十倍の敵を打ち破れ!
「でも、なんで将軍がわざわざこんな地方貴族を倒すために派遣されるんでしょうね?」
アンリがゴットハルトの隣で不思議そうに尋ねた。
「ん?さあな、まあ俺がモンシャウの城主やってるっていうのもあるんだろうよ」
「それだけなんでしょうか?」
「他に何かあるってのか?」
「さあ・・・・・・?」
アンリは頭が凄く良い。状況も良く見えるし、判断能力もある。だが、直感で思ったことを口にするため、時々こうしたボケた返答をすることがある。
アンリの反応に頭を搔いたゴットハルトだったが、気を取り直して続けた。
「おまえら三人はルンデルの秘蔵っ子だ。エヴァールトとジャックは圧倒的な武の力に加えて戦術眼がある。そしてアンリ、おまえは戦略も戦術も遠くまで見通せる。俺はおまえらが次代の三大将軍になれると思ってる。今のうちに色々な経験を積んでおくこった」
「照れますねぇ。でも、エヴァールトには言わないほうがいいですよ?」
「どうしてだ?」
「調子に乗るからです」
「はっはっはっは!そうかもしれんな!」
そんな話をしながら軍を進めると斥候をしていた兵が息を切らしながら戻って来た。表情から察するに切迫した感じである。
「どうだった?」ゴットハルトが尋ねると兵士は息を整えながら報告をした。
「はっ、敵軍ですが想定より遥かに数が多いです」
「どれくらいだ?」
「およそ五千です!」
「五千?俺が聞いていたのは多くてもせいぜい五百だって話だったぞ?」
ゴットハルトと隣で聞いていたアンリは目を丸くした。地方貴族の反乱程度である。どんなに頑張って兵をかき集めたところで千も集まれば上出来。
それが報告の十倍である。驚くなというほうが無理な話だ。
「目視できる範囲ですが、そのぐらいの数はおりました!」
「どうなってんだ、いったい・・・・・・」
ゴットハルトは急遽、隊を森の中で待機させ敵の様子を窺うことにした。
斥候の兵士から敵の配置を詳しく聞くと、敵の様子からしてまだこちらには気付いていないということである。そして、装備がバラバラであったことから恐らくほとんどが傭兵だろうということであった。
「将軍」
「どうした、エヴァールト?」
「考えたくないですが、我々は嵌められたんじゃないでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「将軍は陛下に大規模侵攻を諫めるように進言されたんですよね?」
「確かにそうだが」
「それが三大ギルドの連中にとって都合が悪かったとするなら?」
それを聞いて思わずゴットハルトは天を仰いだ。もしそれが本当なら、前方の敵だけでなく、後ろからも槍で刺される可能性があるってことだ。
状況的に考えても、食い詰めた地方貴族にそんな大量の傭兵を雇い入れる余裕などあるわけがない。どこからか大量の資金が流れ込んだのだろう。金の出所は・・・・・・考えるまでもないな。
「エヴァールト、おまえモンシャウまで行って出来るだけ急いで兵をまとめてここに来い。一日でここまで戻って来れるはずだ。来たら俺に合流する必要はない。おまえの判断で動け、わかったな?」
「わかりました」
そこまで言うとゴットハルトはジャックを呼んで雨でクシャクシャになっている地図を広げて見せた。雨脚は先ほどよりも強くなっており、木の葉を伝ってそこかしこに水滴が落ちる音が聞こえてくる。
「ジャック、おまえならどうする?」
ジャックはしばらく地図を注視して考え込んでいた。ゴットハルトと反乱軍との間には森が広がっている。森を抜けると小さな池がいくつかあり、その先には広大な畑が広がっている。反乱軍は南へ移動しているのだろう。その畑の先で野営をしているとの報告だった。
「私なら森に待機してそのまま夜襲をかけます」
「敵がそのまま夜までそこに居ればいいがな」
「むぅ・・・・・・」
「アンリ、おまえはどうだ?」
「私なら、ここで戦いますね」そう言いながら、アンリは畑を指で囲んだ。
「そうだな、俺も同意見だ。ここら一帯の畑は収穫はほぼ終わってる。そして、いくつか池があるこの辺りの土壌は湿地帯といってもいい。そして最近続いているこの大雨で池周辺の畑は泥沼状態だろうな。ジャック、俺の言ってることがわかるか?」
ゴットハルトは雨が降っている天を指で差した。
「そうか!なるほど、そういうことですか!」
ジャックを見て、ゴットハルトはニヤッと笑う。
その後、彼らは綿密に打ち合わせをした。打ち合わせ内容は敵が来たらどうやって逃げるか?ということに終始していた。
作戦が決まるとゴットハルトはそのまま進軍し、馬を置いて兵を百だけ引き連れ五千の反乱軍の前に出る。
「エーリッヒさま!討伐軍が出てきました」
「数は?」
「それが・・・・・・百程度の小勢です」
「百だと?」
エーリッヒと呼ばれた貴族は自分の目で確かめることにした。すると、確かに百程度の小勢が畑の前に陣取っている。待てよ、あの旗は?ゴットハルト将軍か!何故こんなところにゴットハルト大将軍がいるんだ?
「エーリッヒ!」
エーリッヒが不可解に思っていると不意に後ろから声を掛けられた。声を掛けたのは、同じ反乱地方貴族たちのひとりであるロタールであった。
「討伐軍が来たとのことで俺も見に来たがこんな小勢だったとはな。馬鹿にされたもんだな俺たちも」
「あの旗はゴットハルト大将軍のものだ。ゴットハルトといえば、この国の大将軍だ。何かおかしくないか?何故こんなところに来ているんだ?本来なら外征を担当するような大物だ。」
一地方貴族の反乱であれば大将軍がわざわざ出張るようなことはしない。その辺の大隊長か連隊長クラスで十分だからだ。
「さあな、だが如何にゴットハルト将軍といえど百程度の小勢では何もできまいよ。大方、討伐命令を受けて森を抜けて来たところまではいいが、我々の数が予想以上に多かったので戸惑っているのではないか?」
「私には卿のようには思えん。何か裏があるのではないか?」
「そんなものないだろう。仮にあったとしてもあんな小勢では何もできん」
「しかしな・・・・・・」
「わかった、そんなに心配ならまず私が行こう。大軍で囲んでしまえばゴットハルトといえど取るに足りまい」
エーリッヒは小さく溜め息をつくと頷いた。
「卿がそう言うなら、任せよう」
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