瞬間にはオイゲン将軍に飛び掛かる。
女!?いや、鬼?オイゲン将軍がそう思った瞬間にはジュリの手はオイゲン将軍の首を掴み、押さえつけていた。
「オイゲン将軍!」突然現れた異形の戦士に、あっという間に囚われたオイゲン将軍を見て周りにいた兵士たちが慌てて囲む。
「動くな!動けば貴様らの将軍の首がへし折れることになるぞ」
「く、将軍!」
「ぐ、女!離せっ」抵抗したオイゲンだったが、万力のような力で首を押さえつけられ、びくとも身体が動かなかった。
押さえつけられたまま左手で剣を鞘から抜こうとすると左肩に激痛が走った。肩が動かない?折れてる?外れてるのか・・・・・・。動こうとするとオイゲンの首の骨がミシミシと音を立てるほどにジュリの指が食い込んでくる。
あの一瞬で俺は左肩まで外れたらしい。尋常な力ではない、そう思った瞬間オイゲンは恐怖に顔を歪め、なんとか助けようとする兵士たちをダメだと手で制止した。もはや声も出ない。オイゲンは兵士たちが刺激して、下手に首にかかってる手に力が入れば、自分の首がへし折られると真に恐怖した。
オイゲンが制止したため、周りの兵士たちは手を出せないままだった。ジュリが馬の手綱を握りオイゲン将軍を乗せ、向かってくるアルス隊に合流する。ジュリが戻ってくるとアルスはすぐに向きを変え自陣に戻り始めた。
途中、将軍を助けようと向かってくる兵士もいたがアルス隊はそうした兵たちを蹴散らしながら全速力で戻った。将を捕虜に取られた状態の兵たちではそれ以上の判断は出来ず、アルス隊はあっさりと燃えている荷馬車の横を通って、煙の中に消え去っていく。
ローレンツ軍はこの戦いで二千を超える犠牲者を出したが、ルンデル軍は左翼の将を失うこととなった。
このことはルンデル軍大将であるコーネリアスを驚愕させる。コーネリアスは守りながらじわじわとローレンツ軍の数を減らしていく予定であった。長引けば、攻め手側の兵站にも負担がかかり経済的にも精神的にも不利になっていく。絡め手を使って相手の動きを封じるだけで自滅すると踏んでいたのである。
この報告を受けてコーネリアス将軍はすぐに軍を再編成した。捕らえられたオイゲン少将の兵の半数をそれぞれカール中将とヘルムート中将の軍に編入させ、戦術を練り直す必要に迫られたのである。
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。