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ゴールデンレシュノルティアの販路確保

「それから、先ほど鍛冶師、建築士合わせて合計五十六名が移住したいと述べましたが、家族を帯同する者が多くなる予定です」


「実際にはどれくらいが移住するのかな?」


「まだ検討中の家族もいるのでリストが出揃ってはいないのですが、今わかってる数字でも百五十名前後です。恐らく二百五十名前後ぐらいの数字になるかと思います」


 やはり、本格的に移住するのであれば家族も含めてそれぐらいの数字にはなるだろう。アルスも予想はしていたことだった。


 出稼ぎで期間中だけ鍛冶をしてもらうというわけにはいかない。


「わかった。とりあえず、こちらの兵舎に空きがあるから。申し訳ないけど家が出来るまではそちらで寝泊まりしてもらうことになっちゃうけど、それでもいいかな?その点を特に赤ちゃんがいるような家族には伝えてもらえたら嬉しいな。」


「わかりました、伝えておきます。恐らく大丈夫でしょう。鍛冶師と建築士の集団です。彼らは自身の家くらい朝飯前なはずですから」


「それは頼もしいね」


 朝飯前とはいっても幼い子供や赤ちゃんがいる家庭は、優先的に空いてる一軒家に住んでもらうようこちらも準備は進めておく必要はあるだろう。


 赤ちゃんがいるような家族を兵舎に押し込めておくわけにはいかない。


「よろしくお願いいたします」


「アルスさま、それだけの数の鍛冶師と建築士だと、さすがにこの領地では数が多すぎる気がするのですが。あぶれて廃業みたいなことになったりはしないでしょうか?」


 マリアの不安ももっともだ。予想していたよりもずっと多くの技術者がこちらに移住してくれることになったのだ。


「いや、その点は恐らく大丈夫だろう。武器の補充やメンテナンスを欲してるのは我々だけじゃない。一般の兵士もそうだ。それに、領民の数が増えれば兵士の数も増えていくだろう」


 ギュンターがマリアの疑問に答えてくれた。さすが、冷静沈着な男である。ギュンターの意見をアルスはさらに補足する。


「そうだね。中央に村を建設するわけだから仕事が足りないってことはないと思うよ。武器だけじゃなくて日用品もお願いしたいしね。しばらくは、家や施設の建設の受注ばかりになってしまうとは思うけど、それでもどちらも欠かせない職業だからね。住むところが増えれば人口も増える。そうすれば、民間からも注文が入って経済は回るようになるって算段さ」


「まぁ、そこまでいくにはまだ時間はかかりそうだが、見通しは明るいってことだな!」フランツも乗ってきた。


「ほぼ0からの発展だったからね。人口が増えれば水車のメンテナンスや新規建設も進めないとだし。やることは多いよ。でも、その分チャンスもたくさんあるはず」


「すみません、私の杞憂だったようで」


「マリアが謝る必要はないから。大丈夫だよ!」


 アルスがニッと笑って答えた。そこで話がまとまるといよいよゴールデンレシュノルティアの件に話題が移った。これこそが今回の本命である。


 街の発展のためには鍛冶師や建築士も必要だが、やはり先立つものがないと話にならない。結論から言えば、リヒャルトは快くゴールデンレシュノルティアの買取りを受け入れてくれた。アルスはリヒャルトにお礼を言いつつ、買い取り額について尋ねた。


「どの程度の値になりそうですか?」


「エリクサーの需要が最も高いのはやはり軍隊です。ですが、私の領地では戦がありませんのでそれほど需要がないのが実情です。ですから、殿下のところから買い取らせて頂いてそこから再販をする形になります。今のレートですと、エリクサー一本の材料につき小金貨一枚と銀貨三枚でいかがでしょうか?」


「こちらとしてはかなり良い条件だけど、リヒャルト伯爵はそれでいいの?」


「ええ、もちろんです。私としてはこれからも殿下には懇意にして頂きたいのです。はばかりながら、今回の事件を共闘させて頂いて、私は殿下の人柄や知勇に惚れ込みました。あなたのような方が今の世界には必要なのだと思います。殿下のお役に立てるならば、この程度安いものです」


