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鍛冶ギルド長 エハルト

 その作戦内容を聞いたリヒャルトは困惑し、何度も反対した。が、最終的にはアルスの猛烈な説得により丸め込まれてしまい、護衛を付けるという条件のもとで渋々賛同せざるを得なかった。


 作戦内容はこうだ。アルスがエハルトの子供のひとりに扮装して、わざと攫われる。そこを救出部隊に助けられることにより、全貌を明るみに出そうというわけだ。一国の王子を拉致監禁したとあれば、それは国家の大問題になる。今回の件でガーネット教が関わっていることを立証するのは困難かもしれないが、その点は余り気にしなくていい。


 ガーネット教が神託戦争にて異教徒を虐殺していたことに触れ、世論を扇動していけばいい。あくまでポイントなのは一国の王子が拉致されたという点である。この点だけで危険分子を追い出す必要があるという大義名分を作り上げるのだ。


 尚、この件はノルディッヒ地方だけで済む話ではなくなる。当然、アルスが治めるエルン地方含め、ローレンツ国内から今後ガーネット教を招き入れない強烈な砦が完成することになる。リヒャルトは三大ギルドの進出を阻止した稀有な領主であったが、その後のガーネット教の浸食による現状を見れば、その脅威はアルスの治めるエルン地方にも同じことが言える。アルスがこの作戦に固執するのは、そういった理由があるからこそだった。


 アルスはリヒャルトとの長い議論を終え、フランツに作戦の詳細を伝えた。救出作戦の要はもちろんフランツの力量にかかって来る。


「なるほどな。ちょっとべたべたな作戦のような気がするけど、その分効果は高いってことか?」


「そういうこと!」


「なんだ、結局俺がお前に付いてきて正解だったってことじゃないか」


 フランツは悪戯っぽいいつもの笑みを浮かべた。


「あはは~、まぁ結果的にはそうなっちゃったね。ほんとは、話だけしてあとはゆっくり観光でも出来ればと思ったんだけどさ」


 すまなそうな笑顔をアルスが返す。


「てことなら、今日からおまえはそのエハルトの家に泊まるのか?」


「どんなに急いでも明日だね。まだこのことはエハルトを含め、本人たちすら知らないから一度話をする時間が欲しいとのことだった」


「襲撃が今日来た場合はどうするんだ?」


「そのためにもちろん今日はふたりで張っておくよ」


「その前に襲撃が来たらどうするんだ?」フランツにそう問われて、アルスは少し考えながらおどけたように答えた。


「救出しながら入れ替わるしかないね」


「おま・・・・・・言ってること無茶苦茶だな・・・・・・」


「あはは・・・・・・」


「あはは、じゃねぇよ。ったく、しょうがない、今日来ないことを祈るしかないか」


 その日の夕方、エハルトの家に着いたふたりは徹夜で家の周囲を見張ったが幸いその日は襲撃犯が現れることはなかった。次の日の午前中にアルスはダゴンの部下から連絡をもらいエハルトの息子と入れ替わることに成功する。


 エハルトの息子と娘はダゴンの部下が安全な場所で匿うことでエハルトも了承したとのことだった。娘はリヒャルトの部下から選んで年恰好の近い者と入れ替わっている。これで警護体制は万全に整った。あとはガーネット教の襲撃を待つだけとなったが、アルスはエハルトと話す必要があった。


 息子として振る舞うためにもエハルトと話す必要があったが、アルスは何よりも三大ギルドについての情報が知りたかった。


 エハルトはアルスを見るとよれよれの帽子を取ってお辞儀をする。年齢は四十代半ばだと聞いていたが、それよりずっと年上に見えた。それだけエハルトの身上に起きたことが辛かったのかもしれない。実際、エハルトと話をしてみると無骨だが非常に気さくな性格であった。ずっと、鍛冶職人として仕事に向き合ってきたのだろう。そんな人となりをエルンの鍛冶師ガムリングと重ね合わせて、アルスはなんとなく懐かしい感じに親近感を覚えた。


「殿下、申し訳ありません。殿下にこのような恐れ多いことをさせてしまうなど。本当はあってはならんことだと儂でもわかります」


「構わないよ、僕が望んでやってることだから。それより知りたいのは、何故エハルトがこれほどまでに狙われてるのかってことなんだけど」


「ああ、儂にもガーネット教に狙われる覚えはさっぱりですが、先ほどの殿下のお話通りということなら」


「三大ギルド・・・・・・」


「ええ、奴らから狙われる理由なら山ほどありますな」


 そう言うと、エハルトは家の中にある工房に案内した。工房の中には剣や短剣、斧、槍から薙刀までありとあらゆる武器が並んでいる。その並べられた武器の数々を見ながらエハルトはぽつりぽつりと話し始めた。


「御覧の通り、儂は曾祖父の代からここで武器鍛冶をしてきました。鍛冶をする連中にとっちゃ戦争が無くて安定した政情の土地っていうのは宝なんです。鍛冶仕事なんてのは、ほいほい移転できるような仕事じゃない。そこに長い年月かけてより良い物を作るためには戦争なんてあっちゃいけないんです」


 アルスは黙って頷いた。その反応を見てエハルトは自嘲気味に笑った。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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