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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
序章

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アルス軍 VS ヨーゼフ軍 (総合演習1)

 エルム歴734年、演習当日。広大な演習場は、人と馬の喧騒で埋め尽くされていた。武器の刃は潰してあるが、魔素による身体強化が禁止されていても、衝撃は痛みを伴い、当たり所が悪ければ失神や怪我もあり得る。


 各所に配置された判定員が当たり判定を下すが、彼ら自身が矢や衝撃で負傷することもあるほどだ。演習とはいえ、実戦さながらの緊張感が漂う。勝敗は制限時間内の残存兵数、将軍の討ち死に、または拠点陥落で決まる。角笛が鳴り響くと、400人の生徒が二つの陣営に分かれ、動き出した。


 演習場は南北に長い長方形で、アルスチームは最南端、ヨーゼフチームは最北端からスタート。中央の平野で両軍が激突する地形だ。西側には南北に伸びる森、東側には丘陵が広がり、戦術の鍵を握る。


「まるで騎馬戦で戦ってくれって言ってるような地形だなこれじゃ・・・。当然、敵もそう考えてるだろうな」アルスが独り言を呟く。戦場を俯瞰するように、頭の中で地形と兵力を整理していく。


 アルスは隊を騎馬134人、歩兵兼弓兵70人、残りを伝令と索敵に割り振った。騎馬の数は貴族の意向で動かせなかったが、歩兵と弓兵の配置に心を砕いた。いくつかの戦術が頭をよぎる。時間をかけて被害を抑えつつ勝利する方法もあったが、アルスは最短で決着をつける道を選んだ。ヨーゼフの思考と感情的な指揮を逆手に取り、迅速に戦局を支配する――それがアルスの狙いだった。



 角笛が響き、戦場が動き出す。ヨーゼフが中央に騎馬隊を押し進めると、アルスも騎馬隊を前進させた。だが、アルスの真の狙いは右翼にあった。


「フランツ、右翼を率いて突っ込め!」と命じると、フランツは少数の騎馬兵を率いて突進。敵左翼に突撃しては退き、突撃しては退くを繰り返した。この動きに引き寄せられたヨーゼフ軍の左翼は、まるで吸い寄せられるように前進し、細長く引きずり出されていく。


 そこへ、アルスが待機させていた予備兵力を一気に投入。横から敵左翼に突撃し、フランツの部隊と連携して敵を前後で分断した。分断されたヨーゼフ軍の左翼は、フランツの独壇場と化した。フランツの剣が閃くたび、敵兵が次々と討ち取られ、落馬していく。


「どうしたぁ?ブラインファルク家ってのはこの程度か!?まったく歯ごたえがねぇぞ!」


 フランツの挑発が戦場に響き渡る。剣捌きはまるで嵐のようで、敵の集団攻撃も軽くいなされ、次々と崩れ落ちた。やがて、フランツを恐れた敵兵が後退を始め、周囲に空間が生まれる。戦場での恐怖は伝染し、ヨーゼフ軍の左翼は一気に防衛線を失い、陣形が崩壊した。


 ヨーゼフは自軍の不甲斐なさに怒りを爆発させた。


「くそが!あんな平民出のドブネズミにでかい態度を取らせるな!おい、そこのおまえ何やってるんだ!退くな!」


 プライドの高いヨーゼフは、フランツの挑発に我を忘れた。


「右翼をあいつに向かわせろ!潰してやらねば気が済まん!」


「ヨーゼフさま、お気持ちはわかりますが今右翼を向かわせてしまったら全体の陣形まで崩れてしまいます」


 側近の生徒が必死に諫めたが、ヨーゼフは聞く耳を持たない。


「俺が黙ってあんなドブネズミに笑われてろってのか!?ふざけるなっ!早くしろ!」渋々、右翼がフランツに向かう。フランツはニヤリと笑った。


「ハハハ!アルスの言う通りになったな」


 一方、ヴェルナーとエミールは歩兵部隊を率いて東の丘陵に向かっていた。途中、敵の歩兵と遭遇戦になったが、エミールの正確無比な射撃とヴェルナーの二刀流の突破力で、難なく丘陵を占拠。ヨーゼフの戦術ミスとアルスの巧妙な誘導が、この成功を支えていた。


 アルスは事前に左翼側に旗を多く配置し、中央での騎馬による決着を避け、西の森に兵力を集中させるかのような錯覚を仕掛けた。遠目には、森に大軍が潜んでいるように見える。ヨーゼフはこれに釣られ、森を警戒して兵力を分散。


 結果的に丘陵に割く兵力が薄くなり、ヴェルナーとエミールは容易に占拠できた。実は、アルスは森にほとんど兵を配置せず、中央と右翼に兵力を集中させていた。戦場での数的優位を、戦う前から確立していたのだ。フランツの挑発でヨーゼフの意識が森から逸れると、アルス側は中央と丘陵での一方的な展開を築き上げた。

いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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