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定例会議1

 リヒャルトを見送った翌日、アルスたちは主要メンバーたちと会議を続けた。今までアルスを始め各メンバーの仕事量が多く、それぞれ仕事の合間に報告をお願いしていたので全体での会議の数は本当に少なかった。その弊害で縦割りになってしまい情報共有が出来ていないことが二度手間を引き起こすなど、効率が落ちてきていたので、今では定期的に報告会を開くことにしている。


「それでは今月の定例会議をします」


 アルスは大広間のテーブルに並んだ面々を見て開始の号令を切った。執務室で開催することも少し考えたが人数が多くなり結局大広間でという運びになった。テーブルの上にはメイドのリサが淹れてくれたお茶とクッキーが並んでいる。今回のクッキーはディーナとコレットが一緒に作ったものらしい。コレットが作るお菓子は評判で密かなファンがたくさんいるとかいないとか。ディーナは元々お城での王女としての生活が長く、なかなか友達も出来にくかったのだが、コレットと親しくなり今では暇さえあれば調理場に入り浸っていることが多い。


 辛い出来事のあったディーナにとっては本当に良かったとアルスは思っている。最近ではお菓子作りにハマっており、少ない材料を活かしながらコレットと色々なお菓子作りに挑戦していた。今日テーブルに運ばれたのは、定番の丸形クッキーを始め波型の模様や渦巻模様などさまざな形が楽しめるようになっている。


 こうしたものが作れるのも食料生産率が一気に上がってきたお陰でもあった。が、「もう少ししたら領内でケーキも作れるようになれたらいいな」とコレットから要望のようなものも聞こえてくるようになっている。ぜひ実現させたいところだ。


「それではディーナから報告してもらおっか」


 アルスが末席に座っているディーナに報告を促す。ディーナは植物の栽培に興味があったのでゴールデンレシュノルティアを始めとする様々な植物の育成についてその管理と研究をお願いしたのだ。


「はい。まず、ゴールデンレシュノルティアですが、魔素結晶を粉にして土に混ぜるより粒状のほうが育成が良いということがわかりました」


「おお、どの程度違うの?」


「極端に違うわけではないんですが、粉末状のものより、粒状のほうが花が大きくなります。計ってみたんですが、平均すると約1.3倍くらいにはなっていると思います。もちろん花の大きさ自体はエリクサーの生成に関係ないのですが、必要な根っこの重さも1.3倍ぐらいでした」


 ディーナは身振り手振りで花の大きさを表しながら一生懸命説明をしてくれる。それが初々しい。


「そんなに!?それなら単純計算すれば収穫量も1.3倍になるってことだね」


「はい、なので今後は粒状結晶を使う方が良さそうですね。来年はもっと収穫量を上げれると思います。今年はアルスさまが栽培していた今までの在庫と合わせてもノルディッヒに納品するだけでギリギリになってしまうかもしれませんけど・・・・・・」


「わかった。今月の収穫量によっては、納品量は追々調整していくことにしよう。こちらで使う分の生産は先月完成したハイム村の工場で予定通り調合していくことにするから、もし何か変わったことがあったら僕かマリアに相談して欲しい」


 工場が完成といっても、採れた根っこを乾燥させ粉末状にするものと、煮詰めて煎じ薬のような状態にするだけ。機械が置いてあるわけでもない。それでも領内の新たな産業としておおいに期待できる。


「あ、それと、果物の栽培も始めたんですがイチゴとブドウの栽培に成功しました」


「アルスさまっ!いよいよケーキが作れますね!」


 コレットがニコニコ顔である。釣られてディーナもコレットと目を合わせてガッツポーズしながらうんうん頷いている。よっぽどケーキが作りたかったんだろう。


「いいねぇ!本当はミルクまで領内で賄えたら良かったんだけど、全く手付かずだしね。それは他の領地から買うとして。とりあえず出来そうだね!」


 アルスもワクワクしながら答える。死人が出るほどの貧困地域から短期間でケーキ作りまで見えてきたのだ。ワクワクしないほうがおかしい。


「それに、あれだけの数のイチゴなら小さいものはジャムにも出来ますから、保存食としても期待出来ますね」エルンストがディーナに向かって話しかけた。


「ん?ちょっとまって、エルンストも栽培場を見てるの?」


「はい、エルンストさんはよく私のお手伝いをしてくれるんです。時間があるときに重いものを運んでくれたり色々なアドバイスをくれたり。私、こちらに来てまだ日が浅いものですから、この大陸の植物についてはエルンストさんに教えて頂いてます」 

 

 ディーナがにっこりエルンストに微笑みかける。ほぅほぅほぅ・・・・・・?なんだねなんだね?そういうことか?そういうことなのか?この爽やかイケメン男め!


