表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/181

貴族の反乱

ルンデル北部に位置する王都レムシャイトも収穫の季節を迎えていたが、今年は不作の報告が入っている。北南同時の大侵攻で、去年も大事な収穫の時期に戦で人手を奪ってしまった。そのため、必要十分な収穫が出来ずに冬を越さねばならない。今年はなんとかしなければと思っていたところへ、夏に雨不足が続いたせいで不作になってしまったのだ。ところが、収穫の時期を迎えたところで急に長雨が続くようになり、踏んだり蹴ったりの状況が続いている。


 そんな状況のなか、レムシャイト城内の長い廊下をふたりの騎士が少し緊張した面持ちで歩いている。ひとりは背の高い騎士。彼の名前はエヴァールト・フォン・バイエルライン連隊長といい、もうひとりの騎士はジャック・ロンメル中隊長であった。


「聞いたか?」


 背の高い若い騎士が、隣を歩いているさらに若い同僚に声を掛ける。


「何をですか?」


「反乱の件だ」


「もちろん。我々が将軍のところに呼ばれてるのはその件でしょうからね」


「ゴットハルト将軍が、こんな地方の反乱の鎮圧に駆り出されること自体がおかしな話だと思うがな。ジャック、おまえは今回の件、どう思う?」


 ジャックと呼ばれた青年は少し歩みを遅くした。隣を歩く上官の質問の意味をしばらく考え、口を開く。


「反乱を起こした理由を伺っているのならば、地方貴族にちょっと同情しますね」


「・・・・・・そうか」


 それだけ言うと、エヴァールトは黙ったまま招集場所である会議室のドアをノックする。中にはヒゲを生やした大男が会議室の小さな椅子に窮屈そうに座っていた。隣には若い女性武官の姿もある。


「おお、待ってたぞ」


「ゴットハルト将軍、お待たせして申し訳ありません」


「いや、いい。俺らもそんなに待ってたわけじゃない。まぁ、座れ」

 

 勧められるままにふたりとも椅子に座ると、ゴットハルトは話を続けた。


「ふたりとも察しはついてると思うが、貴族どもが反乱した。理由はわかるな?」


「食料不足でしょう」


 ジャックがやれやれという感じで答える。ゴットハルトは頷きながら、エヴァールトにも促した。


「エヴァールト、おまえはどう思う?」


 エヴァールトは、先ほどの部下とのやり取りを思い起こしながらゴットハルトの質問に答えた。食料不足の根本原因・・・・・・


「ま、三大ギルドでしょうね」


「はっはっはっは!おまえの答えはいつも直球過ぎるな!だが、まぁ的を得ているな。先ほど、ここにいるアンリにも聞いてみたがおまえらとほぼ同じ答えだったよ」


 隣で聞いているアンリが頷いた。


「この反乱は間違いなく去年のローレンツに対する大攻勢が起因となってる。それに加えて今年の不作だ。貧乏貴族どもが徒党を組んで反乱起こしたって不思議はねぇな」


「それを討伐に行くというわけですか。気持ちの良いものじゃないですね」


「そうだな、はっきり言って胸糞悪い仕事だ。それにだ、もっと悪い知らせがある」


「なんですか、もっと悪い知らせって?」


「奴ら、もう一度北と南から侵攻することを陛下に進言しているらしい。しかも今度はもっと大規模にだ」


「国が疲弊しているのに昨年より更に大規模な攻勢をかけるというんですか!?」


 エヴァールトは驚きの余り思わず立ち上がった。それをゴットハルトが手で座るように示すと、ハッとしたエヴァールトは再び席に座った。


「気持ちはわかる。先ほど、陛下に会って国情を説明しながら考え直すように話してきた。どうなるかわからんが、取り敢えず聞いてくれてはいた。攻めるったって今すぐってわけじゃない。この収穫の時期に攻めたらどうなるかぐらいは陛下もわかってるだろう・・・・・・」


「大規模な攻勢を何度もかけていたら、さすがに国がもちませんよ?」


 アンリが不安そうに呟く。ゴットハルトはそれを聞いて溜め息をついた。


「まぁな。んなこたぁ、向こうも先刻承知だろうよ」


 ゴットハルトがそう言うと、三人とも黙ってしまった。しばらく沈黙が続いた後、

ゴットハルトがぽつりと言った。


「場所、変えるか」


 ゴットハルトの提案で四人はレムシャイトの街に出る。ルンデルの王都であるレムシャイトは活気こそあるものの、ひとつ裏通りに出れば貧困の影が色濃く表れるようになってきていた。貴族の力が落ちて行く一方で、外国の商人たちの力が相対的に伸びており外資の立派な商館が立ち並ぶようになっている。


 それは、道行く看板の表示にも表れ始めていた。エルム大陸の公用語で表記されていた文字は、今や数か国語で表記されるようになっている。

 

「この王都も変わっちまったな。地元の商人たちはどんどん日陰に追いやられてる。今じゃ幅を利かせてるのは外国の商人ばかりだ」


 ゴットハルトはそう独り言ちると、そのまま酒場へと入って行く。中は客でごった返していたが、酔っぱらった客のひとりがゴットハルトを見ると寄って来た。


 客は明らかにルンデル人でなかったが、酔っぱらってる割には流暢な公用語で話しかけて来た。


「おんやぁ?もしかしてあんた、この国の将軍か?将軍が仕事もせずに酒場に来ていいのかぁ?」


「悪いな。俺もたまには息抜きが必要でな」


「てめぇに息抜きなんて必要ねぇんだよ。この国の経済は俺らが回してやってんだ、感謝しろよ!」


 そう言うと、その客はゴットハルトの足元に唾を吐いた。


「貴様!無礼だぞ!」エヴァールトが怒鳴るとゴットハルトが手で制した。


「へっ、戦う事しか能のない蛮族共が!」


 それを聞いた瞬間、エヴァールトはオーラを爆発させた。メリメリと酒場の建物が音を立てて揺れ始めるとテーブルや棚の上に置いてある食器やグラスが次々と割れ始める。


「ひぃぃぃ!」酔った客は慌てて外に飛び出して行った。


 それを見て、ゴットハルトは「やめろっ!」と叫んだ。エヴァールトはハッとして急速にオーラを収束させる。


「すみません、将軍」


「ばっかやろうが!落ち着いて酒を飲みに来ただけだ。んなことやってたら、どの店にも入れなくなっちまう」


 ゴットハルトと三人は店の主人に謝罪し、修繕代として金を払うと、酒と料理を注文した。


 次の日、雨が降るなか、ゴットハルトと3人はレムシャイトの北東を目指して五百の兵を連れて進軍を開始した。目的はもちろん、地方貴族の反乱を鎮圧するためである。


挿絵(By みてみん)


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