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兵数五百で五千を制する方法を知ってるか?

「将軍、敵が動き出しましたね」


「ああ、動いたのは半数ってところか。意外に慎重だな」


「来ます」


「よし、俺らも動くぞ、いいか決して畑の中には入るなよ!」


 ゴットハルトは慎重に相手の進軍速度に合わせて退き始めた。


「見ろ!相手は退き始めたぞ!追えっ、追うのだ!」


 ロタールはさらに進軍速度を速めた。反乱軍はそのまま畑に侵入していく。ゴットハルトは畑の間のあぜ道を巧みに使いながら相手の軍を引き入れていった。


「反乱軍ども、どうしたぁぁぁ!?そんな多勢(たぜい)で俺を討ち取れなきゃ恥もいいところだな!」


 ゴットハルトの挑発に乗せられた敵の兵士たちは更に足を速めた。


 やがて雨の中でぬかるんでいる畑の中を進んでいるロタール率いる反乱軍は、ぬかるみに足を取られて思うように進めなくなってきていた。あぜ道を進んで行った兵士たちは次々とゴットハルトの槍の餌食になっていく。


 細いあぜ道では囲むことが出来ず、ゴットハルトの縦横無尽な槍捌きに敵うはずもなかったのだ。

 

 ゴットハルトは更に敵を奥まで引き込んでいく。反乱軍が池周辺にまで進んで行くと、大雨で浸水した畑の土は泥状になり、全く身動きが取れなくなってしまった。


「ダメだっ!動けない!」


「足が取られる!?」


「おいっ、来るなっ!こっちは・・・・・・」

 

 そして、反乱軍がぬかるんだ畑に足を取られているのを確認したゴットハルトはさっと左手を上げた。その瞬間、部下が鏑矢を放つ。


 ピーーーーーッという音が響き渡ると、森の中に潜伏していたジャックとアンリ率いる四百の兵がロタール率いる反乱軍の後方から一斉に飛び出て身動きが出来なくなった敵に対して矢を雨のように浴びせた。


 反乱軍は、前方で身動きが取れなくなっている味方のところに後方から矢を射られ、逃げるようにして向かって来る後方軍に向かって懸命に叫んだ。


「こっちに来るな!ダメだ!」


「お、おいっ!何やってるんだ!?こっちは沼地みたいになってて身動きが取れない!戻れっ!」


 前衛の兵士たちの叫びも虚しく、狩りに追い立てられる獲物のようにして後方部隊は前進していった。


 ジャックとアンリは決して畑の中には入らず、巧みにあぜ道を利用しながら半包囲網を構築する。思うように動けない反乱軍は、討伐軍に至近距離から矢を浴びせられ地獄のような光景が広がった。ぬかるんだ土に足を取られた兵士たちはバタバタと泥のなかに倒れていく。


「ええいっ!なんとかならんのか!?」


 苛立つロタールであったがもう後の祭りである。前方は沼地状態であり、後方からは雨あられと矢が降って来る。そんな中、雷鳴のような声が轟いた。


「反乱軍の首謀者はおまえかっ!?」言わずと知れたゴットハルト将軍であった。


「いかにも、そうだ」


「俺が誰だかわかるな?」


「ゴットハルト将軍・・・・・・」


 ロタール、いやルンデル人にとって見間違えるわけがない。戦からの凱旋パレードがあれば何度も見たことがある巨体に髭面の将軍だ。


「・・・・・・名を聞いておこうか」


 ゴットハルトの声は落ち着いていた。この貴族も三大ギルドによって踊らされただけの被害者かもしれない。そう思うと、憐憫の情すら湧いてくるというものだ。


「ロタールだ」


「ロタール、もう決着はついた。降れ」


「ここまできておめおめと降参しろと言うのか?」


「出来ないなら、ここで決着をつけるしかない」


「出来るものならやってみろ」


「ロタールさまっ!ダメです!」ロタールの後ろに控えていた兵士が諫める。


「黙ってろ。これも覚悟の上だ。後のことはエーリッヒに託す」

 

 部下の制止を振り切り、ロタールはひとりゴットハルトの前に出た。


「お互い損な役回りだな・・・・・・」


 ゴットハルトは一気にオーラを解放する。彼は静かに怒っていた。三大ギルドに対する怒り、国に対する怒り、愚かな王に対する怒り、この理不尽な状況に対する怒り、そして自分の不甲斐なさに対する怒りである。初めて彼が抱く、その静かな怒りはゴットハルトの発するオーラに決定的な変化を与え始めていた。ゴットハルトの周囲に広がるオーラは静かに、そして一気に熱を帯び始める。ゴットハルトの矛が唸りを上げてロタールに打ち下ろされると、炎を伴った衝撃波はロタールを含め、周囲の敵兵を飲み込み一瞬のうちに掻き消した。ゴットハルトの周囲の沼地状の泥水からは沸騰した水泡と共に熱で沸き上がった蒸気が濛々《もうもう》と辺りを白く染めていた。


この一戦で反乱軍は相当な打撃を食らった。首謀者のひとりであるロタールもゴットハルトに討たれてしまったのだ。


 この報にショックを受けたエーリッヒは下手に動けなくなってしまう。そして、両軍睨み合いが続きいたずらに時を消費してしまった。次の日の夜明け前、エーリッヒは悲鳴が入りじまった剣戟を交わす音に起こされた。すぐに天幕を出ると近くの兵士を捕まえて事情を聞いた。


「いったい何事か?」


「敵襲です!」


「ゴットハルトか?」


「いえ、別の大軍です!」


「別のだと?」


 エーリッヒが見ると西の方角から多数の馬の足音と兵士たちの混乱した叫び声が聞こえてくる。その直後には火の手が上がり始めた。


 エーリッヒが馬を率いて西の救援に向かおうとしたところ、さらに別の伝令が叫びながらエーリッヒの下に駆け寄って来た。


「急報!急報です!」


「今度はなんだ!?」


「ゴットハルト軍が!」


「くそっ!」


 夜明けに反乱軍を襲撃している軍を見たゴットハルトの動きは速かった。「エヴァールトの奴、思ったより早かったな」と呟き、兵を叩き起こすと、混乱している敵軍に夜襲を仕掛ける。


 エヴァールトやゴットハルトの突撃は凄まじい威力だった。オーラを集束させた槍の一振りで兵士たちが枯れ葉のように吹き飛んでいく光景は(にわ)かに編成された傭兵軍には耐えられる恐怖ではない。二方向から挟撃された反乱軍は混乱の極みに陥り、終いには同士討ちを起こす始末だった。


 そして完全に日が昇る頃には、反乱軍の屍が累々山と成していたのだった。こうしてゴットハルトは、十倍に匹敵する反乱軍をたった一日で鎮圧してしまった。


 しかし同時に、この事件はゴットハルトの胸中に暗い影を落とすことになったのである。


挿絵(By みてみん)


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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