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フランツの実力

 アルスが呆れてると、ファルクが突っ込んだ。先ほどのミルコとは比較にならない速さでフランツの目前まで迫ると同時に剣を横に薙ぐ。フランツの反応速度は異常だった。棒立ちのまま下段の構えで直前までいたかと思うと、ファルクが目前に来ると同時に身を屈めてファルクの剣を下から弾き返す。


 そこからの斬撃の応酬は凄まじいものだった。剣と剣がぶつかり、弾き合い、軌道を逸らす、その衝撃の度に火花が散るのだ。もはや常人の目ではなんの得物を使って戦っているのかさえ分からない程の速さで、剣撃の音が重なり、火花が飛び散っていく。


 三、四十合の打ち合いをしているとファルクのオーラが更に濃さを増した。部屋に灯された明かりがチカチカと点滅すると、部屋全体が霧に包まれる。次の瞬間、光が乱反射してファルクの姿が二重にも三重にも見えた。


「終わりだ」ファルクが叫ぶ。


「ハッ、どうだか」


 刹那、霧と光の反射とで三人のファルクが同時にフランツに剣を打ち込んで来る。フランツはこの時、初めてオーラを顕わにした。すると、三人のファルクを相手に今度は斬撃の応酬が始まる。


 ファルクはフランツに攻撃を加えながら巧みにオーラの作り出す幻影と本体とを織り交ぜていたが、その全ての挙動をフランツに見破られてしまっていた。


「くそっ、何故だ?」


「おまえだけがこの形質のオーラを使えるとは限らんだろ?」


「どういう意味だ!?」


「さあな?だが、オーラの揺らぎが丸見えだぞ?」


 フランツはニヤッと笑いながら、剣先を向ける。その先には正確にファルクの位置を指していた。


「なっ!?有り得ない!」


「こんな姑息な戦い方は全然好きになれねぇな。やるなら正面からぶち破るのが剣士ってもんじゃねーのか?」


 ファルクの脳裏には昔の苦々しい思い出が蘇ってきていた。ファルクが十傑に入って一年以上が経過したころだ。ベルンハルトの十傑と呼ばれるメンバーは名声と富を手に入れることが出来た。ファルクは王都で、その富と名声を利用して酒と女に溺れていた。


 ある夜、ファルクのお気に入りの女が街のチンピラ共三人に絡まれたことを後で知ると、ファルクは激怒する。そして、三人のチンピラのみならず彼らの家族まで皆殺しにしたのだ。その事件は新聞記事にも載り、報せはベルンハルトの耳にも入ってしまう。


 ベルンハルトはファルクを十傑のメンバーから外すことを決定した。それをファルクの元に知らせたのが第四席であるバーバラである。バーバラはファルクを十傑のメンバーから追放すると告げたが、ファルクはそれを拒否した。当時のファルクはそもそも自分が外されるなど思ってもいなかったし、そう告げられても信じなかったのだ。


 聞く耳を持たないファルクに対し、説得を諦めたバーバラは「じゃあ、あたしに勝ったらこの話は無かったことにしてあげる」と言う。当然、そんな話を認められなかったファルクは戦うという選択をする。結果から言えば、ファルクの実力では到底バーバラには及ばなかった。


 思い出したくもない思い出が目の前の男を呼び水として次々と記憶が浮かび上がってくる。この男はバーバラと同じだというのか・・・・・・?

 認めない、認めないぞ、こんなところでくたばってたまるか!


「どうした?全力で来い!」フランツが挑発する。


「くっそがぁぁぁぁ!!!」


 ファルクは再び大気が震えるほどのオーラを身体に込める。それを見てフランツもオーラを込めるとファルクのオーラと共振し始めた。直後に部屋全体の温度が一気に上がり始める。


「あちちちっ!」思わずアルスが叫ぶ。


 石床がまるで火にかけられたフライパンのようになっていく。


「きゃあああ」という叫び声がアルスの隣のずた袋からも聞こえた。恐らく気を失っていた身代わりの少女がこの熱さで目を覚ましたのだろう。フランツめ、僕らがいること忘れてんじゃないだろうな!?アルスが咄嗟にオーラを張って少女を含む周囲を保護した。



 ドンッ!!



 ファルクの踏み込みの足音が部屋中に振動した。そして、ファルクの剣とフランツの剣が交差した瞬間だった。




 ズドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!




 物凄い爆発音がアルスと少女を襲った。フランツがブラストエッジと名付けた技だろう。部屋の真ん中にあった机は粉々に吹き飛び、濛々と舞う粉塵をキラキラと反射させながら、天井からは月明かりが差し込んでいた。アルスがオーラを張っていなければ爆炎と爆風でふたりとも吹き飛ばされていたに違いない。


 フランツが放った爆炎のせいでアジトの壁と天井は、すっかり吹き飛んでなくなっていた。ファルクは火傷を負った状態で吹き飛ばされていたが、僅かに息がある。さすがにオーラで全身に身体強化を施しているだけあって、あの爆炎の中でも生き残ったのだろう。


 あとから駆け付けたリヒャルトの部下たちがエリクサーを飲ませて回復させていた。彼らは重犯罪人としてリヒャルトの下で裁かれるだろう。


「おい!フランツ!おまえもうちょっと手加減しろよ!」アルスがフランツに向かって怒鳴った。


「何言ってんだ、あいつが死なないようにちゃんと手加減はしたぜ?」


「床はあっつくなるし!爆風で吹き飛ばされそうになるし!?僕がいなかったらこの子死んでたよ!?」


 そう言って、アルスはまだずた袋の中で横たわってる少女を指さした。


「その辺は計算済みだわ」


「どこがだよっ!?」


「だって、おまえのお陰で死んでないだろ?わははははは!」


「わははははは!じゃないっ!あほかぁぁぁ!」


 そんなやり取りをしつつ、無事?に救出されたアルスたちは、すぐに一大事件として各新聞社の一面記事を飾ることとなった。活版印刷所をフル稼働して連日に渡って紙面を賑わせることとなったのだ。三大商会ギルドの息のかかった大手新聞社もさすがにこの大事件を無視するわけにはいかず一面記事として取り上げざるを得なかった。


 しかし、ガーネット教の関与は一言も触れてはいない。恐らく一般の事件として終わらせるつもりなのだろう。ところが、他の新聞社や雑誌はガーネット教の関与が強く疑われるという記事を一斉に書いた。


 リヒャルトが裏から手を回していたのだろう。いずれにしても効果は絶大だった。今回の件で一番慌てたのは三大商会ギルドとガーネット教である。まさか、エハルトを脅すための手段として捕らえた人質が、この国の王子であるとは夢にも思わなかったのだ。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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