 アルスの目がエルンストに行ったりディーナに行ったり忙しくなってると、マリアがコホンと咳払いをした。


 「アルスさま、ブドウの栽培にも成功したならワインの醸造なんかも出来そうですね」


 そう言われて、ハッと現実に戻されたアルスは慌てて取り繕った。


「そ、そうだね。確かに、ブドウならフルーツにもジャムにも、ワインとしても利用できる。エルン産ワインなんてのもいいかもね!」


「ワインか!いいですなぁ是非味わってみたいものですな!」


「そいつぁいいな!領内で生産出来るってなら安く手に入るだろうしな」


 ガルダとフランツの酒好き二人が妙なところで意気投合し合っている。地元で採れるワインなんて、酒好きにはたまらないだろう。


「ディーナさま、コレット殿!ケーキの試作品が出来ましたら是非私も一緒に味見に参加させてください!」


 ジュリが物凄い前のめりでビシッと手を挙げている。忘れてた。コーヒーに角砂糖が溢れても入れるほどにジュリは超甘党だったことをアルスは思い出した。


 もしかしたらケーキが出来るのを一番楽しみにしているのは、案外ジュリなのかもしれない。


「もちろんいいわよ、ジュリ!でも、食べ過ぎはダメよ」


 いつもすごい食べるのだろうか?ディーナが快諾しながらもジュリに釘を刺す。


「あ、それ私も参加してもいいですか?」マリアまで手を挙げている。「私もぜひ!」リサまで。


コレットとディーナは「もちろん!」と笑顔で答えた。


「えへへ♪」


 普段しっかりしているマリアがはにかむ笑顔を見せるギャップ。か、かわいい・・・・・・

 

 アルスが惚けていると「ええと、麦の生産についてはどうですか?」とマリアが仕切りなおした。


「はい、領内の麦の生産ですが、今年は去年に比べて十二倍の収穫が出来そうです」


 十二倍と聞いてみんなから驚きの声が上がった。去年は餓死者も出すほど酷かったから、比較元がちょっと酷いといえば酷いのだが。それを差し引いたとしてもかなり順調に伸びているのは間違いない。


「アルスさま、これだけの収穫なら住人がかなり増えても問題はなさそうですね」


「うん、マリアの言う通り、今も近隣から住民が流れてきていて人口が増えているけど、食糧問題が一番頭痛の種だったからねぇ。これでやっとこの問題から解放されるのは大きいな」


「次に武技教練についての報告をお願い」


「それでは私から」


 パトスが立ち上がって説明を始める。パトスはオーラの使い方を改めて詳しく説明した。


「皆さんは四つあるオーラの形質、すなわち「硬質」「軟質」「粘質」「霧状」をきちんと認識し意識的に引き出すことが出来ております。さて、すでに性質については訓練に取り組んでいます。改めて魔素についてもういちど整理いたします。形質だけでも様々な戦闘スタイルが生み出せますが、これに加え三つの性質、「大気」「火」「水」を加えることであらゆる事象を引き起こすことが可能になります。例えば、フランツ殿のような爆炎を生み出すのであれば、霧状にした魔素をベースにこれを熱しながら大気を圧縮するという性質を加えることによって爆発を引き起こします。言うのは簡単ですが、この性質については扱いが非常に難しい。この性質に関しては私とジュリ、フランツ殿、そしてアルスさまだけが今のところ扱えるといったところです。これに関してはディーナさまの護衛役だったベルも未習得です」


「あ、いや・・・・・・」


 そう言われてベルは少し恥ずかしそうにした。鬼人族のメンバーの中で圧倒的に武技に優れているのはパトスだ。次にジュリといったところだろうか。


「とはいえ、時間をかけてキッチリと鍛錬していけば習得は可能です」


「そういや他の三人のはまだみたことないな。どうなんだ?」フランツが突っ込んだ。


「フランツ殿、いずれお見せする機会もあるだろうが手の内をそうそう明かすものではないかと」


「なんだよ!じいさん、今散々おれの手の内明かしまくっておいて!」


「ほっほっほ!」


「それはフランツが自分から先にバラしてるからでしょうが!」


 アルスが思わず突っ込みを入れたので、どっと笑いが起きた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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