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王子誘拐事件の顛末

 グランバッハ商業協会はマスコミからの追及を逃れるために沈黙を守り、裏で火消しと世論工作に躍起になった。彼らは大手新聞社に圧力をかけ、今回の事件とガーネット教の関与については、否定的な記事を立て続けに書かせた。


 しかし、他の新聞社や雑誌は神託戦争を引き合いに出し、執拗にガーネット教の関与を匂わすような記事を書き続ける。これは明らかにリヒャルトの工作の成果である。そして、何よりもこの事件で一旦火が付いた世論はもう止まらなかった。


 ノルディッヒの領民からは、異教徒虐殺という暴挙に王子まで狙われたとして、ガーネット教を追い出す運動が起こりデモが各地で頻繁に起こり始める。これをチャンスとみたリヒャルトの動きは早かった。次々と手続きを執り行い、民衆からの要望に応じるという形でガーネット教の宣教の禁止と、宣教師の追放令を出したのだ。


 領民たちはこのリヒャルトの迅速な対応に対して拍手喝采を送った。神託戦争が起きたときとは違い、領民の意志で追い出させるという形を整えたことによって、まるで正反対の結果になったのである。


 ガーネット教の追放が決まった後、リヒャルトは政務の合間を縫ってエルン城の大広間にてアルス以下主要メンバー全員と対面していた。


「アルトゥース殿下、この度は本当に助かりました」リヒャルトは深々と頭を下げた。


「いやいや、伯の手腕まさにお見事としか言いようがなかったよ」


「それで、例の件についてなのですが・・・・・・」


 リヒャルトはアルスに協力をお願いする際に出来ることなら何でも協力させて欲しいと伝えていた。アルスはその場では保留しておいたのだが、フランツによる救出劇が終わった後に2つのことを申し出たのだ。まず第一に鍛冶師と建築士の補充である。


 エルンでは、武器に携わる鍛冶師が不在のため緊急の課題として鍛冶師不足があった。フランツは今回の件でアダマンティウムの剣を手に入れたが、他のメンバーの武器や維持を考えると喫緊の課題であり、何より兵士の武器防具の調達・維持が出来なかったのである。


 同時に、エルン中央で進めている村の建設にも建築士が不足しており、家の設計や街の設計が間に合っていなかった。鍛冶師ほどでないにしろ、これも開発スピードを考えたら建築士不足は否めない。


 そして2つ目は、エリクサーの材料であるゴールデンレシュノルティアの販売経路の確保だ。アルスは魔素の結晶を活用することによって、ゴールデンレシュノルティアの大量生産に成功していた。これを材料にエリクサーの大量生産にも目途が立っていたのだが、アルス自身にそれらを捌く販路や伝手が無いのだ。


 エリクサーはひとつひとつが高価で貴重である。市場価格を壊すほどに販売も出来ないし、買い取り業者も限られてくる。これをリヒャルトに買い取ってもらうことで、資金確保に繋げようとしていた。


「鍛冶師と建築士の移住候補者をこちらで募りましたら、鍛冶師が三十四名、建築士が二十二名、合計五十六名が移住したいとのことでした」


「そんなにか!?」フランツがキラキラとした目で反応した。


「やれやれ、やっとこれでまともな武器が作れますな」ガルダも追随した。


「それはありがたいな。でも、彼らは本当にそれで良かったのかな?」アルスが尋ねる。


「ええ、もちろん無料でとはいきませんので、移住費用と当面の生活費はこちらで見るつもりです。むろん、彼らは一人親方をやって根を下ろしているような熟練の職人ではありません。工房の下で働いている連中が多いですが、その分若さと熱意があります。そして何より、鍛冶ギルド長のエハルトの働きかけが大きかったんです。彼はこれを新たなチャンスと捉えているようで、エルンを第二の鍛冶王国にしたいと思っているようです」


 さすがに、熟練した鍛冶職人や建築家がこぞってやってくるのは難しいということだろう。当然といえば当然だ。


 独立して親方をやっているのであれば向こうで仕事を受注するのが当たり前なのだ。そうした意味では若い職人は独立するチャンスを求めてエルンという新天地に期待をしてくれているのだろう。


「エハルトさんが。それは嬉しいな」


 アルスの脳裏にはエハルトの人の良い笑顔が浮かんだ。


「あのおやじに伝えてくれないか?この剣もらっちまってまだしっかりと礼も言ってないんだ」フランツが剣を指差した。


「よくあれだけの爆発で壊れなかったよ。毎回あんなんやってたら、普通の剣じゃとてもじゃないけどもたないね」アルスが呆れたように両手を振りながら答える。


「ああ、さすがにおまえの兄貴が使ってるっていう素材なだけあるわ。あれだけやって刃こぼれひとつしてねぇわ」


 フランツの場合、剣が刃こぼれするというイメージより、剣を爆発させて壊してるイメージしか浮かばないんだけどな、とアルスは心の中で思ったが口にしなかった。


「ほぉ、フランツ殿の戦闘スタイルでも刃こぼれをしないとは・・・・・・」パトスが珍し気に感想を漏らす。


「アルトゥース殿下、話の途中失礼ですが、こちらの方々は?」


 リヒャルトがパトスたちを見て尋ねる。やはり、リヒャルトもパトスたちの見た目に驚いたようだった。アルスはこれまでのいきさつをリヒャルトに話して聞かせる。リヒャルトは驚きながらもアルスの話を聞いて状況を納得したようだった。


「そうでしたか。この世界は広い、まだまだ私の知らない世界が広がっているのですね。アルトゥース殿下、改めて今後ともよろしくお願いします」


 そう言って再度リヒャルトはお辞儀をした。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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