メリア鉱山の野盗退治1
ここからさらに北東に行くとアルスが言っていたメリア鉱山に出る。
「この森林地帯から鉱山までの道が舗装されてないから、もしここで大量に鉱石が採れるようになっても運ぶのが大変そうだよね」
エミールが足元に広がる無数の木々の根っこを見ながらガルダに話しかけた。王都から東の森はかつてアルスがクリスタルを見つけ、狩りをした豊かな森である。今も手付かずの森が広がっており、用が無ければ足を踏み入れようなんて思う人間はいない場所だ。
「そうですなぁ。アダマンティウムが採れる鉱山といっても、発見されてからまだ日が浅いと言ってましたな」
「これから道を舗装するにしても鉱石が安くなるのは当分先の話じゃないかな?」
「うーむ。まあそれでも国外から輸入するよりはかなり安くはなるのかもしれないですな」
「そうだねぇ」
そんな話をしながら進んでいくと、先を進んでいた兵が戻ってきた。
「エミールさま、ガルダさま、この先に人がいます」
「人?例の野盗かな?何人くらいいるの?」
「いえ、実際に見たわけではないんですが、野営の後がありました。まだ暖かいのでこの近くにいるのかと思います」
それほど距離が離れていない場所に誰かがいる。こんな森で野営するのは一般人とは思えない。と、すればやはり野盗だろうか?エミールが色々と思案しているとガルダが口を開いた。
「例の連中にしてはまだ鉱山までは距離があるように思いますが。とっ捕まえて吐かせますかな?」
「いやいや、穏便にいこうよ。とりあえずその野営跡まで案内してくれない?」
エミールの提案で野営跡に着くと、確かに先ほどまで火を使っていた痕跡があった。ガルダが野営をした燃えカスを触ってみるとまだ暖かさを残している。
「ついさっきまで誰かがいたってことですな」
「僕ちょっと見てくるよ」そう言うと、エミールは木に登り木と木の枝を飛び跳ねながらどこかに消えてしまった。しばらくするとエミールが戻ってきた。
「どうですかな?」
「いたよ、全部で十人だね」
「野盗ですかな?」ガルダの問いにエミールは頭を横に振る。
「いや、多分野盗とかじゃないよ。あの格好なら商人だと思う」
「商人ですか。なぜこんなところに居るんでしょうね?」
兵士のひとりが疑問を呟く。それも当然で、こんな森の中で誰を相手に商売するのかって話なわけである。まさか動物相手に商売するわけにもいかない。
「大方、採掘した鉱石を買い取りに来た商人なんじゃないのかな」兵士の疑問にエミールが答えた。
「あ、なるほどですな。しかし、野盗と取引するなんぞロクな商人じゃないですな」ガルダが素直な感想を述べる。
「そうだね。とにかくバレない様についていくとしよう。彼らがきっと案内してくれるだろうから」
エミールたちがついていくと、やはり彼らはメリア鉱山に向かっているようである。一日中森の中を歩き続け、夕方近くになってようやく山の麓に到着した。さらに進むと洞窟があった。その洞窟の入り口にはかがり火が二本設置されており、その前に四人の野盗が見張りをしている。その洞窟の脇には野営地があり、そこに多くの野盗の姿が見えた。
商人と思われる集団は、見張りの四人に話しかけると野営地に連れて行かれた。野営地の中に大きなテントがありそこの中に入って行く。しばらくすると商談がうまくいったのだろう、商人たちは野盗と固い握手を交わしながらそのテントから出て来た。そして、洞窟内の見学をして、その日は夜明けまで宴会をしていた。
次の日、彼らは野盗たちから木箱を受け取りもと来た道を戻ってきた。
「エミール殿、連中どうしますかな?」
「野盗の野営地から十分離れたら捕まえよう」
エミールとガルダは兵を引き連れて商人たちが木箱を運んでいるのに夢中になっているところを取り押さえる。エミールやガルダ相手では、彼らには抵抗する暇も無かった。ガルダが木箱の中身を開けると中にはやはり鉱石が入っている。ガルダには鉱石の知識が全くなかったので商人たちを尋問するとやはりアダマンティウム鉱石だとのことだった。
「妙に赤い鉱石も入ってるけどこれもアダマンティウム鉱石なの?」
エミールの質問に商人たちが答えを渋っていると兵士が商人たちの縛った手首を捻り上げた。
「くっ、それは変質したアダマンティウム鉱石だ。使い物になるかわからないってんで、格安で購入したものだ」
「そうか、よくわかんないけどこれだけあれば十分だね」満足げなエミールにガルダも応える。
「ですな。あとはちゃちゃっと片づけますかな?」
「お、俺らをか!?頼む!見逃してくれ!俺たちは情報を買ってここまで来ただけなんだ」
片づけるのは野盗のことを指していたのだが、商人たちが勝手に勘違いして色々喋ってくれそうな雰囲気になったのでエミールとガルダはそのまま商人たちの勘違いに乗ることにした。
「そんなこと信用すると思う?そもそも、野盗の連中は知らない相手と取引はしないと思うけど」
「ほ、本当だ!これを見てくれ!」
そう言って、その商人は手首にある赤い腕輪を見せた。その腕輪には白い蛇の模様が入っている。
「この腕輪を見せたら連中は取引をするっていう事だったんだ。そのために情報料も払った」
「誰からその腕輪をもらったんですかな?」ガルダが凄むと商人たちは縮み上がった。
「わからん・・・・・・いだだだだっ!いや、本当にわからないんだ」兵士が捻り上げると涙目になりながら否定した。本当にわからないらしい。
「それじゃあ、売り先はどうなってるの?」今度はエミールが尋ねた。
「売り先はルドール商会だ。ここ以外で売ってはダメだと言われた」
「ルドール商会・・・・・・ガルダは聞いたことある?」
「ありませんな。そもそも私はそっち界隈はさっぱりわからんですな」
「だよね、仕方ない。きみたちはここで少し待ってて。あとで必ず解放するから」
商人たちを木に縛り付けてエミールとガルダはその場を後にする。そして、野盗たちが根城にしているメリア鉱山へと向かった。再び野盗がいる野営地に戻ると半数は寝ている様子。どうやら交代勤務で採掘をしているらしい。
そこでエミールたちは彼らが交代する時間を狙って一網打尽にしてしまうことにした。しばらくの間待っていると、採掘を終えた連中が鉱山の洞穴の中から出て野営地へと戻って来る。そこでエミールは、痺れ薬を矢じりに塗った矢で見張りをしている野盗を倒したが、ひとりが野営地のほうに向かって叫び声を上げた。
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