フランツ VS 元ベルンハルトの十傑
フランツはアルスを見つけると小声で話しかけた。
「おい、今の奴だろ。どう考えても」
フランツもすぐに気づいたらしい。
「ああ、多分襲撃は今日か明日だと思う。てか、なんでここに来てるの!?」
「こっち来てからずっと張り付きで武器探す暇ないんだからさ。頼む、さっきの剣見せてくれよ」
「もう、緊張感ないなぁ~」
「ほれほれ、いいからいいから♪」
アルスが先ほどの剣を持ってくると、フランツは剣を鞘から抜き放つ。オークルの刀身は陽光に照らされて鋭い光を放っていた。フランツは何度か剣を振る。
「おお~!すげぇなこれ。振っても重心にブレがない。おやじ、これ貸してくれ♪」
エハルトはアルスとフランツの様子を見て状況を飲み込み、快諾した。
「こんな時だ、貸すだなんてケチ臭いこと言わんよ。おまえさんが持っててくれ」
「いいのか!?悪ぃな、おやじ。絶対に役立ててみせるぜ」
そう言って、フランツは意気揚々と店を出て行った。
「エハルトさん、すみません」アルスがすまなそうにエハルトに謝った。
「なに、いいってことですよ。こんなことで少しでもお役に立てるなら」そう言ってエハルトは笑った。
※※※※※
襲撃はその日の夜に起こる。アルスがエハルトの使いとして消耗品の買い出しから帰る途中、人通りの少ない通りを歩いている一瞬を襲われた。その手際は敵ながら見事である。ひとりがアルスの前から近づいて注意を引く間に、もうひとりが買い物袋を抱え込んだアルスの後ろに回り込むと気絶をさせるために手刀を首に叩き込んだ。
アルスはオーラを身体全体に薄く纏わせガードしていたが、手刀で気絶する振りをする。アルスの抱え込んだ買い物袋の中身が散らばる。あっという間に口を布で塞がれ、もうひとりが抱えているずた袋に詰められたアルスはそのまま襲撃犯のアジトまで運ばれた。広い部屋の中には既にもうひとつのずた袋が転がっていた。
「兄貴、こいつら袋から出しておくか?」部屋の中に入ると、男たちの話声が聞こえてくる。
「いや、あいつらから連絡があるまで放っておけ。袋から出して置いたところで面倒なだけだ」
「了解。んじゃ、あとは待つだけで俺らの仕事は終わりか」
アルスはふたりの会話から、既にエハルトの娘(実際には娘役のリヒャルトの部下)が既に捕まっていることを察する。指先にオーラを集中させ、ずた袋に小さな穴を開けると何も無い大きな倉庫のような部屋の中に運ばれてきたことがわかった。
その部屋の真ん中に小さな机がポツンと置いてある。部屋の周りには窓も何もなく、出入り口は古びたドアひとつだけだった。すぐ隣にもうひとつの大きな袋が転がっている、恐らくエハルトの娘役をしていた部下だろう。しばらくの間、沈黙が流れていたが突然ひとりが叫んだ。
「誰だ!?」
「休憩中悪ぃな。暇だと思って遊びに来てやったんだよ」
あの声は・・・・・・フランツだな。
「何言ってんだこいつ!?ふざけやがって!」
「おい、待てっ!ミルコ」
ファルクが叫んだ時にはミルコは短剣を抜いていた。両手に短剣を構えると一気にフランツが立っている場所まで距離を詰めていく。ミルコは突然の侵入者に対して激情しているように見えたが、その動きは無駄がなく速かった。
さすがにふたりだけでここまで暗殺を実行してきただけある。軍隊であれば、間違いなく隊長クラスだろうな、そうアルスは思った。ミルコはフランツに対して息つく間もない連撃で反撃の隙を与えないような攻撃を繰り広げる。
首、胸、脇と上、下、斜めからと狙っていく。その一撃一撃が当たれば致命傷になるような狙いばかりだ。しかし、フランツは紙一重で全てかわしていく。焦ったミルコが首への一撃を繰り出す刹那、フランツは最小限の動きでかわしながらミルコの手首を掴み、捻り上げた。手首に力が入らなくなったミルコの短剣が落ちると同時に、手首を捻られながらも、ミルコはもう片方の短剣でフランツの胸を切り上げる。かに見えたが、ズドンッッという音とともにフランツの蹴りがミルコの腹に直撃していた。
ドガンッッ!
ミルコの身体はフランツの蹴りで吹き飛び、衝突した衝撃で壁がめり込んでいる。ミルコが激突した壁の周辺は辺り一面にヒビが入っていた。
「さて、あとはひとりか」
フランツがいつもの悪戯っぽい笑顔に、殺気を山盛りにトッピングしたような顔で笑っている。
「俺をそいつと一緒にすんなよ」ファルクが剣を抜いた。
「闘る前に一応聞いておきたいんだが、おまえさんらの雇い主ってのは誰だ?」
「ハハッ、バカかおまえは?んなこと喋る間抜けがどこにいる?」
「そうかい。ま、いいや」
そう言って、フランツも剣を抜いた。明かりに照らされたオークルの刀身が煌めきながら、鋭い光を乱反射させている。
ファルクは剣を構えたまま、フランツの持つ剣に視線が釘付けになった。その剣は、ファルクが昼間エハルトの店で見た剣と同じものだったからだ。
「おまえ・・・・・・その剣!?」
「ん?ああ、これか?俺が武器使うとすぐ壊れちまうもんでな。丈夫な武器をちょうどこの街で探していたんだよ。さっきは使う暇もなかったからな。ちょっと試させてもらうとするさ」
「そうか・・・・・・そういうことか。俺たちは泳がされていたってわけだな」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、かかって来な」
「チッ、てめぇのおかげで台無しだ」
言ってる間にファルクの雰囲気が急に変わる。ぶわっと空気の色が変わっていく。ビリビリと振動する大気に合わせてミルコが衝突してめり込んだ壁の破片がトントンとダンスを始めた。
その大気の波紋は急速に広がり今度は壁建物全体が揺れ始める。ファルクから放たれるそれは常人のオーラ量を遥かに凌駕していた。
フランツは?と思ってちらっとアルスは顔を見た。
笑ってる・・・・・・。はぁ、そういえばあいつ戦闘バカだった、ちらっとでも心配しただけ損をした気分だ。
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。