敵情視察とアダマンティウム鉱山
「もしルンデルに進軍するとなれば、兵の補充はいかがいたしましょうか?アルスさまは連隊長ですので、名目上は千の兵を動かせることになるようですが」
パトスがまたいつの間にかコーヒーを飲んでいる。リサが最初にテーブルに用意していたのは紅茶だったはず。いつの間にコーヒーにすり替わっているんだ。などと思っていたらコレットとディーナがお菓子を運んできた。ディーナはこのところすっかり調理係になってしまっている。
今日のお菓子はリンゴのタルトだ。最近は、二人の腕も上がってきており、会議の楽しみのひとつになっている。ガルダなどは会議の話を聞かずにすぐにパクついていた。ちょっと困りものである。アルスはガルダを咳払いで牽制しながら答えた。
「正直、このエルン領で千の兵を集めるのは今のところはまだ厳しい。ただ、それについてなんだけど、そんなに心配はいらないよ。リヒャルト伯爵から助勢が得られる手筈になっているんだ」
アルスは王都でたまたま会ったリヒャルトとの会話についても話した。
「それは心強いですな!」口の周りにタルトソースをくっつけたままガルダが感想を漏らす。
「リヒャルトの指揮能力がどれほどのもんかわからんが、軍備を賄ってくれるってんなら、むしろそっちのほうがありがたいな。それより俺としてはこいつの維持が不安でよ」そう言いながらフランツは剣を指差した。
「本来ならもう少し内政に力を入れておきたい時期だからね。ああ、それとフランツ。それ大事に扱ってよ。恐らく八千万ディナーリはする代物だから」
「はっ!?これが?ほんとかっ!?」フランツが目を丸くする。
「そうだよ。王都で銀の聖杯の称号を持つ鍛冶士ガートウィンにも会ったけど、その時にアダマンティウムの武器の値段を知って驚いたんだ。フランツは簡単にエハルトさんのところから持ってきちゃったけど、ちゃんとお礼を言ったほうがいいんじゃないの~?」ニヤニヤしながらアルスがフランツを言う。
「そ、そうだな・・・・・・そんなに凄い武器だったのか。手紙でも書くか」フランツの剣に対する扱いが急に丁寧になるのは見ていて少し面白い。
「アルスさま、ルンデルに進軍する可能性があるということであれば、村の建設の合間にも兵士たちの武器、防具の補充を今の内からしたほうがいいかと思います」ギュンターは相変わらずの冷静な指摘をしてくれる。
「それと攻めるというのであれば、当然東のケルン城になるかと思います。内情を知るためにも情報収集をしたほうが良いかと思います」コーヒーカップをケルン城に見立ててパトスが補足した。
「ギュンターとパトスの言う通りだね。もし進軍するとしても、しばらくは猶予があるはず。その間に軍備を整えつつ、ケルン領に密偵を放つとしよう」
「アルスさま、進軍がしばらくないのは何故ですか?」隣でマリアが聞いてきた。祭りで買った髪留めをあれから毎日付けてくれている。
「フリードリヒ兄さんは、問題なく即位したけどそれはまだ形だけなんだ。戴冠式が終わるまでは正式に決定したわけじゃないと兄さんは考えている。それに貴族の間では第一王子派と第二王子派に分かれてるっていう話だよ。そこに三大商会ギルドがベルンハルト兄さんに接触したという話も出てる。恐らく奴らはベルンハルト兄さんを担ぎ上げるつもりだ。フリードリヒ兄さんがまずやらないといけないことは、出来るだけ多くの貴族の支持を得ることだよ。今のところは足場を固めるだけで精一杯だと思うから少なくともしばらくは外征は出来ないだろうけどね」
「まだ時間的な余裕はあるということですね」
「そうだね」
仮にフリードリヒが超攻撃的な対応をするつもりでも、内側から崩されてしまっては意味がない。ある程度は国内が固まるまで、動きたくても動けないはずだ。
「アルスさま、ケルンへの密偵ですが、私が行ってもいいでしょうか?」
見るとヴェルナーが手を挙げていた。ヴェルナーは以前、ここエルン城を落とす際にも一緒に忍び込んだ実績がある。
「よし、それならヴェルナーにケルン領の内情を探ってもらおう!」アルスの言葉にヴェルナーが頷く。
「ああ、それと・・・・・・部隊長の使っている武器は、全員魔石を埋め込んで強化してもらってるんだけど。どうせなら今後のためにも、もっと強化をしておきたいと思って」
「武器を新調するということですか?」エミールが興味深げに尋ねる。
「うん、エミールは弓がメインなんであまり関係ない話になっちゃうんだけどね。申し訳ない」
「となると、アダマンティウムの武器ってことか?でも、それ高いんだろ?」フランツもアダマンティウムの武器と聞いて急に乗り出してくる。
「まぁ、さっきフランツに言った通りの値段だよ。でも、ガートウィンから聞いた話では、国内からもアダマンティウム鉱石が採掘出来る場所が見つかったらしい。だけど、そこに賊が占拠してしまっているそうなんだ」
「なるほど、その賊を追っ払えば流通量が増えて安くなるって寸法ですかな!」
ガルダもお菓子とお茶を両手に持ちながらも、新武器のことはしっかり聞いていた。みんな、その辺りは武人ということなのだろう。
アダマンティウム鉱石は、大陸の中でもザルツ帝国とゴドアの二か国でしか採掘出来ない。国内でアダマンティウム鉱石が採れるのなら、このチャンスを逃す手はない。
「その賊の討伐は先ほど話した通り、フリードリヒ兄さんは今のところ放置するしかないんだ。アダマンティウム鉱石が採れるチャンスなんで誰か行ってくれると嬉しいんだけど」
「それでしたら、私が行きますかな」ガルダが手を挙げた。
「賊が百人程度いるからガルダが行ってくれるならありがたいな。後衛要員としてエミールも行ってくれないかな?射手がいてくれたら奇襲も出来るし心強い」
「わかりました。それなら僕もガルダさんと一緒に行くとしましょう」
エミールは、狼討伐の時もそうだったが、こういうとき快く引き受けてくれるのは本当に領主としてはありがたい。
「ありがとう、お願いするよ。ガルダ、兵は何人くらい必要かな?」
「んー、正直占拠してる奴らを奇襲して倒すだけなら私とエミールの二人で十分ですが。しかし、何かあったときのために十人ほど回していただけたらありがたいですな」
「エミールはそれでいいかな?」アルスはエミールの方を見て、確認を取る。
「僕はそれで大丈夫です」
「了解、ではそれでそれぞれの隊から五人ずつ選抜して、準備が出来次第討伐をお願いするよ」
「私のほうも明日にでもケルンのほうに向かってみます」
ヴェルナーは、昨日王都からここに戻ったばかりだ。もう少しゆっくりしていくように誘ったがヴェルナーは首を縦に振らなかった。
万が一のことを考えて早く出発したほうが良いの一点張りだ。ギュンター同様、生真面目なヴェルナーの性格なんだろう。とうとうアルスも折れて、彼の主張を受け入れることにした。
「わかった。それなら今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ」
「ありがとうございます」
「それでは、解散!」
次の日、ガルダ、エミール、ヴェルナーはそれぞれ出立する。一方アルスは、アントンとベルトルトに中央の街の建設状況確認のためふたりを呼び出した。
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