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感謝祭のデート2

「お、そりゃめでたい!」などと、店主も調子のいいことを言っている。まぁ悪い気はしないけど、などとアルスが思っていると反対側の出店からも声が掛かった。


「領主さまっ、良かったらうちの店に寄ってっておくれよ」おばちゃんが手をこまねいている。


「あっちに行ってみようか?」


 アルスが声を掛けるとマリアは嬉しそうに「はい!」と返事をした。


 おばちゃんの店先には串焼きが並べられていた。ジュ―っと焼ける肉の音に鼻腔をくすぐる香ばしい香りがふたりの食欲を刺激する。


「これはなんの串焼きだい?」


「こっちの左のがウサギです、それからこっちのが鳥ですよ」


「それじゃ二本ずつください」


「ありがとう!」そう言っておばちゃんから串を受け取る。アルスがお代を払おうとするとおばちゃんが断った。


「お代はいりませんよ。あなたさまが領主さまになってから私らほんとに感謝してるんです。以前は食べるものもやっとで、こんなに楽しい感謝祭なんて想像も出来なったんですから。それだけで十分色んなものを頂いているんです。今日は領主さまに楽しいひと時を過ごしてもらえれば私はそれで嬉しいですよ」 


 そう言う屋台のおばちゃんの声は涙で詰まっていた。


「良かったですね、アルスさま。アルスさまのやってきたことがひとつひとつ実を結んでいる成果が出てるってことですから。ここはお言葉に甘えちゃいましょう」


「マリアがそう言うなら・・・・・・ありがとう、おばちゃん!これは頂いていくよ」アルスとマリアはお礼を言ってその店を後にした。


 しばらく歩くと装飾品がたくさん並べられた屋台の前でマリアが立ち止まる。指輪にネックレスやブローチ、色鮮やかなアクセサリーがずらりと並んでいた。赤や黄色、青に緑とこの辺りでは見ない色合いの類ばかりだ。


 恐らく異国から流れて来た行商人なのだろう。こうした行商人は感謝祭などの期間中は書き入れ時とばかり祭りの報せがあるたびに各地を転々とするのだ。マリアがしばらく色々眺めていたが、やがてひとつの髪留めを手に取った。髪留めには小さな花飾りが青と赤の宝石で彩られている。


「おじさん、これいくらだい?」


「それなら銀貨一枚です」


「ア、アルスさま・・・・・・」


「いいんだよ。だって、これデートでしょ?」と笑って戸惑ったマリアに手渡した。マリアの頬が赤く染まる。


「あ、ありがとうございます。大事にしますね」そう言って髪留めを付けた。


「どうですか?」おずおずと尋ねるマリアはとても可愛かった。


「とっても似合ってるよ」


 そう言うアルスに、マリアはニコっと微笑むとぎゅっと腕を絡めて抱き着いて来る。マリアの胸の感触にドキドキしながら、その後も領民からひっきりなしに声を掛けられながらであったが、アルスはマリアとのデートを楽しんだ。


 次の日になって、パトスにどこに行ってたのか尋ねるとなんとアルスとマリア以外は全員一緒に回っていたらしい。フランツが気を利かしてアルスとマリアを二人きりにするように話をしていたようだ。フランツはガサツなようでいて変なところで気を回す奴だ。


 一週間後に開かれた城内での感謝祭の催しも北のハイム村と南のウルム村からもたくさんの参加者が来てくれて大成功のうちに終えることが出来た。特にディーナとコレットが作ったケーキは大好評ですぐに完売してしまうというハプニングもあったが、それも含めて大成功だったと言えよう。 


※※※※※※


 それから数日後、ようやくノルディッヒから鍛冶師と建築士の集団がやって来た。本当は彼らにも感謝祭に参加して楽しんでもらう予定だったのだが、ノルディッヒでもこの時期感謝祭があるため予定が伸びたのだという。近隣とはいえ簡単に会える距離ではないのだからお別れパーティーも兼ねていたのだろう。


 最初の第一陣は百名を超える程度の人数がやって来た。移住希望者を引き連れた鍛冶師の代表はアントンと名乗った。予め届いていたエハルトの紹介状の中にはアントンは彼の弟であり、腕も確かであるとのお墨付きをもらっている。彼がアルスと対面したのは大広間。彼とともに十人くらいの若い男が大広間でアルスを待っていた。


