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コーネリアスの罠

一方リヒャルト中央騎馬部隊は両側から出て来た伏兵に背後から食いつかれ、怒涛の攻めから一転、窮地に陥っていた。


「こんなところにまで伏兵を配置してたのか!?」


 士気は高いリヒャルト騎馬隊であったが、川中央の激流を渡り苛烈に攻め続けた影響で体力は限界に近づいていた。そのせいもあって襲われた後方部隊はみるみるうちに数を減らしていく。後退し続けていたコーネリアス本隊も反転攻勢に出ると、完全に包囲される格好になってしまった。


「くそっ、まずい。背を内側に向け円陣を組め!敵を近づけさせるなっ!」


「将軍、ダメですっ!背後も完全に包囲されました!」


「耐えろっ!包囲の薄いところを探すんだ!」


 時間が経過するごとにひとりまたひとりと敵兵に討ち取られていく様は、さながら蜘蛛の巣にかかった蝶のようであった。そのとき、兵のひとりが何かを発見して叫んだ!


「将軍!」


「なんだ!?」


「百騎ほどの騎兵がこちらに向かってきます!」


 リヒャルトが目を凝らすと、少数の部隊に王家の紋章の旗がはためいている。その部隊が物凄い速度でこちらに向かって来るのが見えた。


「殿下だ!今をおいてほかにない。この機を逃すな!」


「しかし、あんな小勢では・・・・・・」


「信じろ。殿下ならなんとかしてくれるはず!」


「はっ!」


「全軍!南西の方角に向かって突撃ぃぃぃ!」


 このリヒャルトの決死の突撃によって僅かに包囲が緩んだ。針でつついたような小さな変化である。しかし、その変化をアルスは見逃さなかった。


「リヒャルト伯爵・・・・・・全隊、あそこを一点突破する!」


 アルスは敵軍に近づくと、オーラを解放した。解放されたオーラはアルスの指を伝わり鞘に納められた刀の刃先一点に凝縮されていくと同時に柄に埋め込まれた結晶石が強烈な光を放ち始める。アルスはそのまま馬上で抜刀の構えを取った。


「抜刀術、紫電・一閃!」


 アルスが刀を抜き放つと同時に、一点に凝縮されたオーラが爆発的なエネルギーを伴って線状に放出される。放出されたエネルギーは壁を作っている前方の敵兵を一瞬のうちに真っ二つに切り裂いた。コーネリアス軍の包囲にぽっかりと穴が開き、アルス隊が突撃すると、それに呼応するかのようにリヒャルト騎馬隊も内側からも再度突撃した。


「殿下っ!」


「リヒャルト将軍!」


「ありがとうございます、助かりました!」


「礼はいいから、急いでここを抜けよう!」


「わかりました!」


 アルスとリヒャルトはコーネリアス本隊の包囲を抜けると、残りの隊を引き連れ南側で戦っているアルス隊と合流することに成功した。南側の川を渡って来た歩兵部隊とも合流すると、北側から角笛が鳴った。


 撤退の合図である。アルスの狙い通り、北と南、そして中央から同時侵攻することによりルンデル軍側は三方向の対応を迫られることになり、その隙にローレンツ軍本隊は守りの薄かった北側から渡河することに成功したのだ。これは、コーネリアスにとっては誤算である。

 

 そしてその日、ローレンツ軍は北側の渡河ポイントに陣地を構築し、そこでルンデル軍と睨み合うことになった。その日から二日間は激しい雨が降り、気温は一気に下がる。両軍は傷ついた部隊の再編制をしつつ睨み合ったまま動くことはなかった。

 そんななか、アルスとリヒャルトは天幕のなかで今後の展開について話し合っていた。


「今は雨が降ってるけど、晴れてから何か仕掛けてくるかもしれない」


「何かを待ってるということですか?」


「わからないけど、視界も悪いし。この激しい雨で動けば体力的にも削られるしね」


「ふむ。アルトゥース殿下、正直今のままでは負ける気がしてきました。何か良い案は無いでしょうか?」


「地の利は向こうにあるからなぁ。申し訳ないけど、今のところは何も・・・・・・相手の出方がわかれば対応の仕方もあるんだろうけど」


「ううむ、仕方ないですね。とにかく相手が動くまで待つしかなさそうですね」


「そうだね。いずれにしても晴れてから動くことになると思う」


 アルスとリヒャルトが話し合いをした次の日、三日目の朝は綺麗な青空が広がる。しかし、それでもオルターは動かなかった。両軍は睨み合ったままお昼を過ぎた頃、強い西風が吹き始めるとルンデル全軍が突如前進したのだ。


 それに合わせてローレンツ全軍も前進する命令が下る。ここで両軍は正面から激突することとなる。ある程度戦ったところでルンデル軍の中から無数の荷馬車が突撃してきた。


 それと同時にルンデル軍の各所から鏑矢かぶらやが飛ぶ。ピーーーーーーッという音とともに急速にルンデル軍は退き始め、それを追うようにしてローレンツ軍前衛部隊が突出する形になった。


 混乱のなかローレンツ軍は弓で突っ込んで来た荷馬車の御者を狙ったが、御者は乗っていない。しばらくするとルンデル軍から火矢が荷馬車に向けて放たれる。荷馬車には油をしみ込ませた特殊な柴が積まれていたらしく、ごうごうと音を立てて燃え始めた。


 風向きはローレンツ軍が展開する西向きに吹いており、やがて燃え始めた荷馬車から大量の煙が出始めローレンツ軍を包み始めた。


「おい、見えないぞ!」


「敵はどこだ?」


「わからん、ゴホッゴホッ、どうなってる?」


「うわっ!」


 あっという間にローレンツ軍は大混乱に陥った。煙は視界を防ぎ自分たちがどこにいるかもわからなくなっていたところへ大量の矢の雨が降って来たのだ。後ろに控えている軍には何が起こっているのかわからず、退却の鐘が鳴る頃にはローレンツ軍の損害は甚大なものになっていた。


挿絵(By みてみん)


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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