「ありがとう、正直金策には苦労していたから助かるよ」


 アルスの表情から緊張が抜ける。ノルディッヒ州は国境線沿いの州だが、隣国のレーヘとは同盟関係にあるため戦争に直面する機会は少ない。


 そのため、エリクサーの直接的な需要も少ない。正直もっと買い叩かれると思っていたのだ。


「それで、一か月の買取量なのですが二千本までなら私の方で捌けると思います。いかがでしょうか?」


「二千本となると、小金貨二千枚に加えて銀貨四千枚分・・・・・・四億八千万ディナーリ。これなら不足している建材や建設費用も賄えそうですね!」


 マリアが嬉しそうに反応する。


 銀貨は十枚で小金貨一枚分に相当する。銀貨四千枚分というのは小金貨にすると四百枚ということになる。アルスが褒賞の儀でもらった金額が小金貨五百枚であることを考えても、一地方の領主が毎月の収入として簡単に得られるような額ではない。


 アルスが褒賞の儀で得たお金は、食料の配布やこれまでの水車の修繕や開発、村の開発などで底を尽きかけていた。更に、半年間無税にした影響で収入もほとんどなく金策に困っていたアルスにとってこの取引は本当に嬉しい。


「うん、これで一気に目途が立ちそうだよ。本当にどうしようかと思ってたからね」


 マリアの表情が明るい。秘書として相当悩ませてしまって申し訳なかったとアルスが思っているところへ、さらにリヒャルトが続けた。


「これは当面の購入予定量ですが、恐らくもう少し捌けるかと思います。もちろん現時点で確約出来るものではありませんが、もしご希望であれば二千五百本ぐらいはいけると踏んでおります」


「おおっ!アルスさま、どんどん売っていきましょうぞ!」


「いや、それは難しいと思うぞ」


「何故だ?売れば売るほどいいのでは?」


 ガルダのワクワクした顔がギュンターの指摘で曇っていく。ギュンター。どこまでも冷静な男だったりする。


「いくら売れると言ってもそれほどの高価な植物、期間はもちろん、栽培地も限られる。どうしても警備が厳重に出来るところでなきゃならん。となれば、生産にも限界があるというものだ」


「柵を建ててそこに警備兵を常駐させたらどうでしょう?」エミールがおずおずと提案する。


「柵を建てて警備兵を常駐させたら余計に目を引く可能性があるのでは?」

 

 どこまでも冷静な男に反論され、エミールはシュンとしてしまった。


「いや、エミールの案、それはいけるかもね」


 アルスが助け舟を出したことでエミールの雲った顔がパッと晴れる。


「本当ですか!?」


「うん、柵ではなくてぐるっと囲んでしまうんだけどね。肥料を使って他にも色々試験をしたいから、ちょうどそうした場所が欲しいと思ってたところなんだ。その一画にゴールデンレシュノルティアの栽培場も作ればいい。名称は試験農場とでもしておけば大々的にゴールデンレシュノルティアの栽培だとは思われないだろうし。そもそも、ほとんどの人は見たことすらないだろうから目立つこともないと思う」


「ふむ、それなら城の隣にでも作る方が良いかもですね。我々も城壁から監視が出来ますし」ジュリがアルスの案に頷いた。


「建築士の方々が到着したらそちらの設計図も頼んでみるのもいいかもしれませんね。でも、アルスさま、当面は中央に建設中の住居に集中しないとですよ?」


「マリアの言う通り、もちろんそのつもりだよ。まず住むところを確保してあげないといけないからね。と、いうわけでお待たせしてしまったのだけど」


「お話のほうはまとまりましたか?」リヒャルトが笑顔で問いかける。


「うん、こちらとしては月二千本の納品で当面お願いできたら嬉しい。余裕が出来たら生産量も増やしていきたいと思う」


「わかりました。私も殿下のお役に立てて何よりです。詳細についてはアチャズに任せますので、後日連絡を入れさせていただきます」


 こうして、話はまとまりアルスとリヒャルトは立ち上がって握手をする。アルスたちは、新たな人材と収入の確保に成功したのだった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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