「初めまして、アルトゥース殿下。鍛冶師のアントンと申します」


 アントンはアルスと対面すると、深々とお辞儀をする。エハルトの弟だが、彼に比べると随分若く見える。エハルトが老けて見えたのは、やっぱり色々苦労していたからなんだろう。


「やあ、初めまして。話はエハルトから聞いているよ。今回の件、こちらとしては本当にありがたく思ってるんだよ」


「いえ、私どもも兄のエハルトから話を受けまして殿下から直接お仕事を頂けると伺い、皆期待に胸を膨らませているところです」


「それなら助かるな。でも最初の君らの仕事はまず自分たちの住居と工房を作ってもらうというところからなんだ。そこからで本当に申し訳ないんだけど」


「はっはっは、ここにいる連中はそれが仕事ですから!まして自分たちの家と仕事場を作るなんてそんな楽しい仕事でいいんですか?」


 アントンが愉快そうに笑うとエハルトの面影を思い出す。エハルトの人の好さもきっとアントンは持ち合わせているのだろう。


「もちろん。ノルディッヒからも補助金は出ていると思うけど、こちらからも給金は払うよ。デザインも好きに決めてもらっていい」


「本当ですか!?それはこちらとしては破格の条件です。アルトゥース殿下、私は鍛冶師の代表としてここにおりますが、ここにいる建築士の代表をご紹介させてください」


 アントンがそう言うと、後ろからヒゲの生えた男が進み出た。まだ若い。アントンは三十代後半くらいだが、彼はまだ二十代にみえる。


 その若さで建築士の代表を務めるというなら、きっと誰もが認める相当の才能があるんだろう。


「は、初めまして。アルトゥース殿下、建築士代表のベルトルトと申します。以後よろしくお願いいたします」


 緊張した面持ちでお辞儀をする。あまり人と喋るのが得意でないのかもしれない。


「彼は若いんですが、仕事は建築士ギルドの中でもダントツに出来る奴なんです。エルン領の中央に新しく街の建設を進めていると伺ってますが、ぜひこいつを加えてやって頂けないでしょうか?」


 そう言いながら若いベルトルトの背中を強く叩く。叩かれたベルトルトは反射的にむせっていた。


「もちろん、そういう話なら大歓迎だよ。そうだ、それならこれを見てもらってもいいかな?」


 アルスは大広間のテーブルの上に持って来ていた建設予定図を広げた。ベルトルトが「失礼」と言って、食い入るようにその建設予定図を見つめた。


「よく出来ていると思います。ですが・・・・・・」


 そう言って、水車小屋の位置と工房の位置取り、水源との距離や予測される人や馬車の動線から市場や役所、住居の位置取りなどを詳しくアルスに説明して修正箇所を指摘していく。


 気づけばほぼ全てが修正対象になってしまっていた。仕事の話になると、先ほどの挨拶とはまるで人が変わったように話すのだ。これぞ職人というものだろうか。


「なるほど、やはりプロは違うなぁ・・・・・・」アルスは驚かされるばかりだった。


 その後も、アルスはアントンやベルトルトと話をした。彼らは次の日から早速建設予定地と資材置き場の視察までこなしていた。建設予定図はベルトルトたち建築士に任せることとし、当面の間の細かい擦り合わせもアントンたち鍛冶職人との間で行うこととなる。アルスは建築士たちの間で街の設計図や居住区の建築図が出来上がるまで、鍛冶師のアントンにはアルスたちの武器に魔石を取りつけるお願いをした。


 ガムリングの工房を借りてアルスたち部隊長の分だけでも早急に武器を強化する必要があったからだ。ベルトルトたちは街を想定して建設を進めたいとのことで、商業区や居住区の位置取りまで描いた完成予定図を持ってきた。アルスは当初村を建設するつもりだったのだが、彼らの熱意と情熱に押されてしまった。


 その辺りの詳しいことになるとアルスにはさっぱりわからなかったので、ベルトルトに任せることにした。彼らが来たことで中央の村建設は一気に街建設にまで構想が広がった。さらに、後続の鍛冶師や建築士の到着に加え、彼らの家族も居住区建設の手伝いに参加したので建設スピードは予定よりずっと上がることとなった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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