コーネリアスとアルス 知略合戦2
アルスは地図の上にある駒を動かしながら説明をした。その説明にふたりとも食い入るように聞く。
「今現在、コーネリアス軍は横陣を敷いているよね。それに対して我が軍も横陣を川に沿って敷いている。まず我が軍の騎馬隊を三隊に分けるんだ」
アルスはローレンツ軍の前に三つの駒を置き、上下の駒を川に沿って動かしていく。
「そして、敵にわざとバレるようにして騎馬隊を北と南へ移動させる」
「バレるようにしたら奇襲の意味がないのでは?」
「もちろん、余りにわざとらしい動きもダメだよ。あくまで自然に、ね。でもいいんだ。この場合、コーネリアス将軍としても南北の敵に対応せざるを得なくなるはず。そうなれば、必然的に中央の本陣は薄くなる。そこが狙い目さ」
「なるほど、同時に侵攻しながら中央からも強行突破を図るというわけですか!」
リヒャルトは大きく頷きながら手をポンと叩く。先ほどアルスが中央の川について渡河が可能かどうか尋ねた理由が繋がったというわけだ。
「うん、簡単に言えばそういうこと。ただし、相手の出方次第だね。相手が南北の騎馬隊に大きく反応した場合、相手本陣の兵力はかなり薄くなる。そうなればこちらの中央軍が主攻として強行突破を図るのは有効だと思うけど、それほど反応が無い場合は渡河はせずに引き付けるぐらいで良いと思う。その場合の主攻は両翼の騎馬隊が担うことになる。そして、押し込んでいる間に北か南からこちらの本隊ごと渡河してしまえばいい」
「いける!これならいけますよ殿下!」
「どうかな?だといいんだけどね。というわけで、これをリヒャルト中将からオルター大将に提案してくれないかな?」
「どうしてです?」
「僕が提案しても無視されそうだからね」
アルスは前回、オルターに提言したことを思い出し苦笑いした。アルスからこれをオルターに提案したところで話を聞いてもらえない気がする。鼻で笑われるのがオチだ。リヒャルトがパイプ役になってくれたほうがアルスとしても助かる。
※※※※※※
リヒャルトがオルターに提案している頃、コーネリアス陣営でも軍議が開かれていた。コーネリアスは渡河した後は後方に配置してあった糧食庫から補給をして部隊を休ませ、一息ついていたところであった。
軍議の口火を切ったのはオイゲン少将である。
「コーネリアス将軍、申し訳ありませんでした。私の奇襲するタイミングが早く敵の背後を突いたつもりが逆に私が突かれてしまいました」
「ふぉっふぉ。良い良い。全体としては今までのところ上々の出来よ。しかし、相手右翼はフーゴ連隊長とアルトゥース王子じゃったな。はて、どちらが背後を突いたのかは気になるところじゃの」
「それが、暗くてどちらの隊だったのかがわかりませんでした。面目ございません。ただ・・・・・・」
オイゲン少将はそこまで言いかけて、口をつぐんだのをコーネリアスは見逃さなかった。
「ふむ、ただ・・・・・・?」コーネリアスの問いに慌ててオイゲンは続ける。
「ああ、いえ。ただの私の感想なのですが。私の部隊の背後を突いた敵の強さは私が今まで経験したなかで最も恐ろしい敵でした」
「恐ろしい敵?」
「ええ、私がいくら背後から突かれたと言っても部隊を立て直す暇さえありませんでした。あっという間に半壊状態にされてしまったのです」
「なるほどのお。ということは、敵には恐ろしく強い者がいるということだの」
「コーネリアス閣下、あの者を使いますか?」
ふたりのやり取りを黙って聞いていたカール中将がコーネリアスに尋ねると老将は困り顔をした。
「ふむぅ・・・・・・正直、あんまり気が進まんが」
「あの者とは?」オイゲンが尋ねると、ヘルムートが説明をする。
「元々は剣闘士でな。強さにおいては文句ない。北の地で数々の大会で優勝を重ねていた男だ」
「なるほど」
「ところが、素行が悪くてな。器物損壊、盗みに強盗、強姦、数え上げたらキリがない。本来なら死刑になってもおかしくない男だったが。殺人だけはしてなかったので、私がコーネリアス将軍に頼み込んで生かしてもらっている」
「それは、なぜですか?」オイゲンが尋ねると、ヘルムートはため息をついた。
「私の弟だからだ」
「なんと・・・・・・」
オイゲンとしては、上司の手前それ以上は突っ込みづらい。自分から聞いてしまったものの、なんとコメントしていいかもわからなかったが、構わずヘルムートは続けた。
「今は本人を説得し犯罪を抑えている。しかし、戦場に立たせると代わりに高額の金品を要求するようになったのだ。だから正直使いづらい」
そこまでヘルムートが説明すると、コーネリアスも口を開いた。
「渋っていても仕方ないの。ヘルムート、ゲルハルトを呼んで参れ」
コーネリアスは短く息を吐くと、意を決したように指示を出した。しばらくすると、ヘルムートと共に現れたのはヘルムートと同じ背格好の男であった。しかし、男の腕の筋肉だけでもヘルムートの倍はあろうかというほどである。
「ようっ、爺さん!久しぶりだな。俺を呼んだってことは相当困ってるってことだな?」男はニカっと白い歯を見せて笑うと手を挙げて挨拶をした。
「やめろっ!コーネリアス将軍になんて態度を取るんだおまえは!」
ヘルムートが注意してもお構いなしである。コーネリアスは溜め息をつきながら頷いた。
「そうじゃな、困っておる。力を貸してはくれんか?」
「はははっ!そうこなくちゃ。素直なジジイは嫌いじゃないぜ?で、誰を殺ればいいんだ?」
「おまえはっ!」
ヘルムートが止めに入るのを、コーネリアスは手を挙げて制止した。
「ローレンツ軍の右翼部隊を止めて欲しい」
「その右翼ってのは誰が引っ張ってんだ?」
「右翼部隊を率いておるのはフーゴ連隊長とアルトゥース王子じゃな」
「王子!王子かぁ~、そりゃあ良い響きだなぁ。王子、王子・・・・・・一国の王子ともなれば高くつくぜぇ~?」
またも止めに入るヘルムートを制止しつつコーネリアスは続けた。
「わかっておる。だが、その分キッチリと仕事はしてもらいたい」
ゲルハルトがその場で提示した金額はとてつもない値ではあったが、コーネリアスは無言で頷いた。
「オッケ~、契約成立だ。これでお互いハッピーだなぁ爺さん♪詳細は書類にまとめて報せてくれ」
そう言うと、ゲルハルトは天幕を勝手に出て行ってしまった。その場にいた一同全員から溜め息が漏れ出たのは言うまでもない。
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