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感謝祭のデート

「ヴェルナー、軍事訓練のほうはどうだろうか?」


「問題ないです。アルスさまの指示通りジュリとベルにも教官として加わってもらい操練・教練・演習と三つのプログラムに参加してもらいました。最初、兵たちに戸惑いもありましたが、今ではふたりの実力を認め素直に従ってくれてます。今は、魔素水による強化も可能です」


 魔素水による兵の強化は、当初難しいと思っていた。これが可能になったのは大きい。戦場での個々の兵の強さは勝敗に直結する。


「なるほど。ジュリ、特に問題はないということでいいかな?」


「兵たちとの間では特に問題はありません。ただ、この国では刈り入れの時期は兵たちは一時的に帰郷すると聞きました。私の故郷では兵は職業兵だったのでそういうことはなかったのです。ルンデルという国に対する防備は大丈夫でしょうか?」


 ジュリが深刻そうにアルスに尋ねる。


「兵農分離の準備はこちらも進めているけど、まだまだ時間がかかるんだ。でも、確かに懸念は残るんだけどこの条件はルンデルも同じはずだからね」


「だけどよ、去年みたいなこともまた起こる可能性はあるよな?」


 フランツの反応は当然である。また、ルンデルが北と南に同時侵攻を仕掛けてくることも可能性としては依然残る。


「うん、それも考えて一応王都には兵の一部を残して即応出来るように派遣の約束を取り付けてあるんだ。あとは出たとこ勝負になってしまうけど、少なくとも今年は無いんじゃないかと思う」


「なぜそう思うんだ?」


「小競り合い含めて向こうからの襲撃が今まで無かったことを考えると、収穫時に出兵した経済的ダメ―ジが大きかったんじゃないかな?だから敢えて同じ轍は踏まないと思うんだ」


「なるほどな。絶対とは言い切れないが、可能性は低いということか」


「うん、だから備えは常に出来る限りしておくつもりで。ベルからは何かあるかい?」


「いえ、私は特にはないです」


 当面の課題は残るものの、各々が真剣に取り組んでくれているお陰もあって進捗状況はかなり芳しい。そして、最後に。


「よし、それじゃあ最後に今年の収穫祭についてだ!」


「おおっ!祭りですか。盛大にやりたいですな」ガルダが嬉しそうだ。


「それで、収穫祭にはパトスたちにも出てもらおうと思う」


「わぁ~♪良かったね、ディーナちゃん!」コレットが嬉しそうにディーナに声を掛ける。


「うん!すごく楽しみ!」


「今まで鬼人族のみんなには不便をかけてすまなかった。兵たちとの交流も問題なさそうだし、マリアとも相談していたんだけど収穫祭の準備を手伝ってもらいながら領民の理解を得ていこうと思う」


「それは助かります。私も領内を見て回れるのは楽しみです」


 パトスがいつの間にかお茶ではなくコーヒーを飲んでいる。コーヒーが本当に好きらしい。


 収穫祭は来月から始まり、収穫祭の間は村単位でそれぞれ収穫を祝う。畑で採れた収穫物を用いた家庭料理やお菓子を作って皆で持ち寄ってパーティーや市場を開催して盛り上がるのだ。人口の少ない村では町おこしの一環としての役割も担う重要なイベントでもある。また、収穫祭は同時に宗教儀式とも密接している。


 国や地方でそれぞれ信仰している神に豊穣を感謝すると同時に、来年の実り豊かな収穫を祈願するというわけだ。ここにガーネット教が入り込む余地を潰したアルスたちの功績は大きかったといえる。


「アルスさま、例年ですと村単位で感謝祭を行って終わりですが、今年は村々での交流も兼ねて城内を開放して市場を開催するのはいかがでしょうか?」


「それはいいね!それならパトスたちも参加しやすいと思うけどどうかな?」


「マリア殿の案は素晴らしいです。私も賛成です」パトスが答えた。


「そうですね。それでしたらぜひディーナさまやコレット殿のお菓子なんかも城内の出店で出すなんてのはどうでしょうか?」普段おとなしいベルも提案を重ねる。


「ベル!それは良い案だ!ぜひそうしましょう、アルスさま!」


 ジュリの目的はもはや感謝祭ではなく、お菓子だろうな。


「アルスさま、それでしたら感謝祭の日に合わせて私としてはケーキを作ってみたいのですが、大丈夫でしょうか?」コレットがすかさず被せてきた。


「うーん、よし他の材料はなんとかしよう!」


「やったー!頑張ります!それと冷やすために氷室が必要なのですが大丈夫でしょうか?」


「ああ、それなら・・・・・・」アルスが言いかけると、ジュリがすかさず「私が用意する!いつでもどこでも大丈夫だ」と力強い返答が返ってきた。


 そういえばジュリも魔素の性質コントロールが出来るなら、氷を作るくらい朝飯前ということか、とアルスは改めてジュリの凄さに感心した。ちょっと気合を入れる方向が少しズレてる気もするけど・・・・・・。


「コレットちゃん、私も一緒に作ってもいい?」ディーナが目をキラキラさせながら懇願する。


「もちろん、私はそのつもりだよ!」


 ディーナとハイタッチしてる盛り上がり様は、まるで学園祭のようだ。


 アルスは軽く咳払いをして話を続けた。


「では、お菓子作りはディーナとコレットに任せるとして、飾りつけはエミールとリサ、それにダナにもお願いしたい」


「あ、はい!」


 ダナは自分が呼ばれるとは思ってなかったらしく、びっくりして反射的に返事をしたようだった。


「ダナ、頑張りなさいね。わからないところがあったらお姉ちゃんが手伝ってあげるから」ディーナが助け舟を出したことで、少し照れて「ありがとう姉さま」と返事をする。


 こうして長い定例会議が終わった。次の日から、各自それぞれの任務をこなしながら空いた時間で収穫祭の準備を行っていくことになる。


 秋が深くなるにつれ収穫祭の準備も順調に進んでいく。パトスたち鬼人族も城外に出て活動するようになった。最初は村人たちも驚き警戒はしたが、アルスも出来る限り同道することによって不安の払拭に努めた。その効果もあってか徐々に村人たちも慣れてきている。


 そして、感謝祭の期間が始まった。感謝祭は一日で終わるのではなく二週間くらい続く場合が多い。その年の収穫を神に捧げる宗教行事などは一日二日で終わるのだが、収穫物を持ち寄ったパーティーは毎日どこかしらの各家庭で行われるのだ。また、市場には各村特産の料理や特産品が並ぶことになる。


 アルスたちは北の村ハイムに来ていた。村に着くと市場がある通りには感謝祭の出店がずらりと並んでいる。普段の数倍の人と賑やかさではないだろうか。いつもはいない行商人もここぞとばかりに来ているようで、敷物を敷いた上にこの辺りでは見慣れない壺や装飾品などを並べて行きかう人々に声を掛けている。


 アルスの隣にはマリアが歩いている。フランツ、パトス、ジュリ、ディーナ、コレット、エルンストも一緒に来ていたのだが、村に着くといつの間にかバラバラに行動していた。


「あ、見て見てアルスさまっ!」


 マリアが指さした方向には大勢の人だかりが出来ていた。その中心には大道芸人が玉乗りをしながら笛を吹いている。


「へぇ~、あんな催しものまであるんだ」


「去年までは大々的な感謝祭が出来なかったそうですから、また来年もこんな感じで出来たらいいですよね」マリアが嬉しそうに話す。


「そうだね、去年まではなんせあの強欲領主が統治してたんだから。そりゃ感謝祭どころじゃないだろうなぁ」


 アルスがしみじみと感慨にふけっていると、急に市場の店主から声を掛けられた。


「おや、領主さまじゃないですか!マリアさまもご一緒ですね。今日はおふたりでデートですか?」ニコニコしながらオヤジがからかってくる。


「はい、そうなんです!」


 そう言うとマリアはニコっと笑ってアルスの腕を組んでピッタリ寄り添った。アルスの顔が赤くなる。マリアは歩いているだけで村にいる男性という男性が振り返るほどの美少女だ。アルスは村の男性から羨望と嫉妬の眼差しで見られていることに気付き余計に恥ずかしくなった。また彼女が腕を組んでいる相手がアルスなので、衆目の的になってしまうのだ。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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