ルンデルの少女 アイネ
まだ昼間だったが、昼間は食事処として通常営業していた。早速席に着くと店員にお薦めを聞いてみる。
「お薦めですかぁ、ウサギのグレービーソース添えかリモニアかなぁ」のんびりとした店員の口調もランツベルクと違って不思議に好感が持てる。
「じゃあ、リモニアで頼む」
「かしこまりましたぁ」
「ちなみにいくらになる?」
「ええと、銅貨四枚ですね」
それを聞いてヴェルナーはホッとした。ようやく聞き慣れた価格を耳に出来た気がした。辺りを見回してみると多くの兵士が食事に来ていた。ここの常連客なのかもしれない。
「お待たせしましたぁ。リモニアです」
店員の女性がテーブルに置いたリモニアという料理は鶏肉にレモン、ベーコン、アーモンドを加えて煮込み、ナツメグ、クロープ、黒コショウなどで味を調えたものだ。パンをスープに浸して食べると味が沁み込んで美味しいとのことだった。
ヴェルナーが食べていると六人組のガラの悪い男たちがドヤドヤと入ってきた。満席だったので、舌打ちと文句を一通り並べる。彼らが店内を見渡すと、ヴェルナーと隣の少女がそれぞれひとりで席で食べていることに気付いた。六人組はどうやらヴェルナーの隣で食べていた銀髪の少女のほうに興味を持ったらしく、少女を囲むように立つ。ヴェルナーは食事をしながらも様子を見ることにした。助けるにしても正直余り目立ちたくない。
「よお姉ちゃん、俺らも一緒に飯食ってもいいかな?生憎満席でよぉ」
下品な笑みを浮かべながら銀髪の少女の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、お兄さん」
「隣のお兄さん」
「お兄さんってば!」
「俺か!?」
ヴェルナーは自分が話しかけられてると思わなく思わずビクッとする。男たちの背中越しで隣の少女が誰に話しかけているのかわからなかった。一斉にガラの悪い連中もヴェルナーのほうを振り返る。
「そうだよ」
「なんだ?」
「こいつらうるさいから、そっちに行って一緒に食べてもいい?」
「あ、ああ。構わないが」
「ありがとう」少女はニコっと微笑むと立ち上がった。
「おいおい、つれないじゃないかよぉ。俺らがせっかく誘ってるんだぜ?どこ行こうってんだよ?」
「どうぞ。席はこれで空いたでしょ?あたし、この人と食べるから」
「おい、てめぇ!すかしてんじゃねぇぞ。そういう問題じゃねぇだろうが!」
そう男たちに言われつつも無言で料理をヴェルナーの席に移し、ヴェルナーの向かいに座り直す。随分度胸が据わってるなとヴェルナーは感心しつつも黙って様子を見ていた。
その少女のスルーっぷりは見事である。男六人を相手に全く動じる気配すらない。しかし、その彼女のつれなさに遂にキレた男のひとりが彼女の料理とヴェルナーの料理を床に叩き落した。
「舐めるなぁぁぁ!」
それを見てヴェルナーが立ち上がろうとしたが、その前に銀髪の少女が動いていた。彼女は掌打で男の胸を打つと男はそのまま空気が抜けた風船のように彼女が席を譲ったテーブルやら椅子を巻き込んで店の外まで吹き飛ばされた。
「え!?」
これに一番驚いたのはヴェルナーである。見回してみると周りの兵士たちはそれを見て「バカな奴らだ」と大笑いしていた。
ガラの悪い連中はそれを見て顔色が変わり「くそっ、覚えてろよーっ!」などというありふれた捨て台詞を吐きながら慌てて逃げて行った。
銀髪の少女は店員に一言「ごめんね」と言い、お金を渡してから改めてヴェルナーの席の向かいに座る。
「お兄さんありがとね」
「え、何が?」
「さっき、あたしを守ろうとして立ち上がろうとしてくれたんでしょ?」
ニコっと笑うと笑顔の可愛い普通の少女だった。
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