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ラヴァ・アダマンティウム

 エミールとガルダは捕らえていた商人たちを解放し、王都に赴いた。彼らは王都に着くなりガートウィン工房へと向かう。鍛冶ギルドの看板があちこちに並んでいる通りには、相変わらず人でごった返している。その中でもひと際大きな店がガートウィン工房だ。看板には銀の聖杯のトレードマークが描かれており、ガートウィンの文字が刻まれていた。


 ふたりが店内に入るとマルタと名乗るガートウィンの妻がふたりに話しかけてきた。


「まぁ、あなた方メリア鉱山まで行ってらしたの!?でも、あそこには野盗が占拠してるって話じゃなかったかしら?」


「私らが片づけましたな」


「そうなのそうなの!?それは凄いわね!詳しくお話を聞かせて頂いてもよろしいかしら?」マルタは目をキラキラ輝かせて、ズイズイとふたりに迫って来る。


「ええ、そうしたいのはやまやまなのですが、僕らはガートウィンさんにこの鉱石をお渡ししなくちゃいけないんです」


 エミールがそう言うとマルタは「どれどれ?」と言って木箱の中を覗き込んだ。


「凄いですわね。あらほんとにこれアダマンティウム鉱石ですわ」


 さすがに、一流鍛冶師の嫁なだけあって鉱石を見ただけで一瞬で判断してしまう。ふたりは感心するものの、ガートウィンの奥さんと長話しをしてる場合ではない。


「ええ、ですのでガートウィンさんに」


「旦那は奥で作業やってるからいつでも会えますわ。それより詳しくお話を聞かせてちょうだい!」


 そんな調子で押し切られてしまい、渋々事の顛末を話して聞かせた。マルタ夫人は本当に話好きで一通りその冒険譚を聞くと、すごいすごいと感想を述べてから今度はまるで違う日常の話を延々と始める始末。


「それでね、うちのワンちゃんときたら・・・・・・」


「おい、何やってんだマルタ!おめぇまた俺の客をとっ捕まえて話し込みやがって」


 たまたま店の奥から出て来たガートウィンの姿にエミールとガルダたちは心底ほっとした。ガートウィンが来なかったらあと何時間続いたんだろうか。


「ぼく、ガートウィンさんが神様みたいに思えて来た・・・・・・」


「エミール殿、その気持ち、よくわかります・・・・・・」ガルダがぐったりした様子でエミールに賛同する。


 ふたりはガートウィンに連れられて奥の商談部屋に入った。そこでガートウィンに持ってきた木箱を開いて中身を見せる。ガートウィンは丹念に鉱石をひとつひとつ調べていく。そして、最後の木箱の蓋を開いて鉱石を取り出すとガートウィンは明らかに驚いた様子だった。


「なんてこった。こりゃおめえたちどこで見つけた?」


「え?メリア鉱山ですけども・・・・・・」


「んなこたぁわかってる。この赤い鉱石はこれだけか?他にはなかったか?」


 ガートウィンの慌て振りは少し異常だった。


「それだけですけど。あの、それがどうしたんですか?」


 いまいち状況が飲み込めないエミールが質問をするとガートウィンは少し落ち着きを取り戻したようだった。


「こいつぁな、ラヴァだ」


「ラヴァ?」


「ラヴァ・アダマンティウム。生きた鉱石って呼ばれてる伝説の鉱石だ」


「え?私はアダマンティウム鉱石が変質してしまって価値がないって話を聞いていたのですがな」


 ガルダがキョトンとした感じで返答するのを聞いて、思わずガートウィンは声を荒げる。


「価値がない!?とんでもない!これひとつで国が買えるわ!」


「「ええええええええ!?」」


「いいか、おめぇたちちょっと来い。これを見てろ」


 そう言って、ガートウィンはハンマーを持ってきた。ガートウィンのハンマーを持った手が震えている。彼が赤い鉱石を叩くと、キィィィィィィンという音と共に叩かれた部分から波紋が広がり、鈍く赤い光を放った。


ガートウィンの説明によれば、この鉱石は、どの鉱石よりも硬いくせに鋼より比重は軽いらしい。永久不変で折れず、錆びもせず、熱伝導率も異常なまでに高いそうだ。アダマンティウムが長い年月の間に、何らかの変性を起こしたものをラヴァ・アダマンティウムと呼んでいる。とのことだった。


「そんなに凄いものだったのですか?」


「俺は一度だけ、たった一度だけこいつを加工したことがあったんだわ。だが、こんな大量のラヴァじゃなかった。ほんの少量、せいぜいそれで果物ナイフを作っただけだ。だけど、それでもそんときゃ大騒ぎでな。この鉱石が見つかること自体が歴史に残るくらいの発見なんだわ」


「これもアダマンティウムだと思って持ってきただけだったのに」


「これだけの量があれば一本剣が作れるわな。殿下に伝えてくれ、俺はこれから人生掛けて最高の剣を作ると。ああ、それから材料がこれだけあればアダマンティウム鉱石はもう十分だわ。値段も加工料だけ頂くとするわな」


「いくらくらいになりそうですかな?」ガルダが尋ねると、ガートウィンは顎をさすりながら少し考えていた。通常の鍛冶依頼ではない。これだけのアダマンティウムの加工に加えラヴァ・アダマンティウムまである。鍛冶人生でも生涯に一度あるかないかの大仕事になる。


「そうさな、一本三千万ディナーリと言いたいところだが材料も持って来てくれたし、何よりこんな面白い経験をさせてくれるんなら少し負けとくわい。ただし、ラヴァの加工に関しては値段は今は決められんな」


「というと?」


「出来次第ってとこかいな、俺も職人だ。全身全霊で取り組むんで、その出来次第で加工料金を決めさせてもらうことにするっちゅうこった」


 さすがに銀の聖杯の称号を持つ鍛冶師。加工料だけでも相当の料金といえる。ラヴァ・アダマンティウム鉱石の加工に至ってはいったいいくらになるのか想像もつかない。エミールもガルダも恐ろしくてそれ以上はとても聞く気がしなかった。


「ところで、ガートウィンさん。僕たちが捕らえた商人たちはこんな腕輪を身に付けていたんです」エミールは商人の持っていた白い蛇が描かれた腕輪をガートウィンに見せた。


「なんじゃこりゃ?」


 ガートウィンにそう問われてエミールは森の中であった経緯を詳しく語って聞かせた。腕輪とメリア鉱山の野盗、そして、ルドール商会のことまで話した時、名前を知っているか尋ねてみる。


「ルドール商会?」


「聞いたことありませんか?」


「いや、採掘してる連中とは付き合いは長いがそんな名前は聞いたことないわな。だけど、そこに売れっちゅうことは少なくとも野盗とその商会は繋がっているっちゅうことになるわな」


 ガートウィンは首をひねりながら、答えた。王都の鍛冶師ガートウィンでも知らないということは、やはりまともな商会ではないということなのだろう。


「いや、すまんな。俺も聞いたことはねぇが、もし何かわかったら連絡するとしよう」


「すみません、お願いします」


それからエミールとガルダたちがエルン領に戻ったのは、十二月も終わりの頃であった